森下龍矢の笑顔、小杉啓太の涙、平均23.6歳チェルシーの優勝…“人生が変わる”欧州第3の大会の意義

Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #17
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第17回(通算251回)は、乗り込んできた日本人4選手を含め、スタンフォードブリッジで見届けた、創設4年目のUEFAカンファレンスリーグについて。
常本「熱い声援をくれたから、結果で応えたかった」
チャンピオンズリーグ(CL)も王者が決まり、欧州の2024-25シーズンが幕を閉じた。決勝の地となったドイツのミュンヘンで、パリ・サンジェルマンが、資金力だけではなく、「若い力」による大量5得点で優勝を果たした今季CLは、欧州の強豪界に新時代の到来を告げたと言える。
その3日前の5月28日には、同じく移籍市場に投じた金額も、若手の数も多いビッグクラブが、決勝で4得点を奪って欧州タイトルを手にしていた。チェルシーが王座に就いた、カンファレンスリーグ(UECL)。ポーランドのブロツワフで決勝が開催された今季は、この日本人ライターに欧州第3の大会が存在する意義を告げた。
筆者は、4年前の初開催当初から、過密日程で知られるイングランドに多い「UECL不要論者」の1人だった。今季は、贔屓(ひいき)のチェルシーが昨季プレミリーグ6位で出場となったことによる興味だが、コスト高の折、取材は地元西ロンドンでのホームゲーム限定となった。
すると初戦から、UECLに懸ける相手陣営の意気込みがひしひしと伝わってくるではないか。予選プレーオフ第1レグでスタンフォードブリッジを訪れたセルベットに、スコア上の2点差零封負けを思わせる差は見られなかった。ホーム観衆によるブーイングの中で終了した前半は、両軍無得点。昨季スイスカップ王者は、ボール支配こそ4割程度でも、最終的なシュート数は「22」を数え、最後の15分間には3度、一矢を報いるだけの好機を手にしていた。
終了間際、ラストチャンスのきっかけとなるスルーパスを放ったのは、常本佳吾。当時25歳の右SBは、「後半立ち上がり、自分のパスミスというか、失い方も悪くてPKになってしまった。自分のクオリティを上げる作業をもっともっとしていかないと」と試合を振り返ると、ピッチサイドのミックスゾーン前方にあるスタンドに目を向けた。国外でのアウェイゲームに駆けつけた、サポーターたちが陣取っていたセクションだ。
「ここまで足を運んでくれますし、熱い声援をくれたから、申し訳ないというか、本当に結果で応えたかった。勝ちにいくつもりでやりましたし、セカンドレグで大逆転を見せられたら」と語る目元は、涙で潤んでいるように見えた。
渡辺「素直にうれしい」、小杉「いろいろな気持ちが混ざって…」
アウェイチームのファンは、プレミアリーグ勢のホームに乗り込んでの欧州戦で、サポート意欲十二分だ。リーグフェーズ初戦でやって来た、ベルギーのヘントも然り。チェルシーが先制して終えた前半、ハーフタイムを告げる笛が鳴った瞬間の歓声は、ゴール裏スタンドの半分を占めたアウェイサポーターが上回っていた。
ヘントのCB渡辺剛には、後半、ファンの目の前で両手を広げ、自らのゴールを祝い合う瞬間が訪れた。
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。