トッテナムは「長居したくなる」クラブなのか?伊沢拓司がデータで読む、プレミア各チームの“居心地”
the SPURs for the Spurt 〜N17から眺めるプレミアリーグ〜 #9
熾烈な上位争い、世界中から集まる有望株、終わることのないマネーゲーム……欧州サッカーの中心となったプレミアリーグが、なぜここまでの地位を手に入れたのか、そして今後どうなっていくのか。“クイズ王”としておなじみの伊沢拓司が、敏腕経営者ダニエル・レヴィ率いるトッテナム・ホットスパーを通して、その活況の要因と未来の展望を綴っていく好評連載。
第9回は、移籍市場も佳境を迎えた中、今季プレミアにおける居心地が良いチーム、悪いチームを「選手の平均在籍日数」から“妄想”してみた。
スパーズの放出がいまいち進まない一因?
トッテナム・ホットスパーのファンベースは、相当に大きい。FOOTBALL GROUD GUIDEの記事によれば、主要なSNSのフォロワー数で世界のフットボールクラブを比較した時、世界で11番目の規模なのだという。これでもプレミアリーグでは6番目、というのがプレミア自体の注目度を表しているだろうが、アトレティコ・マドリーやミラノの2強、ドルトムントを凌ぐ規模であることから「世界的に人気なクラブ」であることには異論をまたないであろう。
そう考えると、日本におけるスパーズサポーターの人数感は、私の体感に過ぎないが「相対的に少ない」と言えよう。あくまで世界に比して、であるが、Xや観戦会で見かけるサポーターの数はそこまで多くない。いやいや、私の目から見える範囲がいかに小さいかは、国立競技場へと響き渡ったチャントを聞いた時に痛感したのであるが、それにしてももうちょっと大きくなりうるだろう、とは思ってしまうのである。アンジェ・ポステコグルーの就任や高井幸大の加入で国内での注目も集まってはいるため、これからが楽しみだ。
とはいえ、少人数ゆえの良さもあるにはあり、サポーターの空気は相対的に居心地が良い。かれこれ7、8年、各地のサポーターズクラブによる観戦会へとお邪魔しているが、どの土地でも楽しく試合を見ることができた(結果はともかく)。ダニエル・レヴィを筆頭にチーム運営が「とんでもないことをやらかす」みたいなケースはとても少なく、議論を呼ぶような大事件の少ないチームである、ということもその一因であろう。チームへの信頼感をベースに集まったサポーターたちは、シンプルに一体感が高い、というか、不必要なまでの一体感を求めるようなことがない。Xで日々情報を追っていても、穏当な議論と適切な分析を目にすることが(おおむね)多く、いつも勉強させてもらっている。ジェネラル小林を筆頭として、Osaka-Kobe SPURSや堺屋本舗など深く試合について学べる配信があることも魅力のひとつと言えよう。極東の地でサポーターとして日々を過ごす上で、この上ない心地よさがここにはある。
そして、それは、チームも一緒なのではないだろうか。クラブとしての揉め事の少なさは、選手にとっても明らかなプラスであり、クラブハウスなど福利厚生への投資も含めて過ごしやすい環境づくりができているはずだ。
しかしながら、「過ごしやすい環境」というのは、果たしてピッチ上の結果にとってプラスなのだろうか。
少し前、日本のサポーターの一部で「スパーズの放出がいまいち進まないのは、チームの居心地が良いことにも一因があるのではないか」という議論が行われていた。
もちろん、給与水準の高さゆえ他リーグへの放出が難しいことを前提としての話ではあるのだが、たしかに他クラブに比べてもスパーズでは「移籍についての揉め事」を起こす選手が少ない気がする。移籍リクエストを出して去るようなパターンはここ数年ほとんど見かけていないし、むしろ「ほぼ試合に出られないんだけどとどまる」パターンが多い。ロッカールームの雰囲気の良さやチーム愛を語るエピソードが多い、というのはもちろん歓迎すべきことだけれど、チームとしては新陳代謝しながら強化を繰り返さないといけない。生き馬の目を抜くプレミアリーグの群雄割拠にあってはなおさらだ。
スパーズは果たして「長居したくなる」クラブなのか。フロントの補強方針などの差は一回置いておいて、選手の在籍日数などのデータからある程度の傾向を割り出すことは可能だろう。移籍市場も佳境を迎えた今、プレミア各クラブの「長居」傾向について、データをもとに考えていきたい。
調べ方はシンプルだ。各チームから退団した選手について、それぞれがどれくらいの期間そのチームに所属していたかを調べ、選手数で割って平均在籍期間を出せばいい。
まず、強豪球団のここ10年に絞って、選手の在籍日数について調べようとしたのだが……ここに大誤算があった。
……
Profile
伊沢 拓司
私立開成中学校・高等学校、東京大学経済学部卒業。中学時代より開成学園クイズ研究部に所属し開成高校時代には、全国高等学校クイズ選手権史上初の個人2連覇を達成。2016年に、「楽しいから始まる学び」をコンセプトに立ち上げたWebメディア『QuizKnock』で編集長を務め、登録者数200万人を超える同YouTubeチャンネルの企画・出演を行う。2019年には株式会社QuizKnockを設立しCEOに就任。クイズプレーヤーとしてテレビ出演や講演会など多方面で活動中。ワタナベエンターテインメント所属。
