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ベティスを陥れたセビージャの二面性。ラグビーのようなサッカー、原点の肉弾戦で“2位vs3位”ダービー制す

2022.03.02

セビージャ2位、ベティス3位。2月27日のリーガエスパニョーラ第26節、近年にない上位同士で迎えたセビージャダービーは、前半で2点を先取したロペテギ監督のチームに軍配が上がった。これでセビージャは15勝9分2敗で勝ち点54とし、ベティス(14勝4分8敗)に8差をつけるとともに、首位レアル・マドリーとの6差を維持。現地で試合を取材した木村浩嗣氏が勝負の分かれ目を解説する。

 サンチェス・ピスファン・スタジアムは快晴、気温21度。まるで初夏を思わせる、季節外れの、いや南部セビージャならあり得る天候の中で迎えたダービー。立錐の余地なくスタンドを埋めた観客は公式発表で3万7500人。が、これは嘘だろう。キャパの85%が上限というルールを守るための方便であって、実際は満員札止めの4万4000人のだったはず。15%分の空席なんてどこを探してもなかったのだから。

 今季3度目のこのダービーは「因縁の……」と呼ばれるはずだった。

 前回のコパ・デルレイではスタンドから物が投げ込まれジョルダン(セビージャ)が負傷して試合中断、翌日の再開後にベティスが勝利した(2-1/1月15〜16日)。被害者のジョルダンがケガのフリをしたと批判される異常事態に収拾が図られないまま終わっていた。最初のリーガでの対戦ではギド・ロドリゲス(ベティス)の退場もあってセビージャが勝利(0-2/昨年11月7日)。試合後スポーツディレクターのモンチは選手たちの歓喜の輪に飛び込み、敵地ベニート・ビジャマリンの芝生の上で土下座をしてセビージャファンに感謝を表した。明らかな挑発行為。家路を急ぐベティスファンから激しい罵倒とブーイングを浴びていた。

 ホップ、ステップとくれば次はジャンプ。因縁が爆発していつも以上に殺伐とした雰囲気になってもおかしくなかった。だが、この日の青空のような爽やかな、試合を楽しもう、という空気の方が支配的だった。ラ・リーガが付けたキャッチフレーズは「平和のダービー」。本物の殺戮が起こってしまうとグラウンド上のいがみ合いなんて、平和そのものである、という当たり前をあらためて認識することになった。サッカーが戦争だなんて嘘である。

サプライズをした方とされた方の気持ちの差

 セビージャのスターティングメンバーにはサプライズがあった。ケガでほぼ絶望と見られていたジエゴ・カルロスが先発。本調子でないと言われていたエン・ネシリ、ヘスス・ナバス、アクーニャも名を連ねていた。長期負傷中のスソ、ラメラ、出場停止のクンデ、オカンポス以外はベストメンバーだった。

 一方、ベティスの方はチーム得点王のファンミが出場停止でテージョが入り、GKには監督判断でルイ・シルバに代わりブラボが入った。こちらも可能な範囲でベストメンバーだった。

監督:マヌエル・ペジェグリーニ

 戦前の予想ではベティス有利だった。リーガの直近5試合で4勝1敗のベティスに対し、セビージャは1勝4分。セビージャはケガ人も多く、ホームアドバンテージでどこまで盛り返すかが焦点だったが、先発の顔ぶれだけから予想すると互角、という感じだった。

 だが、フタを開けてみると一方的なセビージャペースで前半は終わることになる。「なぜ、この内容が毎試合できないのか?」という質問が試合後会見で出て、「いや状況も毎試合異なるから……」とロペテギは口を濁し、一方カナーレスは「なぜあんな酷い前半になったのか我われも理解できない」と反省しきりだった。……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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