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【前編】ACAフットボール・パートナーズが挑む、アジア発のMCOとWeb3.0によるメタバース構想

2022.06.28

ACAフットボール・パートナーズは、「サッカーの価値を解放し、進化させる」をミッションに掲げ、日本人による海外発のフットボールクラブ経営に挑む、シンガポールに拠点を置くグループだ。2022年2月にベルギー2部のKMSKデインズ(現地表記KMSK Deinze)の買収合意が報じられ、同年5月には欧州各国で指導経験を持つ⽩⽯尚久の同クラブ監督就任を発表するなど、注目を集めている。今回はグループの中心メンバーである小野寛幸CEOと飯塚晃央COOの2人に話を聞いた。

前編では、ACAFPとは何なのか? アジア発のマルチクラブ・オーナーシップの狙い、そしてWeb3.0を活用したビジネス展開の狙いと展望を聞いた。

ACAFPとは何なのか?


――まずは、お二人の簡単な自己紹介をお願いします。

小野「ACAフットボール・パートナーズ(以下、ACAFP)のCEOを務めている小野寛幸です。現在は投資ファンドの組成・運用を中核事業とするACA Investments Pte Ltdという企業で、投資ファンドの責任者をやりながら、並行してこのACAグループの中にあるファンドの兄弟会社としてACAFPを作り、マルチクラブ・オーナーシップ(以下、MCO=複数クラブ保有)を事業として行っています。

 私は大学卒業後に証券会社に入社し、企業買収や資金調達の支援をする投資銀行部門でキャリアを始めました。その後、10年ほどシンガポールに在住し、一貫して資金調達や投資先の目利きのような仕事をしてきました。いつか自分がオーナーになってクラブを経営することを目標に仕事をしてきたのですが、これまでフットボール界との直接の関わりはなく、あくまでも一人のファンとしてフットボールを観てきました。今回、私たちはベルギー2部のKMSKデインズというクラブを買収し、これを皮切りにMCOを進めていきます。私の専門である投資の視点から言うと、私たちの事業はマーケットの大きさやビジネスとしての成立可能性が重要な要素ですから、日本ではなくて海外発で、持続可能性を持つプロジェクトと捉えています」

飯塚「私は、ACAFPでCOO(最高執行責任者)を務め、KMSKデインズに関してはCSO(最高戦略責任者)として、クラブ経営に参画しています。このプロジェクトに加わる前は、シント=トロイデンVVで3年ほどCFO(最高財務責任者)を務め、主に管理部門を中心にクラブ経営を見てきました。私は新卒で楽天に入社しているのですが、2015年から16年にヴィッセル神戸に出向し、管理部門サイドのマネージャーとしてフットボールクラブ経営に関わりました。その後、30歳を超えるタイミングで何かしら社会に貢献することを考えた時に、自分自身が小さい頃からプレーしていて人生において大切なものを教えてくれたサッカーに、今までの経験やスキルセットを使って貢献できるものがあるのではないかと思い、フットボールビジネスに飛び込もうと決意しました。そして、スポーツヒューマンキャピタルというスポーツマネジメント人材育成の学校に行き、そこを卒業するタイミングでシント=トロイデンVVから声をかけていただいたことがきっかけで、ベルギーに渡ったというのが私の経歴です」


――お二人はどのように出会ったのでしょうか?

小野「ACAFPは2021年の7月に立ち上げたのですが、その前に欧州サッカークラブの経営をしている方々にヒアリングをしたいと思い、その時に出会いました。あの相談に乗ってくれてたのは、いつでしたっけ?」

飯塚「2020年の夏頃でしたね」

小野「飯塚がまだシント=トロイデンVVに在籍していた時に欧州のフットボールクラブの経営の実際を教えてほしいと相談したのが彼との出会いでした。フットボールクラブの経営に関わっている日本人の方は非常に少ないですからね」


――そこからどのようにACAFPの誕生へとつながったのでしょう?

