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戦術でも、ストーリーは紡げる。普通じゃない「代表本」が投じた一石

2023.03.02

『森保JAPAN戦術レポート』発売記念企画#3

2月9日発売の『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』は、大ヒット作『アナリシス・アイ』の著者・らいかーると氏がアジア最終予選からカタールW杯本大会までの日本代表全試合を徹底分析しながら、森保ジャパン進化の軌跡と日本サッカーの現在地をたどっていく一冊だ。その刊行を記念して同じく戦術ブロガーのみぎ氏に書評をお願いしてみた。

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 初めて本を手に取る。いや分厚っ。驚いた。

 もっと薄い本を想像していたから、これは喜ばしい誤算だ。総ページ数なんと384。らいかーると、森保ジャパン、「戦術」レポート、この分厚さ。

 売れる。この本は、売れるわ。

 売れる要素詰め込み大会によって生まれたこの本に死角なし。成功を確信した。これが、私のファーストインプレッションだ。

 次に気になったのが、著者名である。

 らいかーると。

 この名前にまったく違和感を持っていなかった自分を、今さらながら自覚した。冷静に考えろ。オランダ人がオランダ語で「ケイスケホンダ」名義の本を出す。オフサイドや。そして気づいた。これは、平仮名だと可愛く見えることを逆手に取った悪用だと。いや、でも今や若い方々にとって「ライカールト」は「らいかーると」。疑うことなどすっかり忘れるほどに市民権を得たわけだから、やはり著者は凄い。ふらんくでぶーる、じゃないんだよな。らいかーると。絶妙だ。

著者名の“元ネタ”であるフランク・ライカールト

戦術論をキャッチーにする言い回しと感想戦

 さて、ひと通りイジり終えたので、ここからは中身の話をしたい。

 今回の新著は、フットボリスタWEBで長らく連載されていた、著者の日本代表記事を一冊にまとめたものだ。アジア最終予選からカタールW杯までの道のり、また、本大会での戦いぶりが淡々と(らいかーると流)マッチレポートとして記されている。

 ピッチ上で起きたことを一つずつ丁寧に拾い上げていくスタイルゆえ、読み進めるには、実はそれなりのリテラシーが問われるのは間違いない。そもそも、試合を観ていない人だって大勢いる。何をどう思い出して読めばいいのかわからないと言われたら、普通は「そうだよね」と返すだろう。そう、普通は。

 しかし、普通ではないのだ。

 だから、著者は今の地位を築けた。“平仮名らいかーると”が認められた所以である。

 それは、“らいかーると節”と呼ばれる、あの独特な言い回しだ。淡々と、と本人も認めながら、しかし妙にキャッチーな言い回しをするからニクい。つまり、読み物としても楽しめるのが、著者最大の特徴である。試合で起こる事象を一言でズバッと完結させる。有吉弘行を彷彿とさせる、その瞬発力とセンス。今回の本で誕生した「大会」「作戦」「状態」を発表する。

「いかにしてサイドバックにボールを届けるか大会」
「相手の変化に対して日本の選手が対応できるまでにどれだけの時間がかかるか大会」
「とにかくボール保持者にプレッシングをかけよう、ときにはGKまで襲いかかろう作戦」
「マンマーク大作戦」
「中山で跳ね返そう作戦」
「どうしたらいいねん状態」
「南野が前にいるから行くに行けない状態」

 やりたい放題だ。挙げ句の果てには、こうくる。

「セカンドボール争い隊」
「鎌田・長友会談」

 秋元康と三谷幸喜にインスパイアされた可能性すら感じさせるらいかーると節。寄稿する立場として、これだけは言っておこう。らいかーるとよ。其方、フットボール界をナメてるだろう。

 以前は、「アラバロール」なる悔しいほどキャッチーなネーミングセンスを発揮したのも著者だったか。先日、それを真似てサガン鳥栖の中野伸哉を「中野ロール」と書いてみたが、普通に路面店でありそうじゃねーかと、あれ以来、私の辞書から消去された。

今でいう「偽サイドバック」として、バイエルン時代にペップ・グアルディオラから抜擢されたダビド・アラバ。その名前に因んで当時のサイドバック像を覆す特殊な役割を、らいかーると氏は“アラバロール”と命名した

 読み応えをもたらすミソは、さらに続く。……

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Profile

みぎ

愛知県出身。名古屋グランパスをこよなく愛する中年サラリーマン。永遠のアイドルはドラガンストイコビッチ。海外では元バルセロナソシオ。最近の悩みは妻の視線が恐ろしくフットボールを観る時間が取れないこと。愛読書は勿論footballista。ブログ:http://migiright8.hatenablog.com/

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