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“名前が読めない”ジョージアの至宝、クビチャ・クバラツヘリアはナポリを救えるか

2022.09.03

この夏、近年のチームを支えていたベテランたちが一度に退団する危機に見舞われたセリエAのナポリ。一時は「過去最悪のメルカート(移籍市場)」とまで言われた夏を終え、新シーズンを迎えた南イタリアのクラブは、予想に反して開幕4戦無敗(2勝2分)と好調な滑り出しを見せた。チームの新たな船出を支えているのが“名前をなんと読めばいいかわからないあの選手”だ。

サイクルの終わり

 地元ナポリ出身、クラブ生え抜きのカピターノの退団が報じられたのは、まだ2021-22シーズンの途中、1月のことであった。背番号24番、ロレンツォ・インシーニェが、シーズン終了後のMLS(メジャーリーグサッカー)トロントFC入りを発表。同じくセリエAクラブのバンディエラとして活躍したユベントスのアレッサンドロ・デル・ピエーロや、ローマのフランチェスコ・トッティらとも比較された、現代では珍しくなった「ワン・クラブ・マン」の移籍。クラブ変革の時を感じさせるにはそれだけでも十分である。

 そんなタイミング「だからこそ」なのだろうか。クラブは大鉈を振るった。放出も加入もほとんどなかった昨年の夏から一転、主力の大量放出とその代役獲得を強く推し進めた。中でもファンに衝撃を与えたのが、クラブ歴代得点王となったFWドリース・メルテンスの契約満了による退団と、精神的にも戦力的にもクラブの大黒柱であったDFカリドゥ・クリバリの移籍である。

 選手、クラブともに契約延長を試みたものの、条件面で折り合わずに契約満了。その後も新契約を模索するも叶わず、フリーでガラタサライへ移籍したのはメルテンスだ。報道では、クラブが要求した減俸には同意したものの、冬のW杯に向けてプレー時間を確保したい選手側の要求が受け入れられなかったとされている。「僕の息子はここで生まれ、僕も妻もナポリの街と人々を愛している。だからナポリで買った家は手放さないと決めたよ。いつでも帰って来られるように」と語ったファンへの別れのビデオレターは、ナポリのファンだけでなく、多くのフットボールファンの涙を誘った。

メルテンス自身によるビデオレター。「これはさよならじゃない。また会おう」

 ナポリの街を愛し、街に愛されたもう一人のレジェンドであるカリドゥ・クリバリは、チェルシーへと移籍。推定移籍金4000万ユーロ(約56億円)は31歳のDFに払う金額としては破格だが、彼を世界最高のCBと信じて疑わないナポリのファンからすれば安過ぎるほどだ。クラブは2023年夏で切れる契約の更新を打診したものの、“コマンダンテ”(司令官)は、おそらく自身最後のチャンスとなるであろうプレミアリーグへの挑戦を選んだ。現チェルシー、元ナポリのチームメイトであり、親友でもあるジョルジーニョの存在も後押しとなったようだ。新契約を結ばず来夏フリーで退団することもできた。しかし今夏の退団を選んだのは、自身を成長させてくれたクラブに移籍金を残すための選択だった、と言われたとしても誰も疑わない。それだけクラブを、ファンを、街をリスペクトする、偉大な人格者でもあった。

同日のInstagram( https://www.instagram.com/p/CgCnJhIoG4B/)には「この街に来た時はまだ内気な少年だった」と語るクリバリによる別れのメッセージが。その動画にもあるユベントス戦でのゴールは、ナポリファンの間で永遠に語り継がれるだろう

 インシーニェ、メルテンス、クリバリ。ピッチ内外で主軸であった3人が去っただけでも、ファンにとっては夏の間ずっと落ち込んでいられる程度にショッキングである。しかし退団したのは彼らだけではない。中盤の柱であったファビアン・ルイスはパリ・サンジェルマンへ。昨季のリーグ最少失点を支えたGKダビド・オスピナはガラタサライへ。控えCFとして奮闘したアンドレア・ペターニャは今季セリエAに昇格したモンツァへ。サッリ時代のナポリで当代きってのSBとして名を馳せたファウジ・グラム、攻撃的SBとしてバックアッパーを務めてくれたケビン・マルキュイの2人は契約満了後退団、移籍先未定。控えめに言っても絶望的である。

