大分トリニータ、第二次片野坂体制総括。そして竹中穣新監督に託す『いい守備からいい攻撃』の再構築
トリニータ流離譚 第28回
片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第28回は、退任後の指揮官本人の感想も含めた1年半の第二次片野坂体制の総括と、竹中穣新監督の船出についてレポートする。
J2第26節アウェイ甲府戦での敗戦後、クラブは片野坂知宏監督との契約解除という苦渋の決断に踏み切った。6勝10分10敗で、J3降格圏と勝ち点5差の16位。第18節のホーム甲府戦での勝利を最後に9戦白星から遠ざかり、昨季に続き残留争いに巻き込まれてしまっていた。
新しい形を模索し、最後は堅守速攻の5バックに着地
2016年、J3に転落した古巣・大分で自らの監督キャリアをスタートし、のちに「カタノサッカー」と呼ばれるようになる独自のポゼッションスタイルをコツコツと構築しながら3年でチームをJ1へと導いた智将。だが、結果を出したことでJ1では対戦相手からの研究対策が進み、クラブレベルでの地力の差を痛感することも増えていく。コロナ禍にも苛まれながら2021年、ついに力尽きてJ2降格。その責任を取る形で、それでも最後に天皇杯準優勝という置き土産を残して退任していたが、翌夏にG大阪監督を解任されたあと解説者としての活動なども経て、昨年、3シーズンぶりに大分で2度目の監督就任。新人監督が6年かけて新たなスタイルを築きながらチームとともに成長していく姿を見せた第1次体制に続き、今度はどのような日々になるのかと、期待をもって迎えられていた。
コロナ禍によるレギュレーション変更などにも影響されて、戦術トレンドは激動の時代。マンツーマン気味のハイプレスからのショートカウンターが流行する中ではポゼッション志向のスタイルは長所を出しにくくなっている。特にビルドアップが命となるカタノサッカーにおいてはGKが絶対的なキーマンとなるが、かつてともにそのスタイルを築いてきた高木駿に代わる人材も不在。そういった様々な要素も絡みつつ、最新の潮流に適応していくために、片野坂監督は大分での2度目の就任にあたって、大切に築き上げた緻密なポゼッションスタイルをかなぐり捨てる勢いで新たなスタイルの構築を誓った。
「僕は3バックのイメージが強いと思うんですが、今回は4バックで行きます」と宣言して始まった第2次体制は、スタートから間もなく苦難の日々に突入する。「シームレスフットボール」をキーワードにハイプレスからの即時奪還してカウンターと4局面を途切れずに走るスタイルを目指し、プレシーズンから順調に浸透させていたはずだったが、アスリート化傾向に対応するためのトレーニングの変化に耐えきれなかったのか、負傷者が多発。SB要員がいなくなり、編成上、3バックで戦わざるを得なくなった。
そんな一方では、マネジメント面でも新たなチャレンジに踏み出していた。様式美としての攻撃戦術を持つカタノサッカーとは異なり、奪った瞬間から攻撃がスタートするシームレスフットボールでは、選手たちの瞬時の判断力が問われることになる。カタノサッカー時代にはテクニカルエリアから絶えず指示を送って試合後には声がガラガラに涸れている指揮官が愛されていたが、そんな姿を見せることもなくなった。なかなか上手くいかない戦況を見守っては「こっちから指示しちゃった方が早いんだけど」ともどかしがりながら、強い意志の下にエコロジカルアプローチを貫いていた。
だが、そういった新たなチャレンジ成功の方法論を、なかなか見つけきれずにいたのかもしれない。
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg
