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バスケ界で成功した手法をサッカー界へ輸出。アラベスとイストラの関係に見る、MCOのリアル

2022.02.07

2020-21シーズン、原大智が移籍したことで話題になったクロアチア1部のNKイストラ1961。実は、彼らはあるクラブの傘下に入っている。スペイン1部のデポルティーボ・アラベスだ。「バスコニア=アラベス・グループ」誕生の経緯、そして野心的なグループ戦略を傘下クラブの地元がどう受け止めているのか? マルチクラブ・オーナーシップ(MCO)のリアルに迫る。

フットボリスタ第87号』より掲載

 2020-21シーズンのクロアチアサッカー界で話題をさらった1人が日本人ストライカーの原大智だ。2021年2月10日にFC東京からの完全移籍でNKイストラ1961(以下イストラ)に加わると、191cmという高さと柔らかいテクニック、ゴール嗅覚を生かしてイストラの1部残留に貢献。クロアチアカップ決勝では王者ディナモ・ザグレブから2ゴールを奪い、カップ戦得点王にも輝いた。それから1カ月後、日本のメディアが「アラベスはFW原大智を完全移籍で獲得したことを発表」と報じると、一部のサッカーファンは面食らった。

 イストラのスポーツディレクター、ダリオ・ダバツは原の入団時に「シーズン末までの契約で、3年延長のオプションがつく」と説明。一方で、スポーツマネージャーのミケル・ゴンサレスは5月の地元紙のインタビューで「原はアラベスと4年契約を結んでいて、来季のオプションは複数ある」と語っていた。最終的にはベルギー1部のシント=トロイデンに貸し出されたが、原のアラベス加入の経緯やダバツとゴンサレスの発言の食い違いは、イストラがアラベスのファームクラブであることを知ればすべて合点がいく。

「バスコニア=アラベス・グループ」とは何か?

 バスク地方のビトリア・ガステイスに本拠地を置く「サスキ・バスコニア」といえば、欧州バスケ界においては誰もが知る強豪クラブだ。元選手のホセアン・ケレヘタが1988年に会長になってスポーツ株式会社に組織変更すると、スカウティングと財務管理を強化することで急成長を遂げ、リーガACB(国内1部)では4度の優勝。欧州最高峰のユーロリーグではレアル・マドリーやバルセロナとともに常時出場のライセンスを所有している。2011年にケレヘタ会長はサスキ・バスコニアを軸にスポーツ財団や関連企業を組み合わせた「バスコニア・グループ」を発足させると、2年かけてデポルティーボ・アラベスの株式の82%を取得し、2014年に「バスコニア=アラベス・グループ」へと改称。2000万ユーロ以上の負債を抱えてセグンダであえぐアラベスに対し、バスケ界で培った経営ノウハウを注ぎ込むことで見事に再生させ、プリメーラに復帰した2016-17シーズンにはコパ・デルレイ決勝進出を果たした。

アラベスのエースとしてリーグ戦11ゴールを挙げているホセル。降格圏の19位と苦しんでいるが、残留を目指し残りの戦いに挑んでいく

 そんなアラベスがクロアチアに目を向けたきっかけが、サッカーとバスケの同国両代表でフィジカルコーチを務めたザグレブ大学体育学部元学長、イゴール・ユキッチ博士だった。2016年にバスコニア=アラベス・グループに招かれると、自身の経験と理論をベースにしたパフォーマンス最適化プログラム「BALシステム」を開発。あらゆるものをデータ化して、コーチやトレーナー、医師や理学療法士、栄養士や心理学者の分析を統合することでアスリートを管理し、最適なトレーニングを見出して身体能力を最大限に高めるだけでなく、育成やスカウティングの指標にも使える自慢のシステムだ。同グループはマーケティング戦略やBALシステム、トップチーム構築からアカデミー運営も含めたクラブ経営をパッケージにした「アラベス・モデル」の国際化を目指した。

 すでにバスケ分野では「バスコニア・モデル」の東欧進出に成功していた。サッカー分野に目を向けると、バスク地方にはアスレティック・ビルバオ、レアル・ソシエダ、オサスナ、エイバルといったライバルがひしめき、タレント確保は困難を極める。それだけにファームクラブを国外に所有すれば新たなスカウティングの拠点になり、若手育成のインキュベーターにもなれる。会長の息子であり、グループのCEOを務めるハリッツ・ケレヘタはこう語る。

 「父親の哲学は新たな事業を生み出し、新たな市場に自身を投入することだ。バスケクラブの成功モデルをサッカークラブに実装することはうまく機能した。リソースが少ないのならば、我われが新たな市場でリードできるよう、創造性に富んだ手を打つ必要があるんだ」

 アラベスが最初にファームクラブとして選んだ先は、ユキッチ博士が紹介したクロアチアのルデシュ。首都ザグレブの衛星クラブとして15年間かけて4部から1部に昇格を決めたルデシュは2017年5月、アラベスと10年間におよぶ戦略的パートナーシップ契約を結んだ。ルデシュのディレクター、トミスラフ・クネジェビッチは当時をこう振り返る。

 「アラベスの狙いは明確だった。無尽蔵にタレントが湧き出るクロアチアとその周辺国(旧ユーゴスラビア諸国)だ。アラベスには資金があり、タレント開発に投資する術を知っている。ルデシュはお金が必要なので、どんな申し出でも歓迎したよ。しかし、アラベスは1部参入の予算は負担してくれたものの、クラブ買収は望まなかった。そんな中、クロアチアリーグの調査段階で彼らはミスを犯してしまったんだ。観客100人ほどの2部リーグの試合を目にして『ここでは酷いサッカーをやっている』なんて印象を抱いてしまい、未熟なアラベスの若手をテストする場所として捉えてしまった。ルデシュとしてはアラベスから経験豊富な選手を送ってもらい、こちらの有望株の能力を引き上げてくれるものと期待していたのに。おかげで最初の数カ月はクオリティの低い外国人選手を抱えてしまったよ」

 シーズン後半はテコ入れもあってルデシュは何とか1部残留を果たすも、アラベスとの契約は1年で打ち切られた。1部リーグの開催基準に見合うスタジアムを所有せず、平均観客も500人未満の弱小クラブでは独自インフラを構築できないと判断されてしまったのだ。ルデシュはその翌年に2部降格し、その後も1部復帰を果たせていない。

拡大路線の壁。そして再びクロアチアへ

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アラベスイストラバスコニア=アラベス・グループマルチクラブ・オーナーシップ

Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。