REGULAR

盤石だったはずのレアル・マドリーはなぜ大敗したのか?マドリッドダービーを振り返る

2025.10.10

サッカーを笑え #52

リーガ開幕から6連勝、快調に首位を走っていたレアル・マドリーが、大して調子が良くなかったアトレティコ・マドリーに大敗(5‐2)した。その次の週の第8節でシャビ・アロンソのチームが強敵ビジャレアル相手に快勝(3‐1)し、ディエゴ・シメオネのチームが下位のセルタと引き分けた(1-1)ことを考えると、アクシデントだったようにも見える。が、もちろん偶然ではない。

以下、試合を見ているかハイライトを見ているかを前提に、時間と内容はいちいち追わず要点だけに絞って書いていく。

ハイライト動画。9月27日にリヤド・エア・メトロポリターノで開催

敗因①:ベリンガム最優先の謎采配

 ローテーション等で多少の入れ替えはあったものの、連勝中のレギュラーは以下の11人だった。

[4‐2‐3‐1]

          ムバッペ

ビニシウス     ギュレル  マスタントゥオノ

     チュアメニ バルベルデ

カレーラス ハイセン ミリトン カルバハル※

          クルトワ

※アレクサンダー・アーノルドのケガによって先発入り

 ここでマドリッドダービーのタイミングで、少しずつ出場時間を増やしていたベリンガムが本格復帰、どうやら先発もOKということになった。そこでシャビ・アロンソはどうしたか? ベリンガムを先発で起用しただけでなく、アルダ・ギュレルを右に移してトップ下の位置に置いた。試合を見てから批判するのは後出しじゃんけんのようで気持ち良くないが、これ、二重の意味でミスだったと思う。

■マドリッドダービーの並びと11人

[4‐2‐3‐1]

         ムバッペ

ビニシウス   ベリンガム    ギュレル

     チュアメニ バルベルデ

カレーラス ハイセン ミリトン カルバハル

          クルトワ

 連勝中のチームはいじるな、いじるなら最少のインパクトで、というのが私の考え方。私の優先順位はギュレル>マスタントゥオノ>ベリンガム。ベリンガムはマスタントゥオノの控えが妥当で、先発させるとしてもトップ下のギュレルを動かしたりせず、右にベリンガムを張り出させていただろう。

 マスタントゥオノに関してはクラブW杯では良い印象はなかったが、馬力があって動くエリアが大きいし、ごりごりとしたドリブルで倒れず突破力もあるし、周りとコンビできるし、シュートもアシストもある。レアル・マドリーの偽右ウインガーとしてはこれほど向いている選手はない、と考え直した。

 ロドリゴが外され左でビニシウスとポジション争いをしていることでわかる通り、シャビ・アロンソにとって右サイドはウインガーのポジションではない。右サイドの選手に必要なのは、ボールを動かしながらサイドから中へと動ける人材。単なるパスの受け手ではなく、ボールを保持して動くことでマークを引きつけ、より効果的にサイドにスペースを作ることができ、そのスペースをカルバハルなりバルベルデが使うことによってサプライズが生まれ相手守備陣をかく乱できるし、動いた先では数的有利も生まれる。

 マスタントゥオノと同じことはベリンガムもできる。2人は似た選手で交互に使えるが、現状はケガで長期欠場していたベリンガムが下で、連勝メンバーのマスタントゥオノが上、というのが私の中での序列だ。

今季リーベル・プレートから加入した18歳のアルゼンチン代表フランコ・マスタントゥオノと、在籍3季目で9月にはリーガ月間最優秀U-23選手賞を受賞した20歳のトルコ代表アルダ・ギュレル

 一方、ギュレルは2人とは全然違う。単純に言えば、もっと洗練されているし、天才肌だし、か弱いし、走れない。アトレティコ・マドリー戦で、あの抜群のタイミングでピンポイントにムバッペに送り出した鋭いアシストこそ、彼の最大の美徳。とはいえ、トップ下だけではもったいない。クロースの代わりにボールを出して、バックパスを受けて大きなサイドチェンジをするとしたらギュレルだと思うし、シャビ・アロンソも同じ考えだと思っていた。だが、ダービーでは右サイドで使ったので、ただの攻撃的MFという位置づけかもしれない。トップ下、つまりセンターのゾーンに配置されれば、下がってボールも出せるしサイドチェンジにだって関われるが、サイドではどちらも物理的に難しい。

 もう一つ、重要なのはサイドのギュレルには守備がほとんど期待できないこと。アトレティコ・マドリー戦でも苦戦していたが、そもそも走るのが苦手なのにスペースのあるサイドで走りながらの守備ができるわけがない。密度が高い中央であれば周りとの協力で相手の前に立ち塞がる程度の守備はできる。たぶんファーストプレスの信頼度でビニシウス、ムバッペ、ギュレルのトリオは、昨季までのビニシウス、ムバッペ、ロドリゴと大差ないのではないか? アンチェロッティ(現ブラジル代表監督)時代と大差ないのなら、新監督が新システムを取り入れている意味がない。これがマスタントゥオノかベリンガムであれば第一波、第二波の馬力あるプレスが期待できるし、サイドから駆けつけて緊急事態を救う守備だって期待できる。

 それでもこの試合、ギュレルは1得点1アシストを記録したのだが、なんと59分に3‐2でリードされている状態で交代させられた。ほとんどボールに触るシーンすらなかったベリンガムがまだグラウンド上にいたのに。シャビ・アロンソの中での序列はベリンガム>ギュレル>マスタントゥオノだったようだ。

敗因②:ボール出しの機能不全

……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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