ユナイテッドが雪辱を果たしたマンチェスターダービー。6失点大敗からの変化と、シティの試合の中での修正を紐解く【マンチェスターU 2-1 マンチェスターC】
1月14日に行われた2022-23シーズン2度目のマンチェスターダービーは、ホームのマンチェスター・ユナイテッドがマンチェスター・シティを2-1で下し勝利。6失点大敗を喫した前回対戦の雪辱を果たした。その前回からの変化、そして試合のポイントとなった攻防について、東大ア式蹴球部で分析を担当する高口英成氏が分析する。
ゲームプランを映し出すシティのSB
序盤の攻防で興味深かったのは、シティのSBの立ち位置である。SBはペップシティのチーム変遷を分析していく上で最も重要なポジションであり、指揮官の頭の中と、我われのようないちサッカーファンとのインターフェースのような機能を果たしている。もはや偽SBかそうでないかといった二元論には収まらず、戦術ボードのスケールではわからない数mのポジション設計がチームの保持を成功させるための隠れた機構になっていると言えよう。
今回の試合に関してはというと、前半を通して両サイド大きく幅を取るようなポジションを取っていた。今シーズン何度も見られた[3-2-5]や[2-3-5]といった形ではなく、言うなればオーソドックスな[4-1-4-1]と、そしてベルナルド・シルバが頻度高くロドリの脇に顔を出すような[4-2-3-1]との折衷システムのような形であった。
このようなシステムを取った背景にあるのは、おそらくはユナイテッドの[4-2-3-1]に対して楽にボールを進められるといった理由だろう。一般論や定石に基づいて言えば、[4-2-3-1]や[4-3-1-2]といった中盤に厚みを作る守り方はサイドへの対応が手薄になることが多く、外回りの前進を狙うと奏功する場合が多い。あえて相手が網を張った中央へボールを差し込むよりは、大外へ逃がして素早くビルドアップを完結させてしまおうという意図があったのだと推測できる。
ユナイテッドの前回対戦からのアップデート
ユナイテッドの守備システムの考え方は、前期のシティ戦から一貫したものがある。詳しくは前回のレビューに譲るとして、シティの中盤3枚を徹底的にマンツーマンで見張るというコンセプトはこの試合でも明快であった。
前回と大きく異なる点は2つ。1つ目は、前回の構造的な弱点への応手である。2枚のCBへ1枚のCFではプレスがかからずに何度も運び出しを許してしまい、中盤のマンツーマン構造を引きつけてリリースの繰り返しで逆に利用されてしまったという総括だった前回の反省から、この試合ではSHポジションのマーカス・ラッシュフォードやブルーノ・フェルナンデスが CBと SBの中間あたりに立って外へのパスコースを牽制することによって、CBへもプレッシャーをかけられる距離感になっていた。実際にシティのCBがボールを持ったら、外切りプレスをかけてパスコースと保持者を同時に制圧しにかかることで、 SBへのパスを封じていた。
2つ目はそもそものプレス強度である。ホームということも影響してか、中盤の3枚や両CB、サイドへ展開された時のファーストDFを決める動きなどが前回と比べてより素早く、より苛烈になっており、シティとしては綺麗な前進がままならないといったシーンが多かった。特にフレッジのこの試合におけるパフォーマンスは傑出しており、ケビン・デ・ブルイネのクロスに対する防波堤としての機能を十二分に果たしていた。
シティのボール保持の安定
シティの実行したSBが大きく張り出す[4-1]ビルドアップには、実は大きな落とし穴がある。それはSBに対して提供されるパスコースが少ないことである。今回の試合のような配置において、アンカーとSBの距離感は実にピッチ68mの半分の30mほどになる。これではアンカーが中央でポジショニングを取っていたとしても、実質的にはその選択肢は使えないに等しい。序盤のシティはせっかくフリーなSBにボールを逃がせても、アンカーへのパスコースはそもそも使えず、IHへのパスコースはマンツーマンによって制圧されている状況が続いており、プレスバックするユナイテッドのSHから逃げるように前進をしたSBによってプレースピードが一気に高まってエラーが起こるシーンが多発していた。……
Profile
高口 英成
2002年生まれ。東京大学ア式蹴球部テクニカルスタッフ所属