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成し遂げられた「1年でのJ1復帰」。横浜FCが期す“定着”へのチャレンジ

2022.12.09

徳島ヴォルティス、大分トリニータ、ベガルタ仙台。他の“降格組”がJ2の渦に飲み込まれていく中で、唯一1年でのJ1復帰を果たしたのが横浜FCだ。四方田修平監督を新指揮官に迎えたチームは、開幕から好調をキープ。終盤には苦しい時期も過ごしたものの、結果的に最大にして唯一の目標を手繰り寄せてみせた。では、当事者の彼らはこの2022年シーズンをどう捉えているのか。監督と選手の言葉を元に、クラブを長年取材している浅野有香が紐解いていく。

十分に理解していた“J1復帰”の難しさ

 「J2降格はもちろんなんですけど、どっちかというと“降格”よりも、『1年でJ1に上がってこられるのか』という方が不安ですよね。1年で戻るって本当に難しいと思うので、それが怖いです」

 2022シーズンのJ2最終節。ロアッソ熊本対横浜FC戦を見届けるために向かった熊本空港から、えがお健康スタジアムへ向かうタクシーの中での会話だ。

 今季をもって現役引退を発表した中村俊輔の最後のプレー姿を観るために東京から来たという、ガンバ大阪サポーターの男性と横浜FCサポーターの数人とタクシーを乗り合わせた。そのタクシーの中で、その頃降格の可能性が残っていたガンバサポーターの一言だった。

 この言葉に象徴されるとおり、『J2』という場所はそんなに甘い場所ではない。2部リーグながら、そのレベルは年々上がり、例年そうであるように、どのチームが昇格してもおかしくないほど力が拮抗している。『筆頭優勝候補』は、あってないようなものだ。2022シーズンの『降格組』は4チーム。ベガルタ仙台、横浜FC、徳島ヴォルティスに大分トリニータ。その中で1年での復帰を達成できたのは横浜FCのみ。最終的にJ1参入プレーオフ圏内に入ったのも大分だけであったことを考えると、『昇格』がどれだけ難しく、厳しいことなのかがよくわかる。

J2第42節、熊本戦のハイライト動画

 今季、横浜FCは「1年でのJ1復帰」という目標を掲げた。降格した以上、「すぐに復帰」という空気感は自然と醸成される。

 2007年の1回目のJ1昇格は翌年に降格。次のJ1への扉を開くまでには、気付けば13年もの年月が経っていた。その歴史と、そこに辿りつくまでの数々の苦しい経験。もちろん1年での復帰を願わないサポーターはいない。だが、だからこそ、復帰がそんなに簡単ではないことはよくわかっていた。

 そう考えると余計に、横浜FCがこの1年で復帰を遂げることが出来たのは、チームの歴史としても、立ち位置としても、とてつもなく大きなことであったことがお分かりいただけるだろう。

前回の昇格を知る武田英二郎が携え続けた覚悟

 クラブ2度目のJ1昇格を果たした2019シーズンから、J1を戦った2020、2021の2年を経て、チームを構成するメンバーはガラッと変わった。当時を知る選手は、松浦拓弥、齋藤功佑、武田英二郎、中村俊輔の4人のみ。今回の昇格の意味と意義とともに、今季の戦いを選手に振り返ってもらうと、こんな言葉が出てきた。

 武田英二郎はこの1年を「ずっと苦しいというか、1年間ずっと勝たないといけないという気持ちとプレッシャーと戦いながらやってきたシーズンだったと思います」と振り返った。開幕からの連勝を含めたスタートダッシュが、周囲を「横浜FC、昇格するよね」という空気感にさせ、ずっとそれに追われながら戦ってきた感じがしたのだという。シーズン中、「(J1に)上がりたい、というより”上がらなきゃ”という感覚ですね」と試合後のミックスゾーンで話してくれた言葉に、今季の選手たちを取り巻く環境が詰まっていた。

 「勝利の喜び」と「失うのが怖いという恐怖感」はいつも隣り合わせ。サポーターや周囲からの大きな期待を感じつつ、自らも「開幕から結果が出て、上位に立ったのに、ここから落ちちゃうのはもったいない」と思うがあまり、「チャレンジャーになりづらいというか、受け身な環境が多かった気がして、それが難しかったです」と当時の心境を語ってくれた。……

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Profile

浅野 有香

大学卒業後、商社・JFAを経て四国放送でアナウンサーとして勤務後フリーに。『J's GOAL』や『スカパー!』で横浜FCを担当し、現在はJリーグ公式映像でのリポーターを務める。横浜FCの3度の昇格を見届けている数少ないメディア関係者の1人。Jリーグ以外では、我が子のサッカーの試合の優先順位が最も高い日々を送るも現在はニュース番組や、式典・セミナー司会をはじめ、特にナレーションを積極的に担当中。

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