『チームの明るさと成績は比例する』ベガルタ仙台の愛される“最強のバディ”井上詩音が、杜の都を明るく照らす

ベガルタ・ピッチサイドリポート第27回
今季から加入した“クレイジーボーイ”が、ベガルタ仙台を明るく盛り上げている。井上詩音。プロ3年目の25歳。アカデミー時代を過ごした名古屋グランパスから、覚悟の完全移籍で杜の都へやってきたセンターバックは、早くもその闘志あふれるプレーでサポーターの心を掴んでしまったようだ。そんなナイスキャラの実像を暴き出すべく、おなじみの村林いづみが果敢に切り込む。
愛さずにはいられない。今シーズン、とんでもない“陽キャ”のセンターバックが仙台の一員となり、サポーターのハートを鷲づかみにしている。プロ3年目、J1名古屋グランパスから加入した井上詩音選手である。シュートブロックで相手の鋭い攻撃を止めると、雄叫びを上げる。泥臭く守ったかと思えば、鋭い読みで相手のキーマンを華麗に封じる。縦パスや長いボールでの展開も武器だ。
コンビを組む菅田真啓選手も今年から仲間となった新しい相棒の存在感を頼もしく感じている。「(詩音からは)気迫が前面に出ていますし、そこからパワーをもらえています。自分ももっとやらなきゃいけないなと感じるので、良い関係でプレーできていると思います。詩音は本当にたくましく、堂々としてきている。苦しい時には声を掛け合って、良いプレーをしたらタッチして、鼓舞し合いながらやっています。その雰囲気が周りにも伝わっていけばいいと思っています」
ピッチの中で結果を示す彼は、ピッチの外にも良い影響を広げている。トラメガを渡せば何かやってくれそうな香りがする。仲間のゴールセレブレーションには必ず駆けつけるし、勝利のダンスでは「押され待ち」の選手をいち早く見つけ、背中を強く押す。「バモ!」と声を張ってサポーターを盛り上げ、チームの明るさの発信源となっている彼に、仙台での日々の充実や、ここまでの歩みについて伺った(取材は6月22日、25日実施)。

シュートブロックは見せ場。サポーターを煽るところまでがフルコース
――今シーズン仙台に加入して、一瞬で溶け込みました。その明るさにチームメートもかなり助けられているようです。
「まぁ、これが僕なので。誰とでも仲良くなれるんです。苦手な人もいないし、先輩後輩も関係なく、隔たりなくコミュニケーションを取れるタイプです。そういう人はチームに必要だと思うし、そもそも仙台はなじみやすかったです。良い立ち位置で過ごしています」
――子どもの頃からこの性格ですか?
「ずっとこうです。俺は人をいじめたりなんて、全くしないですよ。いじめる奴には『いじめられる奴の気持ちはこうだぞ』とガツンと言っていました。そういう奴を反省させて、チームの中に溶け込ませるということをやっていました」
――それはもう、ヒーローじゃないですか。愛される性格に、チームを助けるプレーも伴っています。DFラインでレギュラーをつかみ、今季は井上選手のところで何失点防いでいるのでしょうか?
「いや(笑)、一人で防いでいるのはアキさん(GK林彰洋選手)なので、アキさんに聞いた方が良いです。僕自身が失点を防げているとしたら、前の選手たちが上手くコースを限定して、限定してくれた先に僕がいるだけなので。僕が防げていないところをアキさんが防いでくれている。チームで防いでいる失点です。僕のおかげではないです」

――そうは言うものの、井上選手のシュートブロックはチームの武器ですし、試合の見どころにもなっています。火の出るようなシュートブロックです。
「もう、僕にとっては“餌”なんですよ。相手が迫ってきて、鋭いシュートが自分の方に『来た!』と思ったら体が勝手に反応しているんです」
――餌ですか……。ご自身にとっては待ちに待った美味しいシチュエーションだと。そのシュートブロックを決めて、「やってやったぞ」とサポーターを煽るまでが一連の流れですね。
「はい、あれは最後の“デザート”ですね。焼き肉が終わって、デザートを食べる感じです。止めた後にサポーターの方を見ると、一緒に戦ってくれている感じがあるんです。体が勝手に動きます」
――仙台に来て、ご自身のプレーの変化や進化は感じますか?
「進化というよりも、やっと試合勘が戻ってきて、本来の自分に戻って来られたなと言うのが今季の前半戦です。ここからの後半戦がやっと自分の進化、成長した姿を見せるタイミングです」

子どもの頃から「目標の場所」だった名古屋を離れ、覚悟を持って仙台へ
――昨シーズン、J1名古屋では、試合出場数を考えるともどかしい時期も長かったのではないでしょうか。
「そうですね。3試合しか出られなかったので、きつかったですね」
――名古屋という生まれ育った地で、プロとしてプレーするのは待ちに待った時間だったと思います。
「僕はユースも名古屋グランパスU-18でした。昨シーズン、開幕戦は出られたんですが、その試合では0-3で負けてしまいました。元々スタメンだった選手が2人けがをしてチャンスが回ってきました。そこで上手く自分を表現できず、勝てなくて、上手くいかなくなってしまいました」
――苦しいシーズンを過ごした中で、ベガルタ仙台からのオファーが届きました。どのような決断でしたか?
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Profile
村林 いづみ
フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。