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ステファン・バイチェティッチ。急成長中の若き指揮者はリバプールの救世主となるか

2023.01.28

昨年8月27日にプレミアリーグ初出場を果たし、年末には初ゴールをマーク。前節のチェルシー戦では先発に抜擢され、アンカーとして堂々たるプレーを披露するなど、不振が続くリバプールで今、期待を一身に背負うアカデミー出身の新星がいる。2004年10月22日、スペイン生まれの18歳、ステファン・バイチェティッチ(Stefan Bajcetic)だ。

 「信じられないよ。何が起きたのかわからなかった。ただただ無我夢中でボックス内に走り込んだ。そして次の瞬間には大歓声が聞こえた。正直ゴールの喜び方さえもわからなかったよ。ただ若くして故郷を離れて異国の地へ移り住み、一所懸命努力してきたことが報われた瞬間だった」

 振るわない国内リーグ戦績、相次ぐケガ人、主力の高齢化、停滞する中盤の補強、暗礁に乗り上げるクラブ売却問題、ついには解任論さえも聞こえ始めた現場首脳陣。

 シーズン最終盤まで全コンペティションでタイトルの可能性を残し、国内2冠を達成した昨季とは対照的に、ピッチ内外で停滞感が漂うシーズンを過ごすクラブに一筋の光明が差し込んだ瞬間であった。現実から目を背けたくなるような状況に苦しむファンにも小さくない希望をもたらした。

 悩めるリバプールにおいて、ステファン・バイチェティッチに対する期待値は過度に高まっていた。チーム状態が優れない時にアカデミー出身の若手への期待値が実力以上に跳ね上がるということは少なくない。また、今日のサッカー界では冴えないパフォーマンスを見せた選手がSNSを通じて直接、批判や誹謗中傷を受けるケースも増えている。バイチェティッチもこうしたシナリオが想像できる状況にあった。

 だが、バイチェティッチは見合うどころか、それ以上の活躍をしてみせたのだ。プレミアリーグ出場2戦目となった昨年12月26日のアストンビラ戦(○1-3)では、78分の交代出場直後にプロ初ゴールを記録。ペナルティエリア内でダルウィン・ヌニェスの折り返しを受けると、相手GKシレッセンを冷静にかわし、さらにDFミングスの股を抜く見事なフィニッシュ。ボールを軽く浮かせてGKをかわす技術と落ち着きは18歳とは思えないものだった。スペイン人ではセスク・ファブレガス(現コモ)に次ぐ史上2番目の若さで決めたプレミア初得点。元セルビア代表サッカー選手の父とスペイン人の母を持つ若者は、イングランドの地で確かな足跡を残した。

 さらに1月17日のFAカップ3回戦再試合、ウォルバーハンプトン戦(○0-1)ではナビ・ケイタやチアゴ・アルカンタラと中盤を形成し、マン・オブ・ザ・マッチに選出される大活躍。その4日後にはチェルシーを相手にプレミア初先発を果たすと、アンフィールドの声援を背に受け、チームの中心で堂々たるプレーを披露(0-0)。大舞台でも物怖じせず積極的にビルドアップに関与し続け、攻守両面で発揮できる最大限のパフォーマンスを見せた。バイチェティッチという名が全世界にとどろく日となったことは間違いない。

 そしてクラブは1月26日、バイチェティッチと大幅な昇給を含む2027年までの長期契約延長を締結した。昨夏にも契約延長を結んでいたことを考えると異例の対応とも捉えられるが、加入以来の順調な成長と悩めるチームの起爆剤になり得る期待値、将来的なポテンシャルから判断すると妥当な決断だと言えるだろう。

 16歳でスペインの港町ビーゴからイギリスの港町リバプールへとやってきたバイチェティッチ。彼の姿を追い続けてきた者として、そのマージーサイドでの軌跡を紹介したい。

リバプール移籍は突然に

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イングランドステファン・バイチェティッチスペインプレミアリーグリバプール

Profile

ゆーり

千葉県出身。都内の大学に通う現役大学生。幼少期の欧州選手権でフェルナンド・トーレスに魅了されたのがキッカケでリバプールを追いかけるように。アカデミー部門にも強い関心を持つ。NBAやF1など多趣味。LFCラボにも執筆中。

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