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対バルセロナ3連敗中のレアル・マドリーが突くべきポイントとは? 東大ア式蹴球部テクニカルユニットによるスカウティングレポート

2023.04.05

4月5日、ここ1カ月で3度目となるクラシコが実現する。ここまで2度の対戦は、いずれもバルセロナが勝利。1月のスーペルコパでの激突も含めると3連敗となったレアル・マドリーが、宿敵の牙城を崩しコパ・デルレイ決勝への切符をつかむにはいかな策が必要になるのか。今回は、東大ア式蹴球部テクニカルユニットにスカウティングレポートの作成を依頼。優れた分析力を駆使して、レアル・マドリー視点でのバルセロナ対策を導き出してもらった。

 最初に、スカウティングについて簡単に説明しておきます。スカウティングとは「対戦相手の分析を行い、それに応じて自チームの振る舞いを選手に意識づけ、勝利の確率を上げる」ものを指します。分析にはさまざまな階層や粒度のものがありますが、ここで強調しておきたいのはスカウティングはゲームモデルの分析でもなければ、マッチプレビューでもないということです。

 ゲームモデルはチームの意思決定基準であり、チームがどのように振る舞うかを規定したものです。ただ、注意したいのはゲームモデルを持っていないチームや不明瞭なチーム、あってもそれ通りに遂行できないチームが世の中の大半を占めています。ピッチレベルで選手にスカウティング内容を伝える上では、ゲームモデルにのっとった結果出力されるピッチ内での現象を伝えれば良いに過ぎません。さらに言えば、試合の展開を決めるのはゲームモデルではなく、それを対戦相手向けにチューニングしたゲームプランであることが多いです。ゲームモデル分析ほど上の階層の分析は必要とされていないと言って良いでしょう。

 一方でマッチプレビューとの大きな違いは、そこにスカウティングの結果を伝えるべき自チームの選手が存在しているかどうかです。当然、分析結果に応じてどういったプレーを意識してほしいのかといった働きかけや伝え方の部分が大事ですし、自チームの戦力を鑑みた上でチーム力的に採用できない戦術を提案するべきではないです。選手に納得感や勝利のイメージをつかんでもらうことが最優先と言え、そこがプレビューと根本的に異なる部分でしょう。

 ここではコパ・デルレイ準決勝第1レグ、ラ・リーガでのクラシコ2連戦を終え、ともに敗れたレアル・マドリーを仮想自チームとし、コパ・デルレイ準決勝第2レグのバルセロナ戦に向けて、バルセロナの4局面を中心に分析しました。繰り返しにはなりますが分析結果はもちろんのこと、選手への伝え方や分析内容の見せ方が一番の肝なのですが、そこは媒体の都合上割愛しています。

バルセロナの基本情報

 最初に、バルセロナの基本情報を整理します。実は4局面の分析と同じくらい重要なのがこの部分であり、直近の勝利や監督の情報、さらにはスタメンの利き足や年齢という情報は、勝利を目指す上で非常に重要になってきます。特にリーグ戦の場合は、相手の順位や置かれている状況(昇格争いをしているのか、連敗がかさんでおり、ソリッドな対応をしてきそうなのか)を伝えることも大事になってきます。

 リーガでの成績は23勝2分2敗、53得点9失点で1位と、圧倒的な勝率と失点の少なさを誇っています。今季はロベルト・レバンドフスキが17得点と得点者にやや偏りが見られるものの、それを除けばアタッカー陣が満遍なくゴールを決めており、レバンドフスキを失うと厳しいものの、極端な質的依存というわけでもなさそうです。選手層に関してはレバンドフスキ、セルヒオ・ブスケツ、セルジ・ロベルトらが30歳を超えているものの、全体的に見れば非常に若く、強度も担保されていると見て良いでしょう。

 今季の直接対決成績は以下の通り。4局面の分析を行う上で、この直接対決の情報は非常に重要です。先述した通り、チューニング済みの相手のゲームプランを直接読むことが可能になるからです。ここで注目したいのが、バルセロナが負けた10月16日の試合ではロナルド・アラウホが欠場していたこと。今回もケガが懸念材料でしたが、直前のエルチェ戦で復帰していたためスタメンに食い込んでくると予想します。

2022年10月16日 ラ・リーガ第9節    バルセロナ 1-3 レアル・マドリー
2023年1月6日  スーペルコパ      バルセロナ 3-1 レアル・マドリー
2023年3月3日  コパ・デルレイ第1レグ バルセロナ 1-0 レアル・マドリー
2023年3月20日  ラ・リーガ第26節    バルセロナ 2-1 レアル・マドリー

