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「報われなくてもやり続ける」大木ロアッソがJ3優勝とJ2昇格に辿り着いた理由

2021.12.22

ロアッソ熊本がJ2に帰ってくる。大木武監督体制2年目となった今シーズンは、開幕から上位をキープ。最終節を前に3位へと転落したものの、ホームで迎えた最終節で見事に勝利し、J3優勝とJ2昇格を手繰り寄せた。J3へと降格してからの3シーズン。彼らが辿ってきた道のりは、もちろん平坦なものではなかった。だが、成果を出すための地ならしは確実にクラブの中で進められていたという。その過程も含め、地元のチームを追い続けた井芹貴志が、ロアッソの今を綴る。

 第29節までを終えた時点では、勝点53のテゲバジャーロ宮崎が首位、同52のいわてグルージャ盛岡が2位で、宮崎との首位攻防戦に敗れたロアッソ熊本は勝ち点51で3位となっていた。宮崎はすでに全日程を終えていたため、熊本は最終節に勝てば自力で昇格を引き寄せることができる。しかし、もし敗れると昇格を逃すという状況にあった。

上位3チームの力は拮抗していた

 ともに2008年からJリーグに加わったFC岐阜をホームに迎えた最終節は、前半から堅さが見られ、0-0で折り返し。だが、後半から投入された1年目のFWターレスが、右サイドから積極的に仕掛けて流れを引き寄せると、65分、その5分ほど前に送り出されていた、やはり1年目のMF坂本亘基が目の覚めるようなミドルシュートを突き刺して先制する。さらに82分には、2年目のFW髙橋利樹が追加点を挙げ、2-0で勝利。2位だった岩手がアスルクラロ沼津と引き分けたため、勝ち点を54とした熊本が3位からの逆転で、J3優勝と4シーズンぶりのJ2復帰をつかみ取った。

J3第30節ロアッソ熊本対FC岐阜のハイライト動画

 15勝9分4敗とリーグ優勝にふさわしい戦績を残したとは言え、最終的には、2位の岩手、3位となった宮崎とも勝ち点差わずか1という大混戦。仮に1試合でも勝ち点をこぼしていたなら、優勝での昇格はなしえなかった。

 指揮を執って2年目の大木武監督は言う。

 「引き分けた9試合で勝ち点を拾えていれば、もう少し早く決めることができていたかもしれない。逆にそこを落としたり、1点差で勝ったゲームを同点にされたりする可能性もあった。リーグ戦はそんな簡単に勝てるものではないし、やっぱり優勝とか昇格を手に入れるのは、かなり大変だということ。要因としては、選手の頑張りに尽きると思います」

 もちろん、結果を引き寄せた背景には、1試合あたり1.38という昨季の数字から、0.71と大幅に失点を減らした守備面の改善と、谷口海斗(アルビレックス新潟)、中原輝(モンテディオ山形)といった得点源の選手が抜けた穴を全員で埋めた攻撃があったことは確か。しかし勝ち点に表れている通り、最後まで昇格枠を争った3チームの戦力はほぼ拮抗していた。

 得点は宮崎が最多の44、岩手がそれに次ぐ43で、熊本は得点こそリーグ6番目だが失点はリーグ最少の20と、それぞれがそれぞれの強みを最大限に発揮したと言える。J2ライセンスがないため2位以内に入っても昇格できないことがわかっていた宮崎も、「初年度での優勝」という大きなモチベーションのもとで戦ってきたわけで、優勝と昇格を果たした熊本に、この2チームを大きく上回る部分があったかと問われると、答えるのは難しい。

 ただ、熊本がJ3に降格した2019年からの3シーズン、どんなチームづくりをしてきたかを振り返ることで、少なからず成果につながった要素を探ることはできるかもしれない。

育成型クラブへの転換が招いたポジティブな連鎖

 まず挙げられるのは、育成型クラブへの転換だ。

 地域リーグからJFLを経て、J2に初めて参入した当時の熊本は、どちらかと言えば実績のある選手に声をかけることが多かった。大卒新人の獲得は、発足時の2005年に駒澤大からの4人も含めた6人が加入したのが最多で、2008年から2018年までの11年間は毎年1〜3人で推移している。

 しかしJ3降格となって以降、2019年と2020年がそれぞれ4人、今季は6人、そして来季も5人と、即戦力になりうる大卒新人を積極的に獲得する傾向が顕著になっている。

FC岐阜戦後、J3優勝に沸くロアッソ熊本の選手たち

 もちろん、降格による運営費の減少、新型コロナウイルスの感染拡大を受けての入場料収入の減少などで、年俸が高く経験のある選手を抱えきれなくなったという事情もある。しかし一方で、中長期の展望のもと、クラブの土台固めを見越した判断であったことは確か。

 J2で2年連続の21位に終わり、翌2019年からJ3を戦うことになったタイミングで話を聞いた際、織田秀和GMは次のように話していた。

 「資金が限られているわけだから、外から選手を連れてくるよりも自分たちで育てるしかない。アカデミーでしっかり育て、地域でしっかり育っている選手に入ってきてもらう。チームの作り方として、ベースは自分たちで作り、なおかつ足りないところに呼んでくるというのを、このクラブはやっていくべきじゃないかと思います」

 しかも、そうした選手を日々の練習とゲームを通じて成長させることも大きな目的。織田GMはこう続けている。……

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ロアッソ熊本大木武戦術文化織田秀和育成

Profile

井芹 貴志

1971年、熊本県生まれ。大学卒業後、地元タウン誌の編集に携わったのち、2005年よりフリーとなり、同年発足したロアッソ熊本(当時はロッソ熊本)の取材を開始。以降、継続的にチームを取材し、専門誌・紙およびwebメディアに寄稿。2017年、母校でもある熊本県立大津高校サッカー部の歴史や総監督を務める平岡和徳氏の指導哲学をまとめた『凡事徹底〜九州の小さな町の公立高校からJリーガーが生まれ続ける理由』(内外出版社)を出版。