「我がチェルシーを返してくれ!」4年で5度の監督解任、若手しかいないチーム… “アンハッピー”なファンが経営陣に望むこと
Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #28
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第28回(通算262回)は、花言巧語はもういらない……「長期的な成功の持続を可能にする若手中心のチェルシー像」の今とこれから。
「長期的な視野で適切な後任人事を行うべく内省に努める」――チェルシーは、公式声明文で世に告げた。去る4月22日、リアム・ロシーニア監督解任発表にあった一文だ。「長期展望」は、2022年5月末からクラブを所有する、『BlueCo』政権下のスローガンも同然。だが今では、飾り文句に過ぎないと受け止められ始めている。
ロシーニアは、1月に6年契約で就任していた。プレミアリーグで監督歴のない41歳との契約にしては、長い年数ではあった。しかし、『BlueCo』傘下の他クラブで指揮を執っていなければ、チェルシーでの候補に含まれることなどなかったはずの前ストラスブール(フランス1部)監督は、3カ月半で首を切られることになる。共同オーナーの1人が、バックアップを公言した翌週の解任劇でもあった。
続投が妥当だったとは言わない。解任前日のブライトン戦は、よく指摘される「選手の離心」が明らかだった一戦。前半30分過ぎまでシュートもタックルも記録できなかったチェルシーは、戦闘意欲すら示せずに最終スコア(3-0)以上の惨敗に終わった。リーグ戦での零封負けが5試合連続となった指揮官は、『スカイスポーツ』のオンライン・アンケートで、回答者の7割近くに「解任の潮時」とみなされていた。
とはいえ、現政権下での4年間で、すでに5度目の監督解任だ。監督の平均寿命は約258日。同局の調べによれば、情け無用の解雇で知られた前ロシア人オーナー時代の半分以下でしかない。
投資家オーナーの“経営本心”…来季は収支面でも“お先真っ赤”?
クラブを買い取った『BlueCo』のアメリカ人経営者は、前オーナー時代とは異なるクラブ運営を公言していた。歓迎できる方向性でもあった。強豪と化して国内外でタイトルを獲得し、21世紀初頭のプレミアで最も成功を収めたクラブと言われるようになっても、短期的視野で監督や選手の出入りが激しく、生え抜き選手が育つ余裕もないチェルシーは、プレミアで最も“ハッピー”なクラブではなかった。図らずも、ウクライナ戦争によってもたらされたオーナー交代は、異質の成功へと向かう転機になるかと思われた。
ところが、実際は“アンハッピー・クラブ”へと向かっている。ホームゲームでのファンによるブーイングは、『BlueCo』が指名した監督第1号のグレアム・ポッター(現スウェーデン代表監督)時代から、異例の出来事ではなくなっている。本稿執筆時点でリーグ8位の今季は、4年間で2度目の中位フィニッシュが危惧される。ロッカールームからも、不協和音が聞こえてくる。主軸のエンソ・フェルナンデスは、副キャプテンでもある立場で、今夏のレアル・マドリー移籍を好むかのような発言。内部で2試合出場停止に処された。
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。
