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試合映像の振り返りによるコーチングで選手の“こころの成長”をサポート。パナソニックが「Spodit」を開発する理由

2022.03.11

この記事は『パナソニック株式会社 Game Changer Catapult』の提供でお届けします。

パナソニック社の新規事業プロジェクト「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」がスポーツ映像の自動撮影・配信プラットフォームを開発している。名称は『Spodit』(スポディット)。現在、一般販売に向けて複数のサッカーチーム協力のもと、実証実験を続けている。競合も多い市場で同商品はどのような差別化を考えているのか。開発を主幹するパナソニック社所属の小梶裕貴氏と杉岡将伍氏に話を聞いた。

選手が自発的に課題を見つけて解決する環境作り

――『Spodit』についてお聞きする前に、この商品を開発している「Game Changer Catapult」とはどのようなプロジェクトなのかを教えてもらえますか?

小梶「新規事業の創出および、それらをリードする人材育成を目的として立ち上げられたものです。技術革新や価値観の多様性……変化が激しい世の中に対応するためにも、パナソニックとして既存の『モノを作って売る』というプロセスから見直して、様々な領域に対してアイディアを出し、そこから事業に育てていくことを目的に活動をしています」

――「Game Changer Catapult」のHPを拝見すると、6つの対象領域(「住空間・家事」「育児・教育」「メディア・エンターテイメント」「食ソリューション」「健康・美容ソリューション」「スポーツ」)で活動していることが紹介されています。既存のパナソニック社商品ラインナップから考えると「スポーツ」が含まれているのは意外な気もします。

杉岡「確かに商品としてはおっしゃる通りなのですが、会社としてはサッカーをはじめ、多くのスポーツを支援しています。スポーツを通じた社会貢献への意識が高い組織風土もあるので、社内では自然なこととして受け止められています。その上で、小梶も私も学生時代からずっとスポーツをしていて、恩返しと言いますか、スポーツの新しい価値を生み出したいという想いでGame Changer Catapultに参加しました」

――その“新しい価値”の具体案が『Spodit』ということになると思うのですが、興味深いのはメインの顧客層を「小・中学生のサッカーチーム関係者」としている点です。

小梶「きっかけはコロナ禍による行動制限です。サッカー少年を子供に持つ保護者の方から『自分の子供の試合を観に行けなくなった』という話を聞いて。私もJリーグが好きでスタジアムに試合を観に行くのですが、無観客開催になってしまった。ただ、Jリーグの場合はDAZNやスカパー!で観ること自体はできる。一方で小中学生のサッカーは違います。来場が禁止された代わりに試合映像が配信されるなんてことはありません。来場規制が緩和された際に(小中学生の)試合会場に行きましたが、ビデオカメラで応援する以上に必死に撮影をされている保護者の方の様子を見て、撮影や配信のニーズがあると思いました」

『Spodit』の開発経緯を説明する小梶氏

――『Spodit』の公式HP を拝見すると「フィールドの全面撮影」や、「シーン別の試合映像再生」など、保護者の記録用商品の枠を超えた機能が備わっているようにも思えます。

小梶「今後の展開として保護者の方に映像を届けることは想定していますが、まずはチームに『Spodit』を導入してもらうことが必要不可欠だと考えています。つまり、指導者の方にとって利用しやすい機能として『フィールド全面撮影』や『試合中の振り返りたいシーンに素早く振り返れる機能』などを実装しています。指導者との会話の中で浮かび上がってきた最大の課題は選手が受け身になってしまうこと。つまり、指導者からの指示を待ってしまう選手が多いことに問題意識を持たれている方が多いことがわかりました。選手が自発的に課題を見つけて解決する環境作りの1つとして『Spodit』をご利用いただければと思っています」

――このインタビュー前に『Spodit』を試験的に導入している房総ローヴァーズ木更津FCの試合を見学させていただきましたが、試合後に映像を見ながら選手とコーチがディスカッションしている様子はとても印象的でした。映像があるだけでこんなに議論が活性化するのかと。

小梶「(映像を見ながらの)選手間での議論に対して指導者がサポートしてあげる形になっていましたよね。(カレン・ロバートさんが代表を務める房総ローヴァーズ木更津FC)副代表の松川耕平さんや、コーチの内藤雅人さんに意見をうかがいつつ、実証実験を繰り返しています。他にも『使ってみたい』とお声がけいただいているチームがあるので、複数チームからフィードバックをいただいて、機能改善を繰り返していく予定です」

杉岡「『Spodit』をご利用いただいているチームの指導者の中には、選手の主体性の欠如に対して問題意識を持たれていない方もいました。ただ、指導者のインサイトを刺激することも我われの仕事です。実際に『Spodit』を導入して選手間のコミュニケーションが活発になったのを見て『こういう形での子供の成長はいいよね』と(指導者の)気付きに繋がったケースもあります」

試合後、『Spodit』を利用したミーティングの様子

――先ほどの試合中にコーチが何度も同じ指示をしているにもかかわらず、選手に伝わっていない事象が起きていました。ああいうシーンを試合後に映像を見ながら振り返ることができるのは意義があるなと感じました。

杉岡「そこは指導者の方にも評価いただいているポイントで、試合中に例えば『ケンタ!右!』と指示はできても、意図までは説明できない。選手もプレーを止めて整理する余裕もない。そこを記憶がフレッシュにうちに映像という客観的情報を見ながら説明できる意味は大きいと。逆に『この指示は俺が間違っていた』みたいなケースもあって、指導者にとっても反省や発見があるという声をいただいています」

サッカー文脈以外での好影響

――昨今、映像分析ツールは競争が激しい市場です。他社商品との差別化はどのように考えていますか?

