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バイエルンやナポリに見る「3局面のサッカー」。加速を続ける欧州サッカーの戦術進化

2023.01.12

【特別公開】『モダンサッカーの教科書Ⅳ』イントロダクション

好評発売中の『モダンサッカーの教科書Ⅳ イタリア新世代コーチと読み解く最先端の戦術キーワード』は、『footballista』で圧倒的人気の元セリエAコーチ、レナート・バルディが、最先端の現場で磨き上げた「チーム分析のフレームワーク」と戦術キーワードを用い、欧州サッカーで現在起こっている戦術トレンドの全体像を整理する一冊だ。そのイントロダクションを特別公開!

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 2010年代の欧州サッカーで起こった急速かつ不可逆的な「戦術パラダイムシフト」、すなわち「システムからシチュエーションへ」、「ポジションからタスクへ」という大きな枠組みの変化を、多角的な視点から掘り下げようと試みてきた『モダンサッカーの教科書』シリーズもこれが4冊目となった。

 モダンサッカーのキーパーソンと言うべきジョセップ・グアルディオラの戦術分析を入り口に当時の最新トレンドを包括的に整理した「総論」というべき第1作(2018年6月)、それからの2年間に起こった変化と進化を踏まえつつ、セリエAという欧州トップレベルの現場における最新の取り組みを具体的に解説した「実践編」というべき第2作(2020年7月)を経て、「ポジション進化論」というサブタイトルを冠した前作(2021年1月)では、ピッチ上でプレーする個々の選手が担う機能と役割の変化に注目する「プレーヤー焦点」のアプローチから、とりわけ「ポジションからタスクへ」という枠組みの変化を深く掘り下げ分析した。

 本作はそれとある意味で対をなす形で、そのプレーヤーの集合体であるチームが試合のそれぞれの局面においてどのように振る舞うかに注目する「チーム焦点」のアプローチによって、「システムからシチュエーションへ」というもう1つのパラダイムシフトの現在地を明らかにしようという狙いを持っている。

分析のフレームワークが明らかにする「フォーメーションの次」

 その枠組みとして採用したのは、共著者レナート・バルディがセリエAという欧州プロサッカー最先端の現場で、対戦相手と自チームのパフォーマンス分析のツールとして磨き上げてきた「チーム分析のフレームワーク」だ。サッカーの試合を、「攻撃」→「ネガティブトランジション」→「守備」→「ポジティブトランジション」という4つのフェーズの連続として捉え、それぞれをさらにいくつかに細分化した上でタイプ分けしながら描写していくこのプロ仕様のツールは、対象となるチームをそれこそ「解剖」するかのように詳細に分析することを可能にしてくれる。

書籍内で掲載されている「戦術分析のフレームワーク」

 このフレームワークを使い、欧州トップレベルのサッカーシーンで現在起こっている戦術的な動向を一つひとつ掘り下げていく過程で見えてきたのは、[4-4-2]、[4-3-3]、[5-3-2]といった単一の「システム」でチームを描写し特徴づけようというアプローチは、もはやほとんど意味を持たなくなったということ。攻撃から守備まですべての局面で単一の配置を用いるチームは今や稀であり、攻撃と守備で配置が変わるのはもちろん、同じ攻撃でも自陣でのビルドアップと敵陣でのファイナルサード攻略でも異なるし、何なら1つの試合の中でもビルドアップ時の配置が2度、3度と変わるチームも少なくない。逆に、同じチームが同じ配置を使っていても、相手と状況に応じて振る舞い方がまったく変わる例もたくさんある。

最新戦術ですら3、4年で「オワコン化」する

 それだけではない。ビルドアップ時にGKから直接前線にロングボールを蹴り込むチームがこの数年で激減したり、ボールを奪われても後退せずにゲーゲンプレッシングで即時奪回することで、「攻撃→ネガティブトランジション」の後に来る「守備」のフェーズをすっ飛ばして「→ポジティブトランジション→攻撃」という3局面の循環を強く意識するチームが増加するなど、これまでの常識的な戦術の枠組み自体が解体、というか換骨奪胎されつつあるという状況も浮かび上がってくる。22-23シーズンのCLグループステージを席巻したナポリやバイエルンに至っては、「守備」のフェーズから自陣での「組織的守備」を極限まで排除して「プレッシング」だけで乗り切ろうと本気で考えているようにすら見える。

 しかもこうした変化は、『モダンサッカーの教科書Ⅱ』が出た2020年の時点ではまだほとんど顕在化していなかった。欧州最先端で進んでいる「戦術パラダイムシフト」はますます加速し、つい3、4年前には優れた結果を残していた戦術やコンセプトがあっという間に陳腐化、いやそれどころか「オワコン」化する例すら出始めている。

CLファイナリストであるリバプールも、今季はグループステージ第1節でいきなりそのナポリに4-1で大敗。昨季優勝にあと一歩及ばなかったプレミアリーグでも、第19節時点で欧州カップ出場圏外の6位と苦戦を強いられている事実が、欧州サッカーの競争激化を物語っている

 以下、本文では、まずバルディ自身にとって手足の延長とも言うべきフレームワークの概要をわかりやすく解説した上で、「攻撃→ネガティブトランジション→守備→ポジティブトランジション」という4局面それぞれについて、ピッチ上で起こっている様々な変化や進化を網羅的に取り上げながら、把握と理解の助けになるキーワードを抽出するというアプローチを採った。結果的に、欧州サッカー最先端の動向を俯瞰的に一望しつつも、個々の変化を詳細に掘り下げた1冊になったと自負している。じっくりとご堪能いただきたい。


Photos: Getty Images

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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