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闘ったアルゼンチン、競ったスペイン――『競争闘争理論』で日本サッカーの未来を考える

2023.01.30

アルゼンチンに3年間在住し、指導者ライセンスを取得した河内一馬。帰国して2年、鎌倉インターナショナルFCで指揮を執る異色監督は、“第二の母国”のW杯制覇に何を感じたのか。『競争闘争理論』視点で、アルゼンチンの戦いぶり、ドイツとスペインに感じた違和感、そして日本サッカーの未来について考えてもらった。

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 今回ほど、どこから書いたらいいのか、何を伝えたらいいのかを定められないことは、これまであまりなかったように思う。それはたぶん、W杯2022があまりにも自分にとって、多様な意味を持った出来事だったからで、それゆえに、ここに筆をとるまでは思い返すのも億劫、年末年始の忙しさ(W杯決勝戦と同じ日に私が監督を務める鎌倉インターナショナルFCが神奈川県1部に昇格したりして、結構色々あったんです)にかこつけて、それについて考えることを避けてきた。いざ、W杯について、考える。1カ月以上が経過しているようである。

 昨年の3月、私は『競争闘争理論 サッカーは「競う」べきか「闘う」べきか』という著書を出版した。

 「競争闘争理論」とは、すなわち「サッカーというゲーム」を”捉える”ためにゼロから体系化した、カテゴライズを手段とする理論体系である。それは「サッカーとは何か?」という問に対して、「サッカーとは、こうである」という絶対解を出すのではなく、「いやいや、まず考え方が違うのである」という、いわば答えを探る前の「前提」を改めて捉え直す作業であった。そのため、私がサッカーについて、ゲームとして、スポーツとして、あるいは教育として、文化として、なんでもいいのだけれど考える時には、この「競争闘争理論」を無視することはもはやできないのであり、今回のW杯も当然同理論を通して自然に観察をしていたのだろうと思う。ただ、それを改めて言語化する作業は、異様に腰が重かったのだ。カタールでは、一体何が起こっていたのだろうか。

 考えることや、言語化をすることに対して気が進まなかったのは、嬉しいやら、感慨深いやら、はたまた切ないやら、いろんな感情を体験し、そしてそれを誰とも共有したくないという謎モードに突入していたから、とも言えそうだ。

 私にとって、チャンピオンになったアルゼンチンは特別な国であり、あの国にいた3年間は、自分で、自分の力だけでサッカーを捉え直すという作業に向き合った、とても大切な時間だった。「競争闘争理論」を完成させたのが、アルゼンチンの照明がつかないペンションの一室であったのだから、少しくらい泣いたっていいではないか(と思いながらアルゼンチンがPKで優勝を決めた瞬間ちょっと泣いた)。

 そんな背景があって、今、こうして文章を書いている。

 アルゼンチンがチャンピオンになったことによって、あの国での3年間の記憶が一気に押し寄せ、それは嬉しくもあり、また、辛くもあるのだった(謎モード継続中)。そろそろ思い出を手放し、新たに歩み始めなければならない。

 アルゼンチンは、なぜ、チャンピオンになれたのだろう。日本は、どうして、“また”ベスト16で敗れたのだろう。日本に負けたドイツとスペインは、どうしてあんなに“微妙”だったのだろう。その答えを一つにすることは到底できないけれど、何かのパースペクティブ(横文字を使うと賢そうに見える)から、数あるうちの一つを提示することはできる。これからここに書くのは、「競争闘争理論」を通してサッカーを見ている私の視点である。戦術的視点で、あるいはよりテクニカルな視点でW杯を振り返ることは他の方に譲りたい。

前々大会王者のドイツ代表だが、ロシア大会に続いてカタール大会でもグループステージ敗退という結果に終わってしまった

……

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アルゼンチン代表カタールW杯スペイン代表ドイツ代表日本代表

Profile

河内 一馬

1992年生まれ、東京都出身。18歳で選手としてのキャリアを終えたのち指導者の道へ。国内でのコーチ経験を経て、23歳の時にアジアとヨーロッパ約15カ国を回りサッカーを視察。その後25歳でアルゼンチンに渡り、現地の監督養成学校に3年間在学、CONMEBOL PRO(南米サッカー連盟最高位)ライセンスを取得。帰国後は鎌倉インターナショナルFCの監督に就任し、同クラブではブランディング責任者も務めている。その他、執筆やNPO法人 love.fútbol Japanで理事を務めるなど、サッカーを軸に多岐にわたる活動を行っている。著書に『競争闘争理論 サッカーは「競う」べきか「闘う」べきか』。鍼灸師国家資格保持。

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