小野「2020年の夏に相談に乗ってもらった時、私としては単体のクラブを買収していくというプランを意識していたのですが、飯塚と話をしていくうちに、おそらくMCOという形がいいのではないかというアイディアが出てきました」


――おっしゃるように、今のヨーロッパサッカー界のクラブ買収は大富豪個人ではなく、投資グループによるMCOが急激に増えています。MCOの経営的メリットとは何でしょうか?

小野「投資的な言い方ですが、一つのクラブを買うとエンジェル投資っぽいですよね。要はクラブを買った後は、移籍を上手くやる、切った貼ったみたいな賭けの要素が強くなるわけです。ところがMCOなら、プラットフォームとして、ベンチャーキャピタルのようにいろんなところに投資をし、そこから出てくる選手の数が数倍になってくるので成功の確率が上がります。そんな話を飯塚の経営視点と私の投資視点で議論していくと、MCOが最適だろうとなりました」

MCOの成功例として挙げられるのが、マンチェスター・シティら世界各国の10クラブを保有しているシティ・フットボール・グループ。公式ドキュメンタリー『SCOUT』では、グローバルなスカウト網に引っかかった50万人もの選手がデータベースに登録されている実態が明らかに


――そのMCOの母体として、ACAFPを作ったわけですね。

小野「そうですね。ACAFPはフットボール界で一種のベンチャーキャピタルのような考え方をしていると捉えていただければと思います」

飯塚「2020年に人を介して、小野を紹介していただいた時、実を言うと私自身、自分の中でシント=トロイデンVVでの仕事に対して『やり切った』感覚があり、『さて、次はどうしようか』と考えているタイミングでした。私自身もフットボールビジネスの世界で貢献したいというか、世界のフットボールビジネスに何かを残すことをやるのであれば、自分たちで代表権や経営権を持って何かを実現できる場所やクラブが必要だなと考え、このプロジェクトに参画することに決めました」

小野「私が担当する投資部門、飯塚のクラブ経営部門、そしてスポーツ部門は三位一体です。このパズルのピースが揃わなければ、かなり高い確率で失敗します。実際、新しくクラブを買収した後に経営で失敗するのは、お金は入れたけれど、そのまま遠隔でふんぞり返ってる人たちというパターンが多いです。ですから、ちゃんとクラブの中に入って行き、経営権を100%取り、自分たちのチームメンバーが現場でクラブ経営を行うことが大事だという危機意識は、最初から持っていました。そこでACAFPという会社を作る時に、欧州サッカークラブ経営の実情を知る飯塚には創業メンバーとして来てほしいという強い思いがあり、それが彼の思惑とも一致したところが大きかったです」

MCOを目的とした組織構造と「100日プラン」とは?


――MCOを目的にした組織というのは日本には馴染みがないものですが、ACAFPの組織構造について教えていただいてもよろしいでしょうか?

小野「私は組織内の投資部門で、いわゆる資金調達とクラブ買収の交渉を担当しております。飯塚はクラブ経営部門で、買収したクラブに入って行って我々のストラクチャーを根づかせる役目です。強化部門は今回監督に就任した白石が務めています。この3人のトライアングルで三位一体を実現しています。現状は1クラブなので、飯塚は現在デインズの責任者ですし、白石も同クラブの監督業に専念していますが、今後、傘下クラブが増えていくと、飯塚が100日プランで会社の中に入って僕らの色に塗り変えてからまた出ていって、別のCEOを雇うというサイクルで回していくことになります。完全にクラブに入り込んでフレキシブルに動く部隊と、中核クラブであるデインズで働く部隊の2つに分かれると思います」


――小野さんの役割をもう少し具体的に教えてもらっていいでしょうか?

