24-25セリエA展望(前編):本命インテルは米資本でさらに万全、対抗ユーベは「ベストの選択肢」チアゴ・モッタで新サイクルへ
CALCIOおもてうら#24
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、今週末に開幕する24-25シーズンのセリエA展望。前編では本命インテルと対抗ユベントスの現状を掘り下げてみたい。上位10チーム中8チームが(ほぼ)新体制、「プレミアリーグと並んで、とまではいかないにしてもその次くらいには目が離せないリーグ」(片野氏)の開幕が楽しみだ。
EURO2024が終わったと思えばパリ五輪が始まり、それも終わって一息ついたらもう、欧州サッカー新シーズンの開幕である。
イタリアの8月半ばといえば、夏のバカンスシーズンのど真ん中。都市はもぬけの殻で観光客しかいなくなるのが常で、おまけに気温は夜でも30℃近い。つい数年前までは、試合をするには暑過ぎるし、そもそもスタジアムが埋まらないという理由でどのクラブも開幕の前倒しに反対だったのだが、日程がここまで過密になるともうそんなことも言っていられない。2年前の22-23からは、それまでの8月下旬開幕から1週繰り上がって8月中旬開幕となっている。
上位10クラブ中8チームが(ほぼ)新体制
ここ数年繰り返してきたように、2010年代を通して続いたユベントスの覇権が崩れて以降、2020年代前半のセリエAは「不確実性の時代」が続いてきた。過去5シーズンの優勝は、19-20がユベントス(監督はサッリ)、20-21がインテル(コンテ)、21-22がミラン(ピオーリ)、22-23がナポリ(スパレッティ)、23-24がインテル(インザーギ)と、回り持ちのようなことになっている。
この間、数年にわたって継続的にチームが成長する1つのサイクルを築いたのは、インテルとアタランタだけ。それ以外のビッグクラブは、同じ監督の下でも成長が止まって停滞期に入るか(ミラン、ユベントス、ローマ、フィオレンティーナ)、サイクルが軌道に乗らないまま混迷するか(ナポリ