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アーセナルはいまだ夢の途中。今があるのはレノがいたから

2022.03.27

17勝3分8敗・44得点31失点で現在プレミアリーグ4位。5季ぶりのCL出場権を目指して残り10試合、アーセナルに「毎試合が決勝戦」の日々が戻ってきた。そんな中で迎えた前節、アストンビラ戦(○0-1)にあった守護神をめぐるドラマ。ロンドンからバスで約3時間の決戦地バーミンガムを訪れた、おなじみの“アーセナル教信者”さる☆グーナーさんが、その陰日向の物語を伝えてくれた。

 「ベルント・レノは必要ですか? 」

 3月19日、アストンビラ戦のスタメン発表を前に、SNSでこのような質問をいただいた。

 自分にとって「必要ない選手」はこの世に存在しない。トンパチすぎて周りに迷惑ばかりかける劣等生であろうが、ポンコツでまったく使い物にならない選手だとしても、それをひっくるめての「アーセナル」というドラマであり、エンターテインメントだと思っているし、そのドラマを演じる上で欠かせない演者の一人だと思っている。

 そういう意味でいえば、レノは学級委員タイプの優等生キャラだ。アーセナルのNo.1を背負い、絶対的守護神としてこれまで君臨してきた。アーロン・ラムズデイルにその座を明け渡すまでは。

ゴールキーパーという世界

 レノがアーセナルに入団したのは2018年夏。当初はペトル・チェフの裏方だったものの、チェフが負傷で離脱すると、そのままアーセナルの正GKとしてゴールマウスを護ることとなった。

 その後は順当に活躍。19-20シーズンは、ケガで長期離脱があったにもかかわらず、チーム得点王のオーバメヤンに次いで「クラブ年間最優秀選手」投票2位を獲得。彼がいかになくてはならない存在だったのかがわかる。

 だが当時アーセナルのGKには、エミリアーノ・マルティネスというもう一人の逸材が控えていた。十代でアルゼンチンからロンドンに渡り、アーセナルにおけるキャリアのほぼすべてをローン先のクラブに捧げてきた男だ。しかし2020年、レノが長期欠場した際は見事なバックアップを務め、FAカップ優勝に大きく貢献。カップ戴冠後は「レノorマルティネス正GK問題」でサポーター界隈が揺れるほどの再評価を受けた。

レバークーゼンから移籍直後のプレシーズン、レノが投稿したチェフ、マルティネスとの写真。18-19はチェフからレギュラーの座を奪ってリーグ戦32試合、19-20は30試合、20-21は35試合に出場してきた

 ちょうどその頃、マルティネスを育てたGKコーチ、リー・スメルト氏にお話を伺う機会を得た。アーセナルでは2010年から5年間、アカデミーのGKコーチを務めた方である。

 「エミのことはよく覚えてるよ。彼はほんといい奴でね、ベリベリーラブリーボーイだった」

 「彼はとにかく練習好きでね、燃え尽きるんじゃないかと心配だったよ(笑)。それくらい練習の虫だった。だから今があるのも納得だよ」

 スメルト氏は、いかにもイングランド人らしい言い回しで、昨日のことのようにマルティネスを振り返ってくれた。

 そして肝心の正GK問題については、こう答えてくれた。

 「ただ、これはあくまで個人的な意見として聞いてほしいんだが、アーセナルのファーストチョイスを選べと言われたら、私は迷わずレノだ。でもエミとは一緒にやってきたし、彼はずっとここまで我慢してきた。だからなんとか踏ん張ってほしいとは思っているが、君はどう思う?」

 突然の問いに僕は正直言葉に詰まった。レノは加入以来、堅実なプレーでクラブを支えてきた。ベンゲル以降の真っ暗闇の暗黒期をずっと照らし続け、アーセナルがこの位置にいるのは間違いなくレノの功績だ。

 とはいえ、マルティネスは入団から約10年、ずっと第3の男として控えに甘んじてきた苦労人。そんな彼がようやく日の目を見る時がきたのだ。グーナーとしては長年同じ道を歩んでくれたマルティネスを推したい気持ちもある……。

 僕が返答に窮していると、スメルト氏はこう続けた。

 「マルティネスはチェフの裏方でも頑張ってきたし、レノが来ても控えとして頑張ってきた。でも、誰かが2番手にならなくてはいけない世界、それがゴールキーパーという世界なんだ。ゴールマウスは一人しか守れない。GKというのはそういう厳しいポジションなんだよ」

 「チェフの陰に隠れていたダビド・オスピナも代表(コロンビア)では正GKだったが、一番にはなれなかった。どのクラブも一緒だ。プロとはそういうものなんだ」

 あまりにもの正論に、ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。わかっていたこととはいえ、プロの口から発せられる言葉の重みは次元が違った。

 その夏マルティネスは、アーセナルを去った。

現在29歳でアストンビラとアルゼンチン代表の正GKを任されるマルティネスは、17歳だった2010年から2020年までアーセナルに在籍。写真は当時22歳の2015年2月、現ユベントス守護神シュチェスニー(左)、現ナポリ守護神オスピナ(右)と

そこにいた“あのレノ”

……

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アーセナルベルント・レノ

Profile

さる☆グーナー

ノースロンドン在住、アーセナルのせいで帰国できなくなった非国民。アーセナル出家信者。ダイエットにも役立つかもしれない8割妄想2割ガセのエアブログほぼ毎日更新中『Arsenal 猿のプレミアライフ』♪底辺ユーチューバーもやってるよ!『Arsenalさるチャンネル』。