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「少年から大人へ」急成長を遂げたアントニー。 アヤックス期待の若手がセレソンで見せる謙虚な素顔

2022.02.23

2月23日のベンフィカ戦で、4強入りを果たした2018-19シーズン以来となるCL決勝ラウンドの舞台に立つアヤックス。今季も公式戦33試合108得点と超攻撃的スタイルを貫き、3年前に欧州で巻き起こした旋風の再現を狙う中で急成長を見せているのが、“アントニー”ことアントニー・マテウス・ドス・サントスだ。東京五輪での活躍も記憶に新しい、21歳にしてセレソンに名を連ねる有望株が描く著しい進化の軌跡を、ブラジル在住ジャーナリストの藤原清美氏に振り返ってもらった。

 アヤックスのブラジル人FWアントニーが絶好調だ。オランダの名門で2シーズン目を戦う21歳は昨年12月、エールディビジの月間MVPを受賞。今月もKNVBカップ準々決勝フィテッセ戦で2ゴールを決め、5-0の快勝に貢献した。

 そしてCLグループステージでは、ゴールに直接関わった回数が7回と大会全体の中で最も多い選手となった。5試合に出場したアントニーは、アヤックスの計20得点中2ゴール5アシストを記録。『Footstats』のデータによると58分に1回、ゴールを生み出している計算になる。チームは6試合全勝、グループCトップで決勝トーナメントに進出した。

CLグループステージ第4節ドルトムント戦(○1-3)では足裏とヒールを駆使した華麗なボールタッチで、マッツ・フンメルスを退場に追い込んだアントニー。さらに2得点を演出してチームの決勝ラウンド進出を確定させた

「L」に込められた2つの意味

 アントニーは10歳からサンパウロFCの下部組織で育てられた。頭角を現したのは、2019年。ブラジル全国の128クラブがしのぎを削るU-20の大会、コパ・サンパウロ・ジ・ジュニオールに、飛び級の18歳で出場した時のことだ。全9試合を戦い、4ゴール6アシスト。そのうち1ゴールはバスコ・ダ・ガマとの決勝で生まれている。アントニーはチームの優勝に貢献するとともに、大会MVPを獲得した。

 「僕にとっては、あれが人生のスタート地点だった。あそこからすべてが始まったんだ。すごく幸せだった。チームを手助けできたし、あの大会は、自分のプレーやチームの活躍が多くの人に見てもらえる、またとない機会でもあるから」

 大会後はトップチームのレギュラーに定着。ベストイレブンに選ばれたサンパウロ州選手権での活躍を皮切りに、2019年は公式戦45試合に出場。6ゴール6アシストでブレイクを遂げたアントニーを表す言葉として、「少年から大人へ」というフレーズがブラジルメディアの間で多用されるようになった。それほど、コパ・サンパウロから1年間での急成長ぶりが話題を呼んだのだ。

 さらにコパ・サンパウロでは才能だけでなく、その人間性にも深く印象づけられた。決勝トーナメント3回戦の前、アントニーは6歳のサンパウロサポーター、ラリッサと出会う。少女が被るかつらに隠されていたのは、脳腫瘍を取り除く手術を行いながらも治療のために髪が抜け落ちる過酷な闘病生活だった。何とかその力になりたい――そう考えたアントニーはラリッサと約束をする。そして有言実行のゴールを決めると、指でその名前の頭文字「L」を作って彼女に捧げた。

 さらに連帯の意を表すべくチームメイトとともに頭をそり上げて臨んだ決勝でも、アントニーは再び得点を挙げ「L」のハンドサインを掲げることに成功。そのゴールパフォーマンスは今でも続けられている。ラリッサへの激励と同時に、現在2歳になる息子ロレンソのイニシャルも表しているからだ。彼の人生の中で込み上げてきた様々な想いが、その一文字に込められている。

アントニー(手前)が抱きかかえているのがラリッサ少女。仲間たちとともに「L」のサインで記念撮影に応じている(Photo: Rubens Chiri/saopaulofc.net)

 そんなアントニーは普段からあまりはしゃいだり、率先して盛り上げ役を買って出るタイプではなく、一見クールで大人しい印象を受ける。しかし実際に取材で接してみると非常に気さくで、サポーターだけでなくメディアにも礼儀正しく丁寧に応対する好青年だ。そして2020年2月にアヤックスと5年契約を結ぶと、同年7月末に欧州へと発った。

 「いろいろなことが急ピッチで起こったけど、神と家族のおかげで、地に足をつけて、きちんと対応できている。目標に集中することで、一つひとつ夢を実現しつつある。すごく嬉しいよ」

「エラシコ」が表す心の成熟

 アントニーはブラジル代表でも順調に育っていく。アンドレー・ジャルジーニ監督率いる東京五輪代表では2019年5月のトゥーロン国際大会から招集され続け、翌年の五輪南米予選や親善試合でも常連。チームの主軸として年少者ながらもリーダーシップを発揮してきた。

 「トゥーロンから一緒にプレーしている選手達もいるし、攻撃陣はよく理解し合い、ピッチの中で誰がどこにいるのか、お互いにわかっているし、良いコンビネーションができている」……

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アヤックスアントニーブラジル代表

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。