小野「クラブ買収をする際の候補クラブのスポーツ部門や経営部門の評価のほか、買収交渉や買収の設計などの統括をしています。現在は、世界初のWeb3.0を活用したファンアクティベーション事業のフレーム構築や、事業を応援してくれる投資家に説明をする時の交渉を私が担当しています。そして、買収先のクラブ側で詳細を詰める仕事を飯塚にやってもらうという役割分担になっています」


――最近のフットボールクラブも三位一体という形で運営されるケースが多いです。1つ目が経営部門、2つ目が監督を中心とする現場、3つ目が選手の獲得や監督の招聘を担うスポーツディレクション部門で、それらが三位一体として語られています。ACAFPの場合は、例えば白石さんがスポーツ部門とスポーツディレクション部門を担当されるのでしょうか?

小野「我々のフットボールのストラクチャーやフィロソフィのベースは、すべて白石が作っています。最初の3カ月間のPMI(買収後の統合プロセス)の段階でのフットボール組織のリストラクチャリングは、白石自身が行いました。ですが、一番重要なことは我々のフットボールをピッチ上で表現することです。それができる最適な人材はやはり白石ですから、彼には現場サイドをしっかり押さえてもらっています。白石をサポートするために、トッテナムやベティス、ボルドーなどで豊富なスカウトとしての経験を持つアドリアン・エスパラガという人材をスポーツダイレクターとして迎えました。さらに、フェイエノールトのアカデミーディレクターを務めていたステンリー・ブラードに、フットボールアドバイザーとして加わってもらいました。このような形で我々は今、世界に通用するようなフットボールの構築を進めています」

エスパラガ氏のスポーツディレクター就任を伝えるKMSKデインズ公式Twitter

Web3.0でサッカーの価値を「解放」する


――ACAFPは組織として明確なビジョンを掲げられています。その点についても伺ってよろしいでしょうか?

小野「我々は、『サッカーの価値を解放し、進化させる』というビジョンを掲げています。選手を獲得し、クラブを強くし、タイトルに近づき、人気を集め、スポンサーや新たな収入が生まれるというモデルが、2010年代のグローバル化、テクノロジーの進展、SNSの普及により、リーグ間および同一リーグ内での格差を助長しました。このサイクルの中では、いつまでたっても5大リーグ以外のクラブはその領域に踏み込めません。我々は、フットボールをメディアとして捉え、メディアの中でも広がり続ける格差をビジネスの仕掛けによって解放することを目指しています。我々が特に着目しているのがバーチャルの部分です。例えば、スタジアム体験をスタジアムだけで完結させる必要はありませんよね。ファンの目線になった時、クラブとの接点を増やすことは必ずできるはずです。それをテクノロジーの一歩先、SNSの一歩先を見据えて進めています」

飯塚「既存のフットボール界は、完全にヒエラルキーができ上がっています。今回我々が買収したようなベルギー2部のクラブでは、地域の経済を飛び越えてグローバル進出したり、より高いレベルで戦おうとした時に、なかなか手段が見つかりません。ただ、フットボールは本来的にはもっと自由に競争があるべきだと思いますし、素晴らしい歴史や文化、アセットを持っているクラブは数多くあります。そういったクラブが持つ潜在価値を引き出すのが我々の役割だと考えています。それを実現するために、我々がミッションとして掲げているのが、デジタルの世界で持続可能なビジネスモデルを構築することです。そのクラブだけでは解決できない課題に対して、我々がソリューション(解決策)を提供することで彼らの成長をサポートしたいと考えています。それが『解放』という言葉に表現されています」


――その手段の一つがWeb3.0の活用ですか?

