鎌田大地が求められた必然。FAカップ制覇のクリスタルパレスを支える「現代型」の堅守速攻

TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#16
『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。
第16回は、FAカップ制覇を成し遂げたクリスタルパレスの「現代型」の堅守速攻を分析する。オーストリア人監督オリバー・グラスナーのインテンシティを重視するスタイル、そして鎌田大地が求められた必然について掘り下げてみたい。
世界最古のカップ戦であるFAカップ決勝、ウェンブリーの地に集まったクリスタルパレスのサポーターはチーム初のメジャータイトルを祝い、勝利の美酒に酔った。今季は不調だったとはいえ、相手はプレミアリーグを支配してきた強豪マンチェスター・シティ。ペップ・グアルディオラ率いるチームは多くのタイトルを独占し、チームを去るケビン・デ・ブルイネの花道を飾るタイトルを渇望していた。しかし、指揮官オリバー・グラスナーは次のコメントを証明するようにマンチェスター・シティを徹底的に分析していた。
「プレミアリーグの試合後、ペップに次はこのシステムでプレーすることができないだろうと伝えた。なぜなら、同じシステムであれば我々は解析するからだ」
グラスナー戦術の基礎となる「インテンシティ」
「インテンシティ」こそ、グラスナーのチームを象徴するワードだろう。
オーストリアリーグのSVリート時代、すでにグラスナーは長い距離をハイスピードで走る選手の重要性を説いており、激しくトランジションを繰り返すことで相手チームを圧倒するようなゲームモデルを浸透させてきた。そこにはユルゲン・クロップの影響があるという。
「私のようなドイツ語圏のコーチにとって、ユルゲン・クロップは衝撃的でした。彼はアグレッシブで激しいカウンタープレスを武器にした新しいスタイルを広めてくれた。キャリア晩年の私にとって、それは新鮮だったんです。彼のゲームに対するアプローチは私の指揮官としての視点にも影響を与え、どのようにインテンシティを保ってプレーするべきかを学びました。彼らはボールを失った時、10人の選手が笛を吹かれたようにそのボールを狩るのです」
堅守速攻をベースにしていたとはいえ、どちらかというと自陣で跳ね返すことが多かったクリスタルパレスを、グラスナーはインテンシティの高いチームへと変貌させていった。実際のデータとしても、ハイ・インテンシティ・スプリントの回数が増加しており、チームに伝えたメッセージは明白だった。グラスナーは就任後、パレスの選手に「もっと走らなければならないし、もっと速く走らなければならない。もっとスプリントするんだ」というシンプルなメッセージを伝えている。
そのスタイルを支えるフィジカルコーチこそ、ミヒャエル・バークトルトだ。彼はLASKやボルフスブルク時代にグラスナーとともに働き、その後にレッドブル・グループのザルツブルクでもフィジカルコーチを務めた。ハイプレスを信条とするレッドブル・グループでの経験をベースに、クリスタルパレスを鍛え直したのが彼だった。
……

Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。