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マンマークを超克した“空白のレーン”という答え。伝道師グアルディオラが示したポジショナルプレーの進化

2023.07.17

チーム分析から紐解くポジショナルプレー#6

現代サッカーの主流な戦術的アプローチの1つとなっているポジショナルプレー。ただ、採用しているチームであっても実際にピッチ上で実践しているサッカーには差異があり、その実像を理解するのはそう簡単ではない。そんなポジショナルプレーの実像を、具体的なチームの分析を通してらいかーると氏が紐解いていく。第6回は、現在まで続くポジショナルプレーの“源流”ペップ・グアルディオラが指揮するマンチェスター・シティ。悲願のCL制覇を遂げた2022-23シーズンはアーリング・ホーランドの加入や4CBの採用などに伴いそれまでとは違う姿を見せたペップ・シティの変化も交えて分析する。

 ポジショナルプレーってなんですか?? この問から始まった連載が突然に再開されます。この連載の目的はポジショナルプレーをしているだろうチームが実際にどのようなプレーをしているかを分析し、実際の現象からポジショナルプレーを読み解いていくことです。しかし、連載が中断している間に時代は流れます。

 サッカーメディアを眺めていると、ポジショナルプレーの終焉という言葉を目にすることが増えてきました。終焉と言われると、「バカヤロー、まだ始まってもねえよ」と条件反射で言い返したくなる世代なんですが、真面目に答えると、ポジショナルプレーはすでにスタンダードなものになっており、なくなるものではないのではないかと考えています。

 ポジショナルプレーは、ペップ・グアルディオラによって世界中に広まっていったと言っても過言ではありません。ボール保持で結果を出すことがバルセロナだけでなく、バイエルンでもできるのか?という挑戦を経て、世界中でボールを大事にするチームが増えていきました。特に、代表チームでは猫も杓子も[3-2-5]の時代が訪れたほど。まるで[3-2-5]がポジショナルプレーの代表的な配置のような雰囲気さえ感じるところです。多くのチームがポジショナルプレーを装備していく中で、解釈違いや独自性が徐々に現れていったことは言うまでもありません。

 さて、今回は世界にポジショナルプレーを広げた張本人ことグアルディオラが率いるマンチェスター・シティを通じて、ポジショナルプレーについて考えていきたいと思います。終焉が叫ばれるように、ポジショナルプレーの基礎だけでは限界が見えてくる状況に対して、シティはどのようにポジショナルプレーを進化させてきたのでしょうか。

ポジショナルプレーの先駆者グアルディオラ

8対6でも8対7でもなく、11対10

 配置的優位性という言葉は、ポジショナルプレーと密接な関係があります。相手のプレッシング配置に対して明確な守備の基準点を与えないことは、ポジショナルプレーを標榜するチームにとって必須とも言えるでしょう。一般的な[4-4-2]系統のプレッシングを回避するために、[3-2-5]がその対策として流行したこともわかりやすい流れなのではないでしょうか。

 ただ、5バックを採用した時に困ることがあります。チームに質的優位をもたらしてくれるような選手をウイングバックに配した場合、その選手は最終ラインまで下がることになりますがそれは得策とは言えません。質的優位をもたらしてくれそうなウイングをできるだけ高い位置に置くために、または相手の配置に噛み合わせないために、多くのチームが可変式を採用しました。

 あとはイタチごっこです。最終ラインは相手の前線の枚数より[+1]にするサッカーの原則に従うと、自陣でのかみ合わせは【8対6】になる時代が長くありました。2人多いとなりますが、1人はGKなので、実際には【7.5対6】くらいになるでしょうか。いくらGKがフィールドプレーヤーのように振る舞う時代になってきたからといって、相手の間をドリブルで分断したり、相手のCFのマークをしたりする時代はまだまだ訪れないでしょう。そんな時代が訪れたら流石にビビります。

 目まぐるしく変わる立ち位置によって守備の基準点を定めることが大変になってきたプレッシングチームは、細かいことはいいんだよとマンマークに傾倒していきます。相手の前線に【+1】の原則はどこへ消えたとなりますが、最前線へ供給されるボールに対してはカバーリングでなんとかなる、もしくは、なんとかする!の精神で多くのチームがマンマークを採用する激動の時代になっていきます。

 【8対6】から、マンマークの流行によって【8対7】になったと言いたいところですが、一方でボールを運ぶために3トップがビルドアップに加わる時代にもなってきます。特にウイングの選手がその質的優位を使って、ボールを守る、ボールを運ぶ、攻撃の角度を変えることを実行するようになると、ボールを奪うことは至難の業となっていきます。さらに、0トップに代表されるように、CFの選手が中盤に加わり、WGの選手が裏抜けを狙うような仕組みも誕生していきました。……

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ポジショナルプレーマンチェスター・シティ

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

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