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福山シティの天皇杯冒険記、第二章。清水エスパルスの高い壁にどう挑んだ?

2021.06.16

昨年の天皇杯で6部クラブながら準々決勝進出を果たし、大きな話題になった福山シティFC。今年も県予選を突破し、2回戦でJ1の清水エスパルスとの対戦が実現した。天皇杯の醍醐味とも言える6部と1部の対戦、その裏にはどんなドラマがあったのか――『フットボリスタ・ラボ』の脇真一郎氏にレポートしてもらった。

 年の瀬迫る仙台の空に、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。ピッチに崩れ落ちる選手たち。膝をつき、虚空を見つめる小谷野拓夢監督。第100回天皇杯準々決勝ブラウブリッツ秋田戦、福山シティFCの挑戦はJ3王者に1-3で敗れ終幕を迎えた。しかし、それは新たな挑戦の開幕でもあった。

 第101回天皇杯2回戦、彼らは帰ってきた。対戦相手はJ1の清水エスパルス。「天皇杯でJクラブを撃破する」――その夢を叶えるために。

『獅子奮迅』に込められた想い

 小谷野監督は努力家である。ともすれば華々しく映る結果にだけ注目されがちであるが、その裏側には並々ならぬ努力の積み重ねがある。昨年の天皇杯敗戦を受け、自分たちに何ができて、何ができなかったのかを冷静に分析することから歩みは始まった。

清水戦でベンチから指示を送る小谷野監督

 一番のポイントとなったのがフィジカル能力の違いであった。ブラウブリッツ秋田の選手たちのプレッシングに苦しんだ中で、そこにある厳然とした差を彼は感じ取っていた。そこで、トレーニング内容の見直しだけでなく、トラッキングデータから具体的な数字を可視化することで、フィジカル能力の底上げに取り組むこととなった。

 新シーズンに向けての選手補強、ゲームモデルの落とし込み、選手たちの意識の醸成、日々のトレーニングの質の向上、あらゆることに手を尽くし、貪欲にチームとしての成長に挑み続けた。

 コロナ禍が第3波、第4波と続く中、新たなスポンサー獲得や諸活動の展開と、若いチームゆえに誰もがマルチタスクで走り抜ける日々であったが、それでも昨年の雪辱を果たすためチーム一丸となって乗り越え、3月に開幕した天皇杯県予選では広島県代表を勝ち取った。

 迎えた天皇杯1回戦。

 対戦相手の松江シティFCはJFL所属の格上。前線に強力な選手がいるため、その攻撃をいかに凌ぎながらボールを保持し、主導権を握るかが注目された。

 前半は相手に押し込まれる展開が続き、なんとか無失点で凌いでハーフタイムへ。ここで小谷野監督は大きな決断を下す。前半の戦況から導かれた――事前のトレーニングでは試していない――攻略法を、選手を信じて託したのだ。

 これが見事にはまり後半は一気に攻勢に出る。何度かのチャンスの後、59分にMF曽我からのクロスにFW高橋がダイビングヘッドで合わせて先制。そこからの松江の反撃をGK児玉のビッグセーブなどで凌ぎ続けたが、83分にCKから失点を喫する。延長が濃厚になった後半アディショナルタイム4分、MF田口が値千金のゴールを決めて2-1の勝利を収めた。

天皇杯1回戦、福山シティFC対松江シティFCのハイライト動画

 試合後、松江の力強いプレーに苦戦したことで、このままではJクラブには届かないという危機感をチーム全体が共有することができた。監督、コーチ、分析班による緻密な分析をもとに、清水エスパルス戦までの残された時間をチームに関わるすべての人が力を尽くした。

 試合直前には、新たなチーム専用バスがスポンサーから提供され、ファン・サポーターの熱い声援とともに、多くの力強い追い風をその背に感じながら選手たちは静岡の地に降り立った。

 『獅子奮迅』

 掲げたこの言葉を勝利とともに体現するために。

清水の圧力に慎重に対処。そして“針の穴”を狙う

……

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分析福山シティFC

Profile

脇 真一郎

1974年10月31日、和歌山県生まれ。同志社大学卒。和歌山県立海南高等学校でサッカーと出会って以降、顧問として指導に携わる。同県立粉河高等学校に異動後、主顧問として指導を続け7シーズン目となる。2018年5月に『フットボリスタ・ラボ』1期生として活動を開始して以降、“ゲームモデル作成推進隊長”として『footballista』での記事執筆やSNSを通じて様々な発信を行っている。Twitterアカウント:@rilakkumawacky

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