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稀代の戦術家レネ・マリッチが分析した、ペップ・バイエルンの[2-3-5]

2022.04.05

戦術ヒストリア:2015-16 バイエルン×ジョセップ・グアルディオラ

今や主流の“偽サイドバック”が注目され始めたのが、ペップのバイエルン時代(2013-16)。バルセロナ(2008-12)の次にドイツ王者を変革させた名将の戦術をここで分析するのは、マルコ・ローゼ監督の副官としてザルツブルク、ボルシアMG、そして現在はドルトムントでアシスタントコーチを務めるレネ・マリッチだ。この『Spielverlagerung』への寄稿が目に留まり、プロ指導者の道を歩み出したという異色の分析家が2016年1月12日(当時23歳)に発表した興味深い記事を特別掲載する。

※『フットボリスタ第88号』より掲載

 バイエルンが[2-3-5]の布陣でプレーしている! 欧州各国の専門誌は、そう伝えている。特にスペインでは何度も繰り返し取り上げられているようだ。中には[2-3-2-3]という捉え方をしているところもある。1940年代に主流だった、いわゆる“WWシステム”だ。あるいは、そういった考え方を否定するものも多い。この[2-3-5]という並びは、典型的な[4-1-4-1]のボール保持時の並びに過ぎないのではないか、というのだ。

 基本的には、そのように見ることもできる。[4-1-4-1]の並びは、とりわけボール保持時に重きを置き、攻撃時に高い位置を取るチームの場合、多くは[2-3-5]の並びになるからだ。SBが最前線の幅を取り、両ウイングが中央に絞る。アンカーと2枚のセントラルMFが後方に残ったCBの前でゲームを組み立てる。ユルゲン・クロップやトーマス・トゥヘルがドルトムントを率いた時に、このような位置取りの構造を作っていた。他のチームでは、セントラルMFとウイングを高く押し上げさせた形も見られる。この場合は、中央に1枚残ったアンカーと両SBが同じ高さで並ぶことになる。

 だが、グアルディオラの[2-3-5]は、上に説明したような方法を採用する大抵のチームとは根本的に一線を画している。ペップのチームのSBは、タッチラインを上下にアップダウンしない。そうではなく、ハーフスペースのポジションを取り続ける。このやり方について、多くのメディアが歴史的なWWシステムと結びつけて解説を試みている。グアルディオラの[2-3-5]では、大外のレーンにポジションを取るのは最前線の両ウイングだけ。中央にはCFと2枚のシャドーストライカー、その後方には3人の選手が同じ高さで並び、中央と両ハーフスペースを基準にスライドしながら大外レーンまでカバーする。

WWシステム

 とはいえ、最終的にはそれも重要ではない。フォーメーションとは、反復される特定の列の配置を一目でわかりやすくするためのものに過ぎない。[2-3-5]であろうがWWであろうが、同じことだ。より重要なのは、その中での動きなのだ。

“フォーメーション”が“システム”に変わる瞬間

 グアルディオラのボール保持時の[2-3-5]は、何よりもボール保持とポジショナルプレーのおかげで成立している。長い時間ボールを繋ぎ続けられることで、SBがリスクを冒すことなくハーフスペースまで絞ってくることが可能になるからだ。そうすることで、アンカーとともに3人のラインを構築し、どんな瞬間でもCBに対して3つのパスコースを提供するのだ。

 この3人で構築するラインが決定的な役割を果たす。ペップのバイエルン1年目(2013-14シーズン)は、ボールの循環に少しばかり難を抱えていた。ボール保持の時間が長過ぎ、同時にあまりに(早く)ウイングにボールを入れることに重点を置き過ぎていたのだ。マルティ・ペラルナウの著作『ペップ・グアルディオラキミにすべてを語ろう』の中では、いわゆる“U字型のパスの循環”を読み取ることができる。それは、バイエルンのビルドアップから創造性と構築性を奪い取ってしまうものだった。

 動きのポジショナルプレーの他にも、各ラインの間に縦パスを入れるプレーもそれほど浸透していなかった。SBのフィリップ・ラームを中央に絞るSBとしてプレーさせる変更とポジショナルプレーをより発展させることで、その問題は解消された。現在のボール保持時の[2-3-5]では、中盤中央での配置がより極端になり、非常に大きな利点をもたらしている。

大外レーンではパスコースが空き、両ウイングがフリーになる。この場合、“U字型”のパス回しになろうと効果的だ。両ウイングがそれぞれより大きなスペースを得られ、有利な状況でボールを受けられるからである

 このシステムでは、ラームとラフィーニャの2選手が中に絞るSBとしてプレーすることが多く、ほぼ設計図通りの精密さでアンカー(主にシャビ・アロンソ)と同じ高さにポジションを取り、3人のラインを形成する。この動きや正確なポジショニング、あるいは若干の変更は、対戦相手の守備ラインの構成に応じて行われる。そうして、ビルドアップのための配置が非常に整理され、各ポジションのそれぞれの高さで理想的なラインが構成されるようになるのだ。これにより、相手チームは効果的にプレッシャーをかけることが困難になる。

 それぞれ左右のハーフスペースまで開いた2枚のCBには、ウイング以外にも縦パスを入れる3つの選択肢(アンカー、SB、セントラルMF)がある。対戦相手は、ボールサイドの中央にいるこの3人の選手をマークしなければならない。その他にも、GKマヌエル・ノイアーへのバックパスやCBへの横パスという選択肢が残されている。セントラルMFの2枚もボール保持時には高くポジションを取るため、最前線の配置はより密度の濃いものとなり、[2-3-5]という表記にそぐわないものとなる。こうなると、相手の両ウイングはプレスをかける際に問題に直面することになる。どこに向かってプレスを仕掛けるべきか、基点を失ってしまうのだ。

数的優位による難しさ

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ジョセップ・グアルディオラバイエルンレネ・マリッチ

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シュピールフェアラーゲルンク

2011年のWEBサイト立ち上げ以来、戦術的、統計的、そしてトレーニング理論の観点からサッカーを解析。欧州中から新世代の論者たちが集い、プロ指導者も舌を巻く先鋭的な考察を発表している。こうしたプロジェクトはドイツ語圏では初の試みで、13年には英語版『Spielverlagerung.com』も開始。監督やスカウトなど現場の専門家からメディア関係者まで、その分析は品質が保証されたソースとして認知されている。

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