リーガ第8節の2位レアル・マドリーとの首位攻防戦で敗れ3位に転落したものの、第2節から続いた破竹の6連勝で史上初の首位に浮上していた昇格2年目のジローナ。2017年8月から傘下入りしているシティ・フットボール・グループ内でも、マンチェスター・シティをはじめとする加盟チームに籍を置く有望株の武者修行先に過ぎなかったエレベータークラブが躍進を遂げている秘密を、スペイン在住の木村浩嗣氏と探ってみよう。
“隠れシティ”こそいるが…誤解されがちなCFGとの関係性
シティ・フットボール・グループ(CFG)傘下のジローナがリーガエスパニョーラで首位に立った、と聞くと、マンチェスター・シティ経由で優秀なタレントが流れ込んだせいだろう、と思う。だが、これは正しくない。
今季のチームでシティからレンタルされている選手はヤン・コウト1人しかいない。ドリブル力のある攻撃的な右SBだが、彼だってレギュラーではない。定位置を確保しているのは下部組織出身でスペインフル代表入りも間近なアルナウ・マルティネスである。
もっとも、“隠れシティ”が何人かいる。ヤンヘル・エレーラは昨季レンタルでジローナに加わり、今夏シティから買い取った。ジローナを含めてこれまでにニューヨーク・シティ、ウエスカ、グラナダ、エスパニョールと、実に5クラブにレンタルされた後に居場所を見つけたのである。同じ様にセントラルMFのアレイクス・ガルシアはシティからジローナ、ベルギーのムスクロンに貸し出され、ルーマニアのディナモ・ブカレストへ完全移籍。そこからエイバルを挟んで、一昨年夏に買い取った選手だ。
今季を含め1部経験が4季しかないジローナは、シティが見初めたタレントにとって魅力的なレンタル先ではない。よって、即戦力はジローナには来ない。いろんなクラブへ貸し出されているうちにたまたまジローナで花開いた選手が、本人とCFGの合意を得て本格移籍となり、真の意味で戦力化する。どんな素晴らしい活躍をしても、否、素晴らしい活躍をしたからこそレンタルの選手は1年で帰ってしまう。
例えば、昨季のチーム得点王タティ・カステジャーノスは、前年のMLS得点王の評判通りの活躍で14ゴールを挙げたが、ジローナが買い取る可能性はゼロだった。彼は今夏ニューヨーク・シティにレンタルバックされた後、ラツィオへ売却された。同じことが現在センセーションとなっているブラジル人ドリブラー、サビオにも起こりそうだ。来夏は保有権を持つトロワに引き取られ、どこかビッグクラブへ売却されるのだろう。ニューヨーク・シティもトロワもCFG傘下のクラブである。将来有望なタレントたちはシティからもCFG傘下クラブからもやって来る。だが、それは常にレンタルであって、才能が開花した途端に出て行ってしまう。つまり、CFGをあてにしていては戦力が積み重なっていかず強いチームにはなれないのだ。
また、CFGからの豊富な資金援助でジローナが強くなった、というのも違う。
ジローナの公式WEBを見てみると、プーマ以外はあまり聞いたことのないスポンサーが並んでいる。シャツの胸スポンサーの「Gosbi」というのは地元のペットフードメーカーである。スポーツサプライヤーが19-20シーズンからプーマになったのと、21-22シーズンから日産自動車がスポンサーに加わったのはCFGと足並みをそろえてのことなのだが、それで資金が潤沢になったわけではない。
22-23シーズンの売上高(予算ベース)ランキングでは下から2番目の19位。今季は昇格2年目だから数字が出そろえばもう少しランクが上がるだろうが、いずれにせよ弱小クラブであることには変わらない。ファイナンシャル・フェアプレーで監視されている今、CFGがバックについているからと言ってポケットマネーを注ぎ込んで補強するわけにはいかない。
“ジローナのモンチ”と“ペップの弟”が支える3つの補強戦略
では、なぜジローナは強くなったのか? 強くなったことにCFGが無関係なわけではない。
CFGとジローナの関係が始まったのは17年8月のこと。以降6季で1部生活が3季で2部生活が3季、昇格と降格を繰り返す典型的なエレベータークラブだが、それまでの90年足らずで1年しか1部生活がなかったことを考えると明らかに強くなっている。……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。