飯塚「その通りです。Web3.0やテクノロジー、我々が独自に開発を進めるビデオストリームサービスなどを通じて、グローバルなファンとの結びつきをサポートし、持続可能なビジネスモデルを作る。今後のテクノロジーの進化によって、リアルなスタジアム体験とデジタルなエンターテインメント体験は、よりシームレスな状態になっていくでしょうし、そういった新たな顧客体験の創出をビジョンとして掲げています」


――不透明さが指摘されることの多いフットボールクラブ経営の文脈からは、ガバナンス面のアプローチも強調されていますね。

飯塚「多くのサッカークラブが抱えている、経営の透明性の問題や、ガバナンス不全という課題に対しても、しっかりとアプローチしていきます。実は、それだけでも十分な価値があると我々は考えているんです。その上で、このフットボールクラブの本質は、あくまでもピッチ上でのフットボールですから、いかにフットボールの質を磨くかというポイントについても、しっかりデータやファクトに基づき、科学によってフットボールを磨き込むことを考えています」

小野「経験や勘に頼るだけでなく、データによって客観的に示すことで、例えば多くのアジア人選手の潜在価値を解放することができるとも考えています。僕たちが持つデータによって、彼らに可能性を試す場所を提供することができるはずです。大きな消費市場、ファン市場を捉えることが、持続可能なビジネスを作るための大きな要素だと思うので、東南アジアを含めたアジアに目を向けた事業的な取り組みを進めています」


――Web3.0など、デジタルを使った新しい観戦体験とは、具体的にどういうものなのでしょうか?

飯塚「デジタルエンターテイメントアセット(以下「DEA」)という会社と、パートナーシップという形で提携をして、ある取り組みを進めています。DEAさんは、GameFiのサービスを運営している会社で、本社はシンガポールにあります。主に東南アジアと日本を中心にサービス展開されていて、『Play & Earn(ゲームして稼ぐ)』を合言葉に、ユーザーがゲームをプレーすると、その結果に応じたリワード(報酬)を受け取ることができます。そのリワードは、暗号資産として現実世界で使うことができます。もちろん、暗号資産を換金して現金化することも可能です。我々はこれをフットボールと組み合わせることを考えています」

GameFiのタイトルの一つ、 JobTribesのプレー画面


――どのように組み合わせるのでしょうか?

飯塚「例えば先日、デインズのサポーターズクラブの方々との意見交換をした時に出てきたのが、アウェイ遠征時にバスをチャーターする費用など、応援にはとにかくお金がかかるということでした。そういう方々には、例えば10人とか20人のコミュニティでゲームをして、バスが借りられるくらいのリワードをためていただきます。そのリワードをもとにクラブからバスの遠征料を出すわけです。Web3.0の考え方は非中央集権化であると言われますが、このようにコミュニティごとに自主的なアクティベーションが起こってくることは、フットボールと相性がいいと考えています」

小野「DEA社は、『JobTribes』というブロックチェーン連動ゲームを作っています。1日15分、20分遊ぶと、「DEAPcoin(ディープコイン)」という暗号資産を稼ぐことができます。例えば、『ドラゴンクエスト』のゴールドや、『ファイナルファンタジー』のギルが実際の応援グッズのユニフォームに置き換わったり、アウェイバスのチャーター代となったりするわけです。Web3.0のポイントは行動変容です。ただ単にアウェイバスをスポンサー的に提供するのではなく、クラブのために行動するという体験から勝ち取る、そこにゲーム性を取り入れることで、クラブとの違う接点を作りながらクラブを盛り上げるための目標に向かって力を合わせて動くという体験を提供することが、私なりのWeb3.0の答えであり、形です」

飯塚「この座組をもとに、我々はビデオストリーミングサービスにWeb3.0的なサービスを組み入れることを画策しています。例えば、日本人選手やベトナム人選手、インドネシア人選手を獲得して、選手たちのドキュメンタリーやインタビュー番組などを自分たちで制作し、それを自分たちのビデオストリーミングサービスで公開します。その動画コンテンツを観て、エンゲージメントを高める行動を多くしてくれる方にリワードを提供します。そのリワードが、例えばユニフォームやグッズ、チケットに置き換わったり、よりリッチなコンテンツを観るためのサブスクリプションのフィーになるという仕組みです」


――それは面白いですね。

飯塚「『Play & Earn』は現時点ではコミュニティ支援という意味で有効な手段ですが、グローバルに接続するという意味では、『Watch & Earn(視聴して稼ぐ)』のコンテンツとして世界に出せる仕組みに乗せることがより有効です。ローカルからグローバルへとつながる平面から、我々はもう一歩先に、具体的には立体的にメタバースという世界につなげていきたいと思っています」

