相次ぐ主力売却で堕ちてしまうのか…“イカロスの飛翔”のようなクリスタルパレスの悲哀
Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #25
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第25回(通算259回)は、昨夏の「10番」エゼに続き、1月にはCBで主将のグエイが去り、さらにグラスナー監督も今季限りの退団を表明……公式戦12試合未勝利(4分8敗)と苦境に立たされた昨季FAカップ王者の実情について。
「鷲のように羽ばたいていけ、太陽に手が届くまで」とは、アイアン・メイデンの『Flight of Icarus』という曲のサビ。英国のヘビーメタルバンドがシングルとしても発表した1980年代当時の邦題は、『イカロスの飛翔』だったような記憶がある。ギリシャ神話にひねりを加えた歌詞を、ボーカルのブルース・ディッキンソンがメロディアスに歌い上げていた。
いきなりの脱線は、「そんな曲があったな」と思い出す出来事があったため。高く飛び過ぎたイカロスは、奇しくも“イーグルス”が愛称のクリスタルパレス。蝋でできた羽を溶かしてしまう太陽は、銀色に輝く優勝トロフィーも視界に映る、プレミアリーグ上位の座といったところだ。
昨季、120年に及ぶクラブ史上最高のシーズンを送ってから8カ月、パレスは、一気に堕ちてしまいそうな状況に陥った。CBでキャプテンのマーク・グエイが「マンチェスター・シティ入り目前」と一斉に伝えられたのは、去る1月16日。同日に行われた試合前会見では、オリバー・グラスナー監督も自身の「今季限り」を公表。その3日後に移籍実現の運びとなる支柱に加え、チームは決勝でシティを下した(1-0)昨季FAカップ優勝により、初の主要タイトル獲得と欧州参戦を実現した指揮官をも失うことが明らかになった。
翌17日の第22節サンダーランド戦は、堅守集団らしからぬ敵地での逆転負け(2-1)。試合後には、前日までグエイ売却を知らなかったという指揮官が、「見捨てられたような心境だ。こんなことは他クラブではあり得ない」と嘆きもした。ほどなくして、主砲のジャン・フィリップ・マテタが、今冬の移籍を望んでいる旨も報じられることになった。
責めることはできない移籍志願と“ヘッドコーチ”の決断
本来であれば、今季のパレスは上昇を続けているべきチームだ。FAカップ王者としての参戦先は、マルチクラブオーナー制が仇となり、ヨーロッパリーグからカンファレンスリーグ(ECL)への格下げを見てはいる。だがそこは、プレミア勢が優勝最右翼と目される欧州第3の舞台。クラブ史上初の欧州タイトルを狙いつつ、国内でも2年前からの現体制下で現実味を帯びた、トップ6候補への成長を続けると予想された。
開幕前、「どこのチームもウチとやるのは難しいと思う」と言っていたのは、前哨戦に当たるコミュニティシールドで、昨季リーグ王者のリバプールをPK戦の末に下した直後の鎌田大地。移籍2年目を迎えた日本代表MFの言葉通り、パレスにはしぶとく結果をもぎ取る「難敵像」ができ上がっていた。
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。
