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「ゆりかご」から伸びる着地点は天国か、墓場か。原崎ベガルタが挑む勝負の終盤戦

2022.08.25

横浜FC、アルビレックス新潟との三つ巴で「自動昇格圏争い」を繰り広げてきたベガルタ仙台だったが、少しずつ両者との勝ち点が離れつつある。ただ、ここからが真価の見せどころ。経験豊かなベテランが、その背中を見てきた若手が、そして長期離脱から帰還するラストピースが、勝負の終盤戦に覚悟を持って立ち向かっていく。その過程を見守り続けてきた村林いづみは今、果たしてこの愛すべきチームにどういう想いを寄せているのか。いつもの筆致で迫ってもらった。

続いた仙台の「ゆりかご」。ハッピーな原稿になるはずだったが…

 仙台の「ゆりかご」は、満員御礼である。「7月29日、フォギーニョ選手、第1子長女の誕生」、「8月1日、内田裕斗選手、第1子長男の誕生」、「8月3日、レアンドロ・デサバト選手、第2子次男の誕生」。6日間の内に、実に3人の新しい命を迎えたベガルタ仙台。妻の頑張りに応えようと、「戦う父」たちのボールを蹴る脚にはついつい力が入る。

 サッカー選手に赤ちゃんが誕生した際に行うゴールセレブレーションの定番「ゆりかごダンス」。J2トップの得点数を誇る仙台は、それぞれの赤ちゃん誕生直後の試合で仲間がすかさずゴールネットを揺らし、笑顔の輪の中で祝福のゆりかごも大いに揺れた。“頑張る理由”が増えた選手たちの表情は更にたくましく見える。

J2第30節のツエーゲン金沢戦では先制後、フィールドプレーヤー全員でゆりかごダンスを披露した仙台。ハンドサインで示した6番、デザバトの第2子誕生をお祝いしている(14:48~)

 さぁ、ここからラストスパート!と、ハッピーな原稿を書くつもりだった。が、げに恐ろしや、J2魔境……。やっぱり、そうそう簡単にはいかないものだなぁと痛感している。

求む、ラッキーボーイ。遠藤康の予言とは?

 幸せなニュースに選手たちの表情は明るいが、ベガルタのJ1復帰への道のりは、やはり簡単ではない。予想はしていた。横浜FC、アルビレックス新潟との三つ巴が続いた「自動昇格圏争い」。ここにきて2位の新潟からは「勝ち点7差」と離されてしまった。仙台は第16節以降、常にトップ3には入っているものの、ここまで6ポイントゲームで勝ち星を逃している。このところは下位チームに対しても苦戦を強いられ、勝ち点を積み上げきれないでいるのだ。

 ゴールは生まれている。エース・中山仁斗選手は12ゴール、続く富樫敬真選手も得点を二桁に載せた。4月にセレッソ大阪から期限付き移籍加入した中島元彦選手は中盤からチャンスを生み出すだけでなく、自らも果敢にゴールを狙う。様々なパターンで得点を量産できる今年の仙台だが、一方で毎回のように失点を重ね、守備には課題も抱えている。

 熾烈さを増す「勝負の終盤戦」を見据え、経験豊富な遠藤康選手は「ラッキーボーイ」の存在こそが欠かせないと言い切る。

 「ここから“持っている奴”が出てこないと、勝つにはすごく厳しい試合が続く。これまで試合に出ている選手ではなくて、まだまだもがいている選手たちの中で、誰か、そういう選手が出てきて欲しいですね」(遠藤)

 鹿島アントラーズで、長年偉大な選手たちの背中を追い続けていた。今季、故郷の仙台に帰ってくると、ピッチ内外で大きく存在感を示してきた。全体練習後には彼を囲んで、若手選手の自主練習会が始まる。

 「FK、練習した方がいいよ。チャンス来るから」

 「あれ、今日は(FK練習)やっていかないの?」

 「最近、力み過ぎじゃない?」

 遠藤選手のアドバイスの声はさりげない。後輩たちに何かを強要することもない。そんな彼に影響を受けてトレーニング方法を尋ねる選手、“遠藤式”の筋トレを始め、体の厚みが一回り二回り増した選手もいる。プライベートでも“ベガルタ仙台釣り部”を主宰。様々なシーンで迷える若手の声に耳を傾ける良い兄貴分だ。

 「今はある程度、試合に出る選手が決まっているけれど、プラスα、まだもがいている選手たちがいるので、その子たちに期待したいですね」。試合に出られない選手の葛藤は誰よりも身近に感じている。だからこそ、そこにチームの未来を照らす光もあると見ている。

 キックの名手である彼は、他の選手にも積極的にFK練習を勧める。仙台のセットプレーでは主に、自身と中島選手がキッカーを務めるが、「そのチャンスは誰にでもある」と彼は言う。……

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ベガルタ仙台原崎政人松下佳貴遠藤康

Profile

村林 いづみ

フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。

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