小野「我々はまず、Web3.0としてのコミュニティとサービスをつなげてグローバルに市場と、メタバースという空間の中に一つにまとめる。そこにはいろいろなサービスがあり、コミュニティのメンバーが貯めたリワードを『どう使うか決めよう』といった世界が一つのクラブのコミュニティとして発生し、それがボーダレスに行われる世界を創り上げます。これは新たな観戦体験の創出につながると考えていますし、今までにない収益発生の仕方だと思います。そのコミュニティが、例えば100万人とか200万人の規模になった時には、そこにさらにスポンサーシップが発生する。そういった世界を創り上げることが、今後、我々がWeb3.0としてやっていくことです」


――なるほど。いわゆる投げ銭的に直接ファンから課金してもらうようなシステムではなく、興味を持ってもらうファンの母数自体を増やしてクラブの価値を上げていく仕組みなんですね。

小野「はい。ここで面白いのは、先ほどのファンにアウェイバスを無料で提供する話も、ただクラブからのサービスとしてやってしまえば何のありがたみもなければ、自分たちで勝ち取ったものでもないので味気ない。そのうち当たり前の権利になっていくかもしれません。そうではなくて、ゲームをやってみんなで結束したからこそ得られたものとして100人乗れるバスを勝ち取るのとでは、印象も違ければそこに向ける熱量もまったく変わってきます。だからスポンサーの仕組みとして単純に僕たちクラブがそのお金を払うのではなく、そういう仕組みを理解しNFTスポンサーという広告枠を買ってもらって、そのお金でゲームのファンも増やす。そして、ひいてはそれもクラブの売上に繋がるような、通常のスポンサーシップに比べてひと手間ふた手間入れてるんですけど、それがローカルやグローバルの愛着心だとか、僕たちのクラブを知ってもらうきっかけになるという狙いもあります」

KMSKデインズのサポーターたち


――確かにこのWeb3.0のスキームをMCOで買収した複数クラブに横展開していくメリットは想像しやすいですね。グループ内で選手をシェアし合う以上のシナジーがありそうです。

小野「まさにそうなんです。さらに言えば、このノウハウは我々のクラブにとどまらず、レアル・マドリーやリバプールにも汎用性があります。僕らはMCOで複数のクラブにこれを転用することで、例えばプレミアリーグのクラブにも手が届くような売り上げ規模のクラブを作り出したい。そういう想いを込めてビジネスの形を完成させたいと考えています」


――このWeb3.0のスキームを傘下クラブ以外にも展開していく可能性があるということですか?

小野「そこも見据えています。例えば、MCO戦略を採用しているシティ・フットボール・グループは、あくまでもフットボールで勝つために動いていますよね。でも、私たちはビジネスでも成功させなければなりません。フットボールクラブを買収し経営しますが、それは言い換えれば、AIを含めたWeb3.0の取り組みによって、フットボールクラブの経営を改善するための実証実験でもあります。これを、様々なニーズを持つ他のクラブにアレンジしてはめ込んでいく。それを提案していくことが、私たちの事業の収益につながると思っています」


――一種の社会実験というか、サッカークラブ経営にとどまらない事業モデルですね。

小野「僕たちが運が良かったのは、DEA社にはPlayMining(プレイマイニング)というプラットフォームのプロックチェーン経済圏の中でメタバースを作るという構想が先にあり、僕らはそれを横目で見ながら途中から乗っかって『フットボールを主語に置き換えたらこんなことができる』と提案できたことでした」


――これだけグローバルに展開できるのもフットボールの利点ですし、地域のコミュニティと密接に結びついているのもフットボールの特徴だと思うので、そこを結びつけることで新しい何かが生まれるということですね。