休まないジュントーリ

 これだけの選手が退団しながらも、今夏に移籍金を残したのはクリバリとファビアンだけ。ペターニャは買取義務付きローンだが、あとは全員フリーでの移籍もしくは退団である。それゆえに退団した選手らの評価額に対して移籍金収入は満足に得られなかったが、クラブにとっては織り込み済みだったようだ。「持続可能なクラブ経営」を掲げたアウレリオ・デ・ラウレンティス会長は、手取り年俸350万ユーロ(約4億9000万円)を限度とするサラリーキャップの導入を宣言。『コリエレ・デッロ・スポルト』紙によれば、給与の高いベテランたちを放出し、新たに獲得した選手たちの年俸を抑えることにより、昨年と比較して手取り給与総額は6170万ユーロ(約86億円)から4524万ユーロ(約63億円)へと27%の削減を達成したという。既存選手でサラリーキャップの金額を超えているのはビクター・オシメーンとイルビング・ロサーノの2人だけであり、両者は遠からず市場に出されるだろう。

 カルチョメルカートは嘘か真か、来る日も来る日も噂が飛び交うエンターテインメントでもあるが、そんなこの夏のナポリSD(スポーツディレクター)クリスティアーノ・ジュントーリが恐ろしく多忙であったことは想像に難くない。

左がジュントーリ(右はエンポリSDピエトロ・アッカルディ)。元選手で現在50歳のイタリア人SDは、マウリツィオ・サッリ監督(現ラツィオ)が就任した2015年にナポリ入りした

 敏腕SDであるジュントーリ率いるチームの優秀さは知る人ぞ知るところで、「いい選手を見抜くことと実際に獲得できることは違う」と、イタリアでも今夏の仕事が称賛されているようだ。今季はCL出場権を獲得したことも手伝って、サラリーキャップの導入にもかかわらず、各ポジションに実力者たちを補強することができている。

 まずは昨季ローンで加入し、セリエAに旋風を巻き起こしたMFアンドレ・フランク・ザンボ・アンギサをフルアムから完全移籍で獲得。グラムの後釜にはSBマティアス・オリベラがヘタフェから、CBの控えにはブライトンからレオ・エスティゴーアが加入した。控えGKは、イタリア代表での経験も豊富なサルバトーレ・シリグを補強。さらに攻撃陣にも積極的に手を入れ、ファビアンの代役にはトッテナムからタンギ・エンドンベレを、ペターニャの代役にはエラス・ベローナからジョバンニ・シメオネを、そしてメルテンスの代役にはサッスオーロの若手実力派、ジャコモ・ラスパドーリを獲得している。注目されたカリドゥ・クリバリの後継者には、昨季フェネルバフチェで活躍した韓国代表キム・ミンジェを指名。新加入選手の儀礼であるカラオケタイムではノリノリであの曲を熱唱、早くも前任者とは違う自身のスタイルを見せつけている。

『江南スタイル』を熱唱するキム・ミンジェ。ナポリ初の東アジア出身選手は早くもクリバリの穴を埋める素晴らしいプレーを披露している

 新加入組はいずれも親善試合、あるいはセリエAですでにデビューしており、戦力として期待が持てる選手ばかりである。去っていった選手たちに比べるとまだ世界的な知名度も高くない、玄人好みの渋いメンツがそろった。しかしその中で1人、ことさら注目を集め、今季の鍵を握る存在とされているのが、前主将インシーニェの後任に選ばれた新戦力である。

若きジョージア人の衝撃

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クビチャ・クバラツヘリアナポリ

Profile

大田 達郎

1986年生まれ、福岡県出身。博士(理学)。生命情報科学分野の研究者。前十字靭帯両膝断裂クラブ会員。仕事中はユベントスファンとも仲良くしている。好きなピッツァはピッツァフリッタ。Twitter:@iNut

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