杉岡「もちろん競合が多いという認識は持っていて、他社の商品もベンチマークしています。ただ、直接的に競合はしないのではないかとも思っています。繰り返しになりますが、我われの顧客はトップレベルの選手ではなく小中学生。自分で課題を考える主体性や、仲間とコミュニケーションをしてPDCAを回す習慣など、“こころの成長”にフォーカスして開発を進めていこうとしている点は他社とは違う部分です」

――そうなると『Spodit』は機能的価値以上に情緒的価値を感じてもらうためのアプローチが重要になってきますね。

杉岡「そこに関してはスポーツ心理学の専門家にも協力をいただいて、映像を用いたコーチングやコミュニケーションノウハウを開発しているところです」

小梶「そもそもなぜチームはそのようなツールを必要としているのか。どのように使えば効果的なのか。そのようなことを考えると商品を納品して終わりではなく、コンサルティングに近い形で購入者と弊社が継続的な関わりを持ち続ける形を想定しています」

――小中学生年代のチームには指導経験を持たないパパさんコーチが率いるチームもあります。そういうチームにとっては、コンサルティングがセットになっている商品は心強いと思います。

小梶「実際にそうした方(パパさんコーチ)に『Spodit』を使った感想を聞くと、『子供との会話のきっかけが増えた』や『子供が主体的に発言するようになった』といったサッカー文脈以外での好影響を評価いただくことも多くて、コンサルティングの方針を考える上で参考にさせてもらっています」

「spodit」概要図 ~サイクルを回しながら自立した選手に~

――『Spodit』の本質的な価値がどこにあるのか、少し見えてきた気がします。

杉岡「サッカーではないのですが、大谷翔平選手のフィーバーによって学生時代の目標管理や練習の振り返りの重要性が日本中に広がったと思うんです。スポーツ選手もスキルや結果だけではなく、考え方や立ち振る舞いを含めた人間性も社会では評価されるので、そういう人間形成の部分で『Spodit』が役に立つことができればと思っています」

杉岡氏は“選手のこころの成長”にフォーカスして『Spodit』を開発していると語る

利用者からのフィードバックが重要

――一般発売に向けて、現在はプロトタイプの『Spodit』を複数クラブに提供して、フィードバックを集めている検証段階とのことですが、今後の予定を教えてもらえますか?

杉岡「今年9月に会社として商品化に向けた審査会を予定しております。モニターとして『Spodit』を利用いただいているチームからの声や制作コストなどを踏まえて決定します」

小梶「パナソニックが支援する各スポーツチームからも『試してみたい』という声をいただいているので、連携するチームは今後も増やしていきたいと思っています」

――先ほどコンサルティングとセットという話もあったので、販売形態としては売り切りではなく、レンタルやサブスクという形になるのでしょうか?

小梶「現時点ではサブスクを考えています。ハードを売るというよりも、サービスを売るという認識なので、利用者のニーズを把握して、オプションメニューも含めて複数の料金体系を準備する予定です」

――個人的にはクラウド上で過去の試合映像がストックされて、保護者を含めたチーム関係者が自由にアクセスできるオプションメニューがあれば、あらゆる場面でコミュニケーションが活性化されて『Spodit』を導入する意味が大きくなるのではないかと。

小梶「そうした機能も想定しています。通勤時に両親が子供の試合映像を見たり、家庭内のTVに映して両親と子供間で意見交換をしたり。『Spodit』が生活の中に入り込むような形まで進化させるのが理想ですね」

――今日はありがとうございました。商品化を判断する9月に向けて『Spodit』を試すチームが増え、多くの声を集めることができればいいですね。

杉岡「はい。フットボリスタ読者の中には指導をされている方も多いと思いますので、この記事を読んで商品に関心を持ってくださった方、我われの考え方に共感いただけた方は是非ご連絡ください。実際に『Spodit』を使ってもらって、フィードバックを得ることが良い商品を提供する上で最も重要なことだと考えています」

小梶「会社として商品化の判断を下す上で、『Spodiit』に共感してくれる方が増えるという点は非常に重要なポイントです。まだ完成品ではないので、ご希望に沿えない部分もあるかもしれませんが、ご協力いただけるチームには誠心誠意向き合わせてもらいますので、よろしくお願いします」

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Hiroki KOKAJI
小梶裕貴(写真左)

パナソニック株式会社 くらし事業本部 事業開発センター 事業検証部所属。幼少期からサッカーを始め、自身の経験からスポーツがもたらす人間教育の側面に注目し、『スポーツ×教育』による新たな価値提供を探索している。パナソニックが培ってきた技術やノウハウを活用し、スポーツ業界に貢献すべく活動している。

Shogo SUGIOKA
杉岡将伍

パナソニック株式会社 くらし事業本部 事業開発センター 事業検証部所属。大学まで続けた野球経験を通じて、スポーツが人に与える影響の大きさに興味を持つ。特に育成年代においては、スポーツが運動能力だけでなく、人間性や協調性、言語化能力といった生涯に渡って不可欠な様々な力を育めると感じ、スポーツ×教育という領域で「成長」を最大化できるような新規事業を立ち上げるため活動している。

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パナソニック育成

Profile

玉利 剛一

1984年生まれ。関西学院大学社会学部卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリ開発等を担当。仕事と並行して通学した筑波大学大学院でスポーツ領域の修士号を取得。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」管理人。

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