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指導者や現役のサッカー選手も研究を発表。2021年度フットボール学会 Congressレポート

2021.03.31

2021年3月6~8日の3日間、18回目となる「日本フットボール学会 Congress」が開催された。一般のサッカーファンにとっては馴染みのない本学会では一体どのようなことが行われているのか。筑波大学体育系特任助教で同大学女子サッカー部の監督を務める平嶋裕輔氏に、学会大会概要とともに本年度発表された研究の一部を紹介してもらった。

フットボール学会とは?

 みなさんは「日本フットボール学会」という組織をご存知だろうか。学会と聞くと少し難いイメージがあるかもしれない。国語辞典によると、学会とは「それぞれの学問分野で、学術研究の進展・連絡などを目的として、研究者を中心に運営される団体。また、その集会」(デジタル大辞泉)とされている。

 日本フットボール学会は2003年9月、フットボールに関する科学的研究と会員相互の交流によって、フットボールの発展に役立てることを目的として設立された。日本で唯一、フットボールを研究する学会である。2004年より「Football Science」という学術誌を編集・出版するほか、2006年より「フットボールの科学」という学会誌を年1回発行している。また、2004年より学会大会を年1回開催し会員同士の交流・研究発表の場を提供するほか、定期的に講師を招き研究会を実施している。

 本稿では、新型コロナウイルス感染症の影響でオンラインで開催された日本フットボール学会の学会大会である「日本フットボール学会 18th Congress」の内容を紹介する。

日本フットボール学会18th Congress開催概要

 日本フットボール学会18th Congressは立教大学で開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により、3月6~8日の3日間オンラインでの開催となった。大会テーマは「Football with COVID-19~コロナ禍でのフットボールを考える~」であった。

 学会大会は大きく分けて2つの内容で構成される。

 1つは一般研究発表と呼ばれる、大学院生から大学教員、また企業等で研究を行っている研究者が自ら申し込みを行い、日頃の研究成果を発表するものである。フットボール学会Congressの特徴として、時に、現役のサッカー選手や指導者の方が発表することもある点があげられる。サッカーを中心に、フットボールについて様々なテーマや視点による研究成果が発表されるため、非常に興味深い内容となっている。著名な研究者の研究発表は、非常に論理的で勉強になる。しかし、私個人的には、まだ大学院で研究を始めたばかりの研究者の発表に興味を惹かれる。研究方法や論理には不十分なところもあるが、現場に直結する研究テーマや、新たな視点からの研究発表が多く、自分が研究テーマを考える上で非常に参考になる。

 ちなみに、日本フットボール学会の一般研究発表では「口頭発表」と「ポスター発表」という2つの発表方法から好みの方法を選んで発表できる。「口頭発表」は、PowerPointなどのプレゼンテーションソフトを用いて、大きなスクリーンの前に立ち研究成果を発表する方法である。企業の新製品発表会をイメージしてもらえるとわかりやすい。今学会ではZoom上で「発表10分、質疑応答4分」の発表が行われた。「ポスター発表」は、自ら作成した大ポスターの前に発表者が立っており、参加者が会場に張られたそれらのポスターを見て回りながら、興味を惹かれた研究があればポスターの前に立つ発表者と研究の話をする発表方法である。しかし、今学会はオンラインでの開催だったこともあり、事前にポスターがオンライン上に掲載され、発表者がZoom上で「発表4分、質疑応答2分」のミニ口頭発表を行う方法が取られた。

 もう1つは、学会からの依頼により、日頃の研究成果や活動について著名なシンポジストや招待者が講演、シンポジウム、ワークショップをするものである。今学会大会では、テーマが「Football with COVID-19~コロナ禍でのフットボールを考える~」であったこともあり、コロナウイルス感染症に関連するトピックが多く挙げられた。特にフットボール学会の学会大会の魅力としては、現場の一線で活躍する研究者や指導者の話を聞くことができる点だと考える。今大会でも、JFA所属の研修者やトップリーグで活躍するコーチなどによる貴重な話を聞くことができた。

 また初のオンライン開催であった今回は、その利点を活かし国内のみならず、海外の研究者による特別講演もあった。その中でも、コペンハーゲン大学のDr Jens Bangsboによる”Return to football training after COVID-19 lockdown”は、多くの参加者がオンライン講演に集まった。彼は大学教員として働くかたわら、ユベントスやデンマーク代表などで指導者として活動し、現在はセリエAで上位を争うアタランタB.C.のコーチを兼任している。サッカーの体力テストで最もよく使われているYo-Yo testの開発者としても非常に有名である。研究者としてのみならず、現場の一線で活躍する方の話を聞けるのも学会大会の魅力である。

Yo-Yo testの開発者としても有名なDr Jens Bangsboなど海外の研究者による特別講演も開催された

2つの研究紹介

 最後に今回の一般研究発表で、私が興味を惹かれた発表の中から発表者の先生方に内容の掲載許可をいただいたもの2つを紹介する。

➀『サッカーの連戦時におけるレギュラー群と非レギュラー群の負荷に関する研究』高柳昂平、中山雅雄、浅井武、小井土正亮(筑波大学)……

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フットボール学会育成

Profile

平嶋 裕輔

1986年生まれ、山梨県出身。宇都宮大学卒業後、筑波大学大学院に進学し同大学蹴球部でサッカー指導者としてのキャリアをスタート。その後、栃木SCレディースコーチ、カマタマーレ讃岐GKコーチ等を歴任。2018年度から2021年度までは筑波大学体育系特任助教としてサッカーの授業・研究をすると同時に、同大学女子サッカー部で監督を務めた。2022年度からは静岡大学にてサッカーの研究を行う。博士(コーチング学)

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