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プレミアに続き悲願の優勝なるか? アーセナルを変えたルイス・スケリーの中盤起用、[3-1-5-1]が広げるCL決勝の選択肢

2026.05.20

最終節を前にして、実に22年ぶりとなるプレミアリーグ優勝を決定させたアーセナル。残すタイトルは5月30日に決勝でパリSGと激突するCLだが、その頂上決戦に先駆けてシーズン最終盤で決断したマイルズ・ルイス・スケリーの中盤起用、そして[3-1-5-1]が広げる選択肢を、らいかーると氏がおさらいする。

 気がつけば、2025-26シーズンの欧州サッカーも終わりを迎えようとしている。シーズンが進めば進むほどに、各クラブの疲労困憊具合は計り知れないものになっているのだろう。このタイミングでのケガ人の数を見ると、もはや気力と精神による戦いのようにも見えてくる。

 一方で終盤戦になると、国内リーグ戦の結論が早々に出ることの多いパリSGやバイエルンにとって、週末に選手を休ませられるメリットが、日常の基準の高さというメリットを超えてきている。それもまた、欧州カップ戦とW杯の形式変更にクラブW杯の新設も挟まって、日程がますます過密した昨今の潮流と言えるのではないだろうか。

 さて、今回のお題はアーセナルである。近年はプレミアリーグとCLともに、優勝候補の常連となってきた彼らは、今季ついに22年ぶりにプレミアリーグを奪還。CLも初制覇まであと1勝に迫っている。

 素晴らしい結果を残している一方で、X(旧Twitter)で海外の戦術分析アカウントを観察してみると、その多数は、アーセナルの評価を下げる傾向にあった。例えば、「彼らのゴールはセットプレーばかりじゃないか!」とか、「他の強豪クラブと比較するとボール保持に問題があるじゃないか!」とか。この流れに拍車をかけたのが、カラバオカップ決勝とプレミアリーグ第33節で落とした、マンチェスター・シティとの直接対決にあったことは言うまでもない。

 そんなアーセナルだったが、CL準決勝の第2戦、アトレティコ・マドリーとの死闘を前に、プレミアリーグ第35節フルアム戦で突然の変身を遂げる。サッカーチームにおいて、変身は一発逆転の可能性を引き出す策だ。熱心な読者の方ならご存知だろう。特に日本代表において、W杯にまつわる変身――南アフリカW杯における岡田武史監督の方針転換、ロシアW杯直前のヴァイッド・ハリルホジッチ監督から西野朗監督への電撃交代、カタールW杯における森保一監督の采配――が日常になっていることを。なお、監督解任ブーストも、この変身の一種だと個人的に考えている。

 そんなアーセナルの変身という名のミケル・アルテタ監督の賭けについて、今回は考えていきたい。なお、アトレティコ・マドリーに勝ち、CLのファイナルにたどり着いたという点において、この冒険は成功していると言っていいだろう。

 変身のきっかけは、マイルズ・ルイス・スケリーを中盤で起用する決断だった。

優位性をチームで運ぶか、個で運ぶか。それとも…

 プロでは左SBとして頭角を現したルイス・スケリーだったが、今季は新加入のピエロ・インカピエ、加入2年目のリッカルド・カラフィオーリというライバルの活躍もあって、出場機会を減らしていた。ルイス・スケリーの良さは、ボールプレーヤーであること。「本職はどこなんだ!?」と突っ込みたくなるくらい、SBから移動してセントラルハーフ、インサイドハーフとしても軽やかにプレーしていたことは記憶に新しい。もともと育成年代では、中盤を本職としていた経歴を考えれば納得だ。

 両セントラルハーフのマルティン・スビメンディ、デクラン・ライスと比較しても、狭いエリアでボールを引き取り、相手に囲まれていても前を向き、フリーな味方を発見してボールを届ける能力に、ルイス・スケリーは秀でている。特に度胸が素晴らしい。どんな状況でもパスを受けようとチャレンジし、相手がボールを奪いに来てもひょうひょうとプレーできる19歳の姿勢には、驚かされることが多い。

 個人的には、パリSGのアンカーであるビティーニャのような役割を、アルテタ監督がルイス・スケリーに期待しているのではないかと感じていた。DFラインの前を主戦場とし、個の力でチームメイトに時間とスペースを作れる選手の登用によって、ボールを持った時のチームプレーの改善を狙ったのだろうと。変幻自在のポジションチェンジという、チーム全体の約束事だけではなく、個人そのものでも優位性を運ぼうとする発想は、マンマークがスタンダードになりつつある世界で理に適っている解決策だろう。

 CL決勝で対戦相手となるチームを参考としているであろうことに、互いに影響を与え合っていると妙に関心していたことを覚えていたが、フルアム戦、アトレティコ・マドリー戦、プレミアリーグ第36節ウェストハム戦と試合を眺めていくうちに、モデルケースがパリSGではないことに気づかされていった。もちろん、多少はビティーニャを意識していたかもしれないが、結論から言うと変身後のアーセナルは、バイエルンに非常に似ている設計になっている。

[4+2]もしくは[3+2]から[2+2]への変化

 では、アーセナルの新しい配置[3-1-5-1]がどのようなものか、バイエルンとどこが似ているのか。

 フルアム戦前のアーセナルは、ビルドアップを変幻自在で行うイメージが強かった。気がつけば、右SBベン・ホワイトを残した形の3バックを形成し、ライス、スビメンディのサポートを得ながら、フリーマンのように振る舞うトップ下のマルティン・エデゴーを添える形で試合を進めている。決められた移動や配置があるというよりは、相手や自分たちに合わせてカスタマイズしていくのが特徴のため、SBには幅広い役割と能力が求められるが、多芸な人材たちがその変幻自在を支えていく。おそらくカラフィオーリと右SBユリエン・ティンバーは、その点で世界屈指のSBコンビだろう。

 しかし、ルイス・スケリー中盤抜擢後のアーセナルは、ライスを3バックに組み込み、右CBウィリアム・サリバ、左CBガブリエル・マガリャンイスが3バックの両脇になる場面が増えていく。つまり、[4+2]、もしくは[3+2]を形成していたアーセナルのビルドアップ隊は、[2+2]を基本形とするようになっている。この変化は地味に大きな違いを生み出していった。

 [2+2]の形は両CBと、セントラルハーフ2枚、ヨシュア・キミッヒとアレクサンダル・パブロビッチがビルドアップを担っているバイエルンを彷彿とさせる。キミッヒが右CBの位置に下りることが多く、パブロビッチが3バックの前にいることが多い役割分担も、ライスとルイス・スケリーの役回りに非常に似通っている。

SBをライン間に送り込むものの…偽SB化ではない違い

……

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Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』 (小学館)。

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