大丈夫なのか、イングランド!?嬉しくもあり哀しくもあった“クラス・アクト”な日本の勝利
Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #27
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第27回(通算261回)は、現地の記者仲間も自虐するしかなかった、3月31日の歴史的一戦をウェンブリーで見届けて。
FIFAランク20位以内にトゥヘルは勝てない
大丈夫なのか、イングランド。3月末の日本戦(0-1)直後は、その思いがいちばん強かったかもしれない。
無論、ウェンブリー・スタジアムで敵を一刀に伏した、「SAMURAI BLUE」の勝利は嬉しかった。中村敬斗(スタッド・ランス)が、右SBのベン・ホワイト(アーセナル)を軽くかわして攻め込んだ前半3分から、鈴木彩艶(パルマ)が、後半に左SBとして投入されたルイス・ホール(ニューカッスル)のシュートを防いだ同44分まで、攻守に勝利がふさわしい戦いぶり。チームの「12人目」も、相手の国歌斉唱と同時に「ニッポン!」コールを自粛したキックオフ前から、スタンドを綺麗にして引き上げた試合後まで、イングランド側が恐れ入るほどの表敬ぶりを見せてくれた。
日本サポーターによるゴミ拾いといえば、W杯の新参者だった当時は「サッカー界のウォンブルズ」と呼ばれたもの。ウィンブルドンの公園に掘った穴に住み、環境を守るためにごみを集めてリサイクルに精を出すという、英国BBCテレビのお子様番組のキャラクターにちなんだ異名は、どこか茶化されているようにも感じられた。だが今回は、同じ英国メディアから「クラス・アクト」だとして「品格」を称えられた。その表現は、ピッチ上での「立派」なパフォーマンスにも用いられた。
しかし、人生の半分をロンドンで過ごしている身としては、格も質も高さを感じさせなかったイングランドも、単なる対戦相手では済まない。優勝の大目標を掲げて臨むW杯に向けて弾みをつけた、母国代表への期待が膨らむ一方で、ホーム観衆のブーイングで送り出された格好の、居住国代表に対する不安に拍車がかかった。
イングランドは、10カ月前の国際親善試合でもファンのブーイングを浴びた。トーマス・トゥヘル体制下での4戦目、抽選に恵まれたW杯予選の相手よりも手強い、当時のFIFAランキング19位に敗れたセネガル戦(1-3)は、母国史上初の対アフリカ勢黒星として大々的に報じられた。今回、対アジア勢初黒星という事実は、さほど取り沙汰されはしなかったように思える。18位にランクアップした日本に敗れる4日前には、17位のウルグアイと引き分け(1-1)に終わっていたことから、対トップ20となると勝てない事実が問題視された。
「日本は優勝なんて絶対無理」?「代表選手としてのピッチは難しい」…
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。
