SPECIAL

【鼎談】竹内達也×らいかーると×片野道郎:日本とイタリアに共通する「エリート育成」の壁。“育てて売る”思想が未来を分ける

2026.05.25

特集『イタリア代表はなぜ、弱くなったのか』の感想として「イタリア育成停滞の理由と日本の現状はかなり似ているのではないか?」という声を多くいただいた。そこで日本の育成年代を取材してきた竹内達也記者と、U-12(4種)年代を20年以上指導してきたらいかーると氏を招いて、日本とイタリアの育成の共通点と違いについて議論してみた。

前回は、近年の日本サッカー成功を支えている裏道=Jクラブのエリート育成から外れた複線的キャリアにフォーカスを当てた。それを受けた第3回のテーマは、なぜ日本とイタリアのエリート育成は停滞しているのか。「育てて売る思想」「目利き」「ポストユース」を軸に、育成システムの構造的な課題を掘り下げた。

←前回へ

なぜスペインとポルトガルは育つのか。“育てて売る”という思想

片野「ここまで聞いてきた日本の現状、ユースやポストユースの年代でもJクラブ以外に高校、大学という裏道があって、10代半ばでエリートコースに乗っていなくても、その後に挽回して代表クラスまで成長する選手が少なくないというのは、ヨーロッパと比べると非常にユニークだと思います。ヨーロッパの場合、U-15年代以降はプロクラブのアカデミーに残れなければ、そこでトップレベルにつながるキャリアパスはかなり閉じられてしまうところがあるように見えるので。

 今回の特集『イタリア代表はなぜ、弱くなったのか』で当事者に話を聞いたり調べたりして思ったんですが、いい選手が輩出できなくなったイタリアと、輩出し続けているスペインやポルトガルの違いは結局、クラブレベルでプロ選手を輩出して売却することにどれだけフォーカスしてやっているかの違いじゃないかという気がしています。イタリアの場合は育成年代でも短期的な勝利にシステムが最適化されているし、トップチームも目先の勝利最優先なので、生え抜きの選手を積極的に起用して伸ばそう、我慢して使って成長させて、上のレベルのクラブに売却しようという意識が低い。スペインやポルトガルはむしろ、そっち側に最適化されているクラブが多いような気がします」

竹内「スペインはめっちゃ若手を使ってますよね。セルタとかヘタフェとか、近年はセビージャなども毎年8月だけ名前も聞いたことがないような背番号の大きい若手がたくさん登録されて、一部は試合に出るけど、でも移籍期間が終わったら多くはいなくなっているというような印象です」

片野「それは選手を育てて売って回していくというサイクルが、クラブ単位でもリーグ単位でもうまく回っているからですよね。イタリアの場合はそれすらも成り立っていないというか、プロクラブの経営が、トップチームが目先の結果を出すことに最適化されちゃっているので、自前の選手を育てて売って回していくという仕組みが、そことうまく噛み合ってないところがあります。多くのクラブにとって育成は単なるコストであって、目先のプロフィットをもたらすものではないと考えられている。そういう話を聞くにつけても、イタリア代表が段々弱くなってくるのは当たり前というか、そうならざるを得ない構造ができ上がっちゃっているというのはあらためて思います」

U-20では強いのに、なぜA代表につながらないのか

竹内「ただ、あれを読んでもやっぱりすごく疑問だったのが、イタリアはU-20W杯で毎回強いですよね」

片野「ここ何回かはそうですね」

竹内「2017年以降ですかね」

片野「ここ10年くらい、特集でもインタビューしたマウリツィオ・ビシディによる育成年代代表強化のプロジェクトが継続しているので、U-20年代くらいまでに関しては、少なくとも代表クラスのエリートはそれなりのレベルに達しているということだと思います。ただ、今度はそこからクラブチームで十分な出場機会が得られなくて、結局伸び悩む選手が多いというのもある。それに対しては、結局そこまでの選手しか育てられてないということだ、という人もいるし、でも彼らだって19歳から22歳までのポストユース年代で、自分に合った環境で試合に出て、それをちゃんとモニターして引っぱり上げる仕組みがあれば、もっと伸びるはずだという人もいます」

竹内「U-20W杯のイタリアは歴代のチームをけっこう見ていて、特に2017年は現地でずっと見ていたんですが、それこそバレッラやディマルコは当時から特別な選手だったと思います。マンドラーゴラやオルソリーニとかは、どういう選手になるんだろうと思っていたら、その後あまりクラブでも試合に出ていなかったりして、そうかこういう難しさがあるのかなというのは、当時少し感じた記憶がありますね」

片野「やっぱりそこでトップチームに残すか下部リーグにレンタルに出すか、あるいはレギュラーとして抜擢して使うかベンチに置くか、っていう時に、“残さない”とか“出さない”方を選んじゃう傾向が強いですね。なぜかというと、目先の結果のためには、信頼できるベテランや外国人を外から連れて来る方が、クラブにとってメリットが大きいから。そこで我慢して使ってあげればもう少し育ったはずの選手が、その機会を失って結局伸び悩んで、いわゆる成長ルートに上手く乗れずに終わってしまう、みたいなケースは多いという気がします。オルソリーニやマンドラーゴラは、一度はユベントスが保有権を買い取ったけど、結局トップチームでは使われずレンタルに出されて、そこで試合に出たり出なかったりしながらも最終的に買い取られて、身の丈に合った居場所というかコンフォートゾーン(快適な場所)を見出した感じです」

リッカルド・オルソリーニとロランド・マンドラーゴラ

竹内「そうですよね。逆に彼らでもけっこう成功例だってことですよね」

片野「そうだと思います。U-19EUROやU-20W杯でレギュラーとしてベスト4や決勝まで勝ち上がった選手でも、セリエAの中堅より上で生き残っている選手はそんなに多くないんですよね。2年前のU-20W杯で準優勝した2003年生まれだと、ピオ・エスポージト(インテル/FW)、ピジッリ(ローマ/MF)の2人はA代表に呼ばれるようになりましたが、他にセリエAで試合に出ているのはカザデイ(トリノ/MF)、プラーティ(トリノ/MF)、ギラルディ(ローマ/DF)、バルダンツィ(ジェノア/FW)くらいです。それでも以前と比べれば多くなった方です。22~23歳でようやくこのくらいで、去年のU-20W杯に出た2005年生まれになると、トップチームで試合に出ている選手はほとんどいません。出ていてもレンタル先のセリエBとかセリエCです」

バルセロナは7歳を見抜く。日本に足りない「目利き」

……

残り:5,820文字/全文:8,549文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

関連記事

RANKING

関連記事