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日本が目指すのはバルサ? ドルトムント?

2014.05.23

全国書店で好評発売中のFOOTBALLISTA NIPPON Vol.02では「日本代表の“非常識”に期待する」と題して、攻撃スタイルで世界に挑むザッケローニ率いる日本代表の是非を「スタイル」「最終メンバー」「対戦国」の3つの論点から徹底的に掘り下げた。

23人枠が決定し、いよいよ本番モードの日本代表について、誌面の中から“今読んでほしい記事”を特別公開!最終回は、日本がW杯で選択するであろう「攻撃サッカー」の中身について。世界の戦術トレンドの中のザッケローニスタイルの位置づけを明らかにする。

攻撃サッカーの解釈の違い。欧州を二分する、2つの最新戦術トレンド

バルセロナの戦術はサッカー史に残る革命だった。
守ってカウンターではなく、ボールを持った方が勝てるという
認識を植え付けたのは偉大な成果で、
彼らの後に続くチームも続出している。
一方、そのアンチテーゼとしてのドルトムントの戦術も、
時代の流れを先取りしたユニークなスタイル。
悩ましいことに、現在の日本代表はそのどちらにも適性があるのだ。

 「パスサッカーは美しいが、勝てない」が少し前までのサッカー界の常識だった。それを壊したのが、ジョセップ・グアルディオラ監督が率いたバルセロナ(2008-12)だ。

 「ボールを持っている限り、攻められることはない」という現役時代の恩師ヨハン・クライフの教えを体現し、徹底してボールポゼッションを追求。マイボールの状況を前提としているので、選ぶのはパスサッカーに向いた技巧派ばかり。しかし、クラブ生え抜きの指揮官は就任早々にロナウジーニョらを放出したように自由奔放にプレーするのではなく、自身が定めた細かい動きのルールを順守できる、フォア・ザ・チームの意識を持った11人をそろえた。

 基本フォーメーションは[4-3-3]。もともと右ウイングだったメッシを「偽CF」として中央に配置したアイディアが秀逸だった。彼が下がれば、中盤中央で必ず数的優位が作れる。メッシ、イニエスタ、シャビ、ブスケッツの名手4人が数的優位の状態でボールを回せば、相手はまず取れない。そこからメッシがドリブルで相手DFを何人も引き付け、空いたスペースを切り崩す。あるいはウイングやSBの死角からのカットインも王道の攻撃パターンだ。

 ボールを奪われても2CBと中盤底のブスケッツを除いた7人が前線にいるので、一気に敵を囲い込んですぐさまボールを奪還する。狭いエリアでのパス回しに適した小柄な体格は、寄せの速さという面ではむしろ有利に働いた。この組織的なプレッシングが強烈で、たいていのチームは自陣に釘づけにされてしまう。「ポゼッション→前線プレス」の繰り返しで70%を超えるボール支配率を実現するバルセロナは、攻められる機会が少ないのでリーグ最少失点の常連でもある。

■身体的な適性は「◎」、精神性は「?」

 体格を問わないこと(むしろ小柄で俊敏な方がいい)、パスサッカーをこなす技術、チームのために戦う献身性……。

 バルセロナスタイルで求められる要素は日本人の特性とも合致しており、もともとパスサッカーを好んできた日本サッカー界では“バルセロナ信仰”が一気に強まった。また、それは全世界的な傾向でもあった。

 しかし、このスタイルは日本人の“ある能力”をスポイルしてしまう。90分間走り続けられる持久力の高さだ。

 昨季の欧州チャンピオンズリーグ(以下CL)でのバルセロナの平均走行距離は、32チーム中24位。そもそもパス成功率を上げるためには、動き過ぎてはいけない。走り込んだ先にピンポイントでパスを通すのはバルセロナの選手といえども難しいプレーで、必ず何割かはミスになる。無駄な動きをせず適切なポジションを取り、速く正確な足下のパスの連続でボールをキープするのが彼らのセオリーだ。

 ミスが増えれば、ボール支配率は下がる。守備の時間が増えるのは、スタイルの根本を揺るがす死活問題だ。無理をしてボールを失うくらいなら一度戻すべき。「バックパス=悪」と見なさないのも大きな特徴だ。

 バルセロナスタイルは、創設者クライフのオランダ人らしい合理的な思考法が下敷きになっている。すべてが理詰めで組み立てられたサッカーで、精神論は皆無。昨シーズンのCL準決勝バイエルン戦の大敗が典型だが、負けゲームと判断すればあっさり諦める。この割り切った考え方もバルセロナの一面であり、コインの裏表なのだ。妥協なく理論を突き詰めたからこそ誕生した高度なサッカーではあるが、常に全力を尽くすことを美徳とする日本人の精神性とは相容れない部分もある。

■ミスを恐れない、もう一つの攻撃サッカー

 同じ攻撃サッカーでも、バルセロナと対照的なのがドルトムントのスタイルだ。

 そもそも「攻撃的」とは何だろうか?

 バルセロナの答えは、ボール支配率という数字だ。「攻撃時間が長い=攻撃的」というのはシンプルで説得力がある。

 一方、ドルトムントの「攻撃的」はその精神性にある。前線からアグレッシブにボールを奪いに行き、マイボールになったら多くの選手が勇気を持って前へ前へと突き進む。全員がハードワークするイングランドのサッカーに近いが、それを戦術的に整備したのがドルトムントのユルゲン・クロップ監督だ。

 時代の流れも追い風となった。「ゲーゲンプレッシング」と呼ばれる組織的なプレッシングは、DFラインから丁寧にビルドアップしようとする“バルセロナ化”したチームの天敵となった。繋ごうとしては奪われ、カウンターを受けるという悪循環。ポゼッションチームはゲームのリズムを落ち着けたいのだが、どうしても常に前に出てくるドルトムントのハイテンポに巻き込まれてしまう。ドルトムントにとって最もチャンスになるのは、相手からボールを奪った瞬間だ。特に、高い位置で奪えるほどいい。そのためマイボールになればとにかく縦に速くボールを入れ、成功すればGKと1対1。たとえ失敗しても、ボールは敵陣の深い位置にあるので、今度はそこにプレスをかけてショートカウンターを狙う。常にボールが落ち着かないバタバタした展開こそがドルトムントのペースだ。ボール支配率はほとんど重視せず、むしろ相手より低くなることが多い。

 求められるのは愚直に同じことを繰り返すまじめさ、敢闘精神、運動量。いずれも日本人が持っている大きな武器だ。

 しかし、このスタイルを採用した場合、ネックになるのが体格差だ。球際のぶつかり合いが頻発するので、体の小さい方が不利なのだ。純粋に肉体的な資質を考えると、敵との接触を避けられるバルセロナスタイルの方が向いているのは明らかである。

 また、ゲームコントロールができないことも難点。ボールを持つバルセロナスタイルは自らの判断で試合のペースを操作でき、ケガなどのアクシデントも起こりにくい。短期決戦のW杯で、消耗の激しいドルトムントスタイルがどこまで持つのかは未知数だ。

 帯に短し襷(たすき)に長し。どちらにも向いているが、完璧ではない。器用な日本人は悩ましい現実に直面している。

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。