 その他の情報としては、バルサは中3日、マドリーは中2日で試合に臨むこと、そして何より第1レグを0-1で落としているマドリーにとっては、絶対に勝たなければならない試合という位置付けであることです。逆に言えばバルセロナはスタイルであるボール保持を試みつつも、ハイプレスでリスクを犯すことはせず、押し込んだ際もネガトラでのリスク管理を徹底してくると考えられます。

 最後にメンバーの予想です。バルセロナの前回対戦との最も大きな違いは、ウスマン・デンベレ、ぺドリに加えアンドレアス・クリステンセン、フレンキー・デ・ヨンクも欠場が濃厚であり、主力の離脱が続いていることです。今回のクラシコではクリステンセンの代わりにマルコス・アロンソ、フレンキー・デ・ヨンクの代わりにケシエが抜擢されると予想しましたが、ケシエではなくガビを中盤に回してフェラン・トーレスもしくはアンス・ファティをワイドに使ってくる可能性もあります。ただ、引き分けでも突破が確定している事実、まずは守備からという姿勢でくることが予想されるためケシエとしました。

 なお、シャビ監督は4月2日のエルチェ戦でエリック・ガルシアのピボーテ起用を試みており、実際にビルドアップ時の配球力などを見れば及第点の出来でした。しかし、ネガトラ時のポジショニングや球際の強さにはやはり一定の課題があると思われるため、今回の対マドリーでは使ってこないであろうと想定しています。

バルセロナの4局面分析

 ここからは、バルセロナの局面ごとの分析に移ります。東大ア式蹴球部では、自陣での攻撃、敵陣での攻撃、敵陣での守備、自陣での守備という順序で説明し、各局面の分析結果を選手に伝えた後で、それを踏まえてどのようなポイントを試合中に意識してほしいかを伝えています。この順序にも理由があり、最後をバルセロナの自陣での守備、つまりマドリーの敵陣での攻撃という局面で終わる方が、無意識にゴールへのイメージが膨らむからです。

1_自陣での攻撃(=マドリーの敵陣での守備)

 まずはバルセロナの自陣での攻撃について見てみましょう。基本配置は[3-2-5]のような形であり、左サイドはウイングのガビが左のハーフスペースに入り、SBのアレハンドロ・バルデが左の大外レーンに立つ形。右はセルジ・ロベルトが内側のレーンを、ラフィーニャが大外を占める形を前回対戦では取りました。ファティが出場した場合は埋めるレーンに若干の違いが生じるものの、基本的な配置は同じだと予想できます。バックラインはと言うと、SBで起用された際のアラウホはサイドで張るようなポジションを取りラフィーニャと縦関係、左サイドはフレンキー・デ・ヨンクが下りてブスケツとダブルボランチを組んだり、あるいはもう1列落ちてSBの位置で前進を助けたりといった形でした。今回はフレンキー・デ・ヨンクが欠場となるため、同じ役割を左インサイドハーフ(IH)を務める選手に求めることにはなると考えられますが、どこまで遂行できるかには疑問符がつくでしょう。

 ビルドアップの前進パターンは似通っていて、大半は左サイドが起点となります。左サイドはIHの列落ちに加えて、左のハーフスペースを埋める選手(リーガでの対戦時は左ウイングのガビ)がライン間とその手前の2つのスペースにタイミング良く顔を出すことで、常に出し手と受け手のリンクが切れないポジションを取っていました。時にレバンドフスキやフェランが下りてきて周囲とのコンビネーションで前を向くこともあり、ハイプレスをひっくり返し一気にゴールに攻め立てるシーンがこれまでに数多く見られています。これに対してマドリーが人を埋めるように左サイドへ寄ってきた場合、右で張るアラウホまで飛ばして前進、というのも前回の対戦でよく見られた形です。……

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バルセロナレアル・マドリー

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東大ア式蹴球部テクニカルユニット

「社会・サッカー界に責任を負う存在として日本一価値のあるサッカークラブとなる」という存在目的の下、「関東昇格」を目指す東大ア式蹴球部(サッカー部)の頭脳としてサッカーの分析を行いチームをサポートするユニット。2011年に創設され、約20名が分析専門のスタッフとして活動している。近年は先進的なデータ分析やサッカー界への発信に意欲的に取り組んでおり、海外のプロクラブと提携するなど活動の幅を広げている。

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