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大分・吉岡宗重SDが今季の反省を経て掲げた新フィロソフィ「湧き上がるフットボール」を読み解く

2025.12.02

トリニータ流離譚 第31回

片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第31回は、吉岡宗重SDに今季の総括と、その反省を踏まえて自身が掲げた「湧き上がるフットボール」というクラブの新フィロソフィについて掘り下げてもらった。

 11月29日、J2第38節アウェイ水戸ホーリーホック戦を終えて、大分トリニータは2025年シーズンの全試合日程を終了した。

 8勝14分16敗の勝点38で17位。J3降格圏とはわずか勝ち点1差で、得失点差は最下位の愛媛FCに次ぐワースト2位の-17とあって、ロアッソ熊本とカターレ富山の残留争い土壇場での大逆転などを見るにつけ、紙一重でJ2に踏み止まれたことに、あらためて安堵するばかりだ。

 これだけ僅差の混戦になると、トリニータに限らずどのチームの試合でも、微妙な判定がクラブの命運を左右することにつながりかねず、実際にトリニータの第25節・カターレ戦で試合後に誤審と認められたオフサイド判定によるカターレの得点が最終的にカターレの残留とロアッソの降格にも影響していると考えると、背筋の凍る思いは否めない。

現実主義か、楽しさか…正解が見えなかった2025シーズン

 そうやってギリギリで残留は遂げたものの、戦績は今季スタート当初に目指したものからはほど遠い結果となった。何よりも総得点27というリーグぶっちぎりのワーストデータが、悪い意味で存在感を放っている。

 今季は第2次片野坂知宏監督体制の2シーズン目で、昨秋の残留争い中に手ごたえを得た「いい守備からいい攻撃」のコンセプトをブラッシュアップする形でシーズンイン。守備戦術の整理から入って序盤は堅守を維持していたのだが、意識の軸足が守備に傾き過ぎたせいか攻撃面が育たず、シュート数やチャンスビルディング数が極端に少ない試合が続いた。攻めきれないうちに守備への負担が増して6月以降は全く勝てなくなる。9戦未勝利となった第26節のヴァンフォーレ甲府戦後、クラブは苦渋のうちに片野坂監督との契約解除に踏み切った。

 第27節からはヘッドコーチから昇格した竹中穣監督が新たにチームを率いる。

 残り12試合というタイミングで残留争い中のチームを受け継いだ新人指揮官が最初に取り組んだのは、守備偏重により崩れていたバランスを整え直す作業だった。選手間の距離を適切に保ち、阿吽の呼吸でのコンビネーションやボールを受けに顔を出すことを辛抱強く求めながら、前への意識を強めさせた。その結果、攻撃機会は増え、クロスやシュートの本数も回復。一時は選手たちからも思わず「もうグレイソンと有馬幸太郎を前線に並べてひたすら放り込むしか得点チャンスは生まれないのではないか」という声が漏れてしまうほど攻撃の形を作れずにいたチームが、1つの意思を持って攻撃できるようになった。

 これでようやく選手たちがフットボールの楽しさを取り戻すかに思われたが、それがなかなか勝ち点に結びつかない。守備戦術の曖昧さが残ったままで、相手を見てプレーすることに長けたチームとの対戦では主導権を握られっぱなしになることが多かった。育成型期限付き移籍中だった藤原優大の浦和へのレンタルバックに伴い、夏に加入して第29節からディフェンスリーダーを務めた岡本拓也が中心となって組織のオーガナイズに奮闘したが、そこに頼る部分も大きかった。

……

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Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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