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【大分・新旧指揮官対談/後編】片野坂知宏×下平隆宏。Jリーグの現場から見たサッカートレンドの変化

2023.12.06

2016年から6シーズンにわたって大分トリニータを率いた片野坂知宏氏が、解説者として大分のグラウンドに練習取材に訪れていた10月下旬。高校選手権で対戦して以来の盟友だった片野坂氏からチームを受け継いだ下平隆宏監督と、昨今のサッカー戦術トレンドやそれに対応するためのトレーニングや指導をテーマに、対談を組んだ。

その後、2シーズン目を終えた下平監督は今季限りで大分を離れることになり、後任として来季からは再び片野坂監督体制となることが決まった。対談の時点では当事者を含め、誰も予想していなかった展開だ。そんなシチュエーションも前提にしながら、2人の智将が繰り広げためくるめくサッカー談義を楽しんでいただきたい。

後編では、Jリーグの現場で戦う2人の指揮官から見たサッカートレンドの変化、そしてその中で監督に求められることについて考える。

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「浅田飴」が必須?試合中の監督の指示出しへの本音

――今後、サッカーのトレンドはどう変化し、その中で選手やトレーニングに求められるものはどうなっていくというようなことは、予想できますか。

下平「どうかな……それはやっぱり監督のそれぞれの個性や哲学じゃないかな。ただ1つ言えるのは、監督がどこか新しいチームを引き受けたら、そこにいる選手やクラブのアイデンティティを見たりしながら、方向性がまた決まると思うので。最初から一方的に『こういうのがやりたい』だけじゃないと思うし、それプラス、チームのもともと持っているものを上手く噛み合わせて作っていくもの。トレンドももちろんあるだろうけど」

――単純に大分での片野坂さんと下平監督を比較しても、片野坂さんは90分間ずっと指示を出し続けていて、下平監督はあえて指示せず見守っているときがあります。選手の受け止め方はどうでしょうか。

下平「横浜FC時代はコロナ禍で観客が少なく応援も制限されて声がよく通るから、指示を出した方が得だなと思ってよく喋ってた。今はドームで声が届かないから、涸れるだけで。のど飴がいる(笑)」

片野坂「涸れたよ(笑)。おかげで浅田飴さんにスポンサーになっていただいたんだけど」

下平「ずっとピッチサイドで大声出してたら、夜、頭痛くならない?」

片野坂「なるなる。喋り過ぎたら喉も頭も痛くなるし、酸欠になる」

下平「そうそう! 酸欠になる!」

片野坂「僕が試合中に言ってるのは、起こり得そうなこととか気をつけてほしいこととか。準備してきた狙いと違っていたり、こっちがやってほしいことと違っていたりする時には、ピッチの中の選手たちに伝えるのね」

下平「その声、届く?」

片野坂「いやー、反対側はなかなか届かないね」

下平「僕は、ボールが切れた時なんかに僕が声を張り上げて指示を出して、選手が耳に手を当てて『はあ? はあ?』って聞こうとしている間にゲームが再開しちゃって、結局よくわからないままに『監督は何を言ってたんだろう……』とモヤッとしたままプレーされるのが嫌なんだよね。僕が選手の時にそうだったから。『え、監督、なに? 始まってるよこっち!』って思ってたほうだったから(笑)」

片野坂「そうだよね、『うるせえよ、やってるんだよこっちは!』ってね(笑)」

下平「だからどうせ聞こえないし、指示は最小限にしようと思って。そのぶんトレーニングで事前準備をしっかりしておこうとね」

5人交代制で複雑化したゲームプラン

――でも、想定外のことが起きるのがサッカーでしょう。プランB、Cで追いつかないこともありますよね。

下平「今難しくなってるのは5人交代制なので、プランをどんどん変えられるところ。そこに対応するのはなかなかしんどいよね」

片野坂「うん。時間軸で考えると本当にすごいね。点差や戦況によって、プランは本当にたくさん持っておかなきゃいけない」……

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下平隆宏大分トリニータ片野坂知宏

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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