小野「飯塚はよく『グローカル』という言葉を使うんですけど、まさしくそこが重要なところだと思います。その接点がリアルにとどまらないのがWeb3.0ですし、リアルとバーチャルをフラットにして、ファン目線で欲しいものを提供する。ファンというのは生観戦できるローカルの人だけじゃなくてテレビで観る人も、その両者が交流したりもできる。僕たちが東南アジアの選手を獲った時にどんな生活してるかとか、ちゃんと生活がフィットしてるかとか、ファンとしてはピッチ上以外でもケガした時や挫折した時に応援したりする場が欲しいわけで。選手は選手でつらい時にサポーターとバーチャルでつながってると踏ん張れるかもしれない。そういう絆であったり、つながりという見えないものを価値として提供していける可能性があるのではないかと考えています」

なぜ、アジアへこだわるのか?


――今回のプロジェクトでは、アジアへのこだわりを前面に打ち出されています。なぜでしょうか?

小野「私自身が事業家として世界で挑戦したい、プロフェッショナルとして勝ちたいと思った時に、これ以上ない機会が存在すると確信しているのがフットボールの世界です。私は10年ほどベトナムを中心にアジアで投資事業をしてきて、そこでいろんな人たちと接してきました。ベトナムが2018年のAFCU-23選手権で準優勝した時や、カタールW杯アジア最終予選に進出した時は、ベトナムはもうお祭り騒ぎで、バイクで道が埋まりました。ベトナム人のフットボール愛の強さを肌で感じたことは、私の中に一つの原体験としてあります。あの時は中田英寿がペルージャに移籍した時のことを、ふと思い出したんです」

ベトナムは5月に自国開催の東南アジア競技大会で連覇を達成。再びスタジアム周辺の道路がサポーターに埋め尽くされていた


――現在の東南アジアでは、20年前の日本と似た状況が起こっていますよね。若者文化、サブカルチャーとしてフットボールが受け入れられているように見えます。

小野「今、東南アジアにあの熱が来ています。例えば、アジア人の選手が、欧州クラブに移籍して、1シーズンを通じて、ラスト15分程度しか出場できずに母国のクラブに帰って来ると『負け犬』のような扱いを受けてしまうケースは少なくありません。選手として人として、多くの成長や経験をしたはずなのに、不特定多数の国民から『失敗』と吐き捨てられてしまうわけです。例えば私たちが、その背景にあるストーリーまで含めて挑戦の内幕を届けることができれば、まったく反応も変わってくるのではないでしょうか。アジアの人々は自国の選手たちが戦って成長する姿を見たいはずだと私は感じました」

飯塚「私側からの目線で少し補足すると、私たちが戦う市場はあくまでも欧州です。それは、コンペティションが欧州にあるからです。では、欧州で戦うために何をすべきかと考えた時に、グローバルの市場に接続したいと考えました。その時、マーケットの選択としていろんな国や地域があります。米国か南米か、オーストラリア・オセアニア地域かといった具合です。その時に、ACAグループは強いビジネスリレーションをこのアジアという場所で持っているじゃないかと考えたわけです。東南アジアでは今、サッカー人気が非常に高まっていて、経済が成長している。人口が増えていて、若年層の割合が非常に高く、さらなる経済成長が見込めます。これを考えると、やはり日本だけでは難しいと思うんです。世界で戦うためには、市場を自分たちの小さな市場でまとめるわけにはいきません。今回は東南アジア中心に話をしていますが、アジア全体のフットボールのレベルアップやデベロップメントに貢献できれば、それは世界のフットボールビジネスへの貢献にもつながります。それが回り回って日本のフットボールの発展にもつながると考えています」


――欧州のメガクラブもアジア市場は狙っていますが、ACAグループはもともとの拠点がシンガポールというのは大きな強みになりそうですね。ここからは買収したKMSKデインズでの具体的な取り組みについて聞かせてください。

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Edition: Takashi Ikeda
Photos: (C) KMSK Deinze, Getty Images

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。