最後の砦を助ける「キーパーグローブ」の最先端。ドンナルンマで話題の「無数のトゲ」、トレーニング用の滑るグリップも登場

TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#17
『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。
第17回は、大手からマイナーなメーカーまで様々なブランドが新たなアイディアを生み出し進化を続ける「キーパーグローブ」の最先端トレンドを伝えたい。
キーパーグローブが誕生して50年の群雄割拠
24-25シーズン、プレミアリーグで優勝したリバプールのゴールを守ったのはブラジル代表のアリソン・ベッカーだった。この結果は、実はあるブランドにとって偉大なイベントでもあった。
ドイツの伝統あるスポーツブランドとして知られる「ロイシュ」にとって、アリソンは1999年のピーター・シュマイケル以来となる「同社のキーパーグローブでプレミアリーグを制覇した選手」となったからだ。
アリソンは19-20シーズンのリバプールでもプレミア制覇を経験しているが、その際はナイキのグローブを使用していた。ブラジル人GKは若い頃ロイシュ製のグローブを愛用していたこともあり、あらためてそのブランドを使用するようになった形だ。リバプールでセカンドGKとしてチームを支え、来季からブレントフォードへの移籍が決定したクィービーン・ケレハーも、このブランドを使用している。ロイシュ製のグローブを使用しているGKは世界的にも多い。例えば、スペイン代表のウナイ・シモンやバルセロナでプレーするボイチェフ・シュチェスニー、元フランス代表のウーゴ・ロリスなどがそうだ。
ロイシュはキーパーグローブ製造メーカーの中でも老舗として知られ、西ドイツ代表やバイエルンで活躍した伝説的なGK、ゼップ・マイヤーが1973年から同社のグローブを使用していたことでも有名だ。彼が西ドイツ代表として1974年W杯に出場した時、そのグローブは世界の注目を浴びた。
それ以前も寒さ対策で手袋を使ったり、庭仕事用の手袋を使いながらプレーする選手はいたが、アルゼンチンのリーベルプレートでプレーしていたアマデオ・カリーソはグローブを使用する文化の先駆けとなったプレーヤーだ。1970年のメキシコW杯ではイングランド代表のゴードン・バンクスがグローブを着用し、ペレのシュートを止める「世紀のセーブ」で観客を沸かせた。そこから8年後のアルゼンチンW杯では、スコットランド代表のアラン・ラフだけが素手でプレーしており、残りの選手はグローブを使用していた。
そのような歴史を考慮すると、GKがグローブを着用するようになって約50年の年月が流流れたと言える。今回はキーパーグローブに注目し、最先端のグローブや用途に合わせたデザインを紹介していきたい。
進化の肝は「パンチングゾーンの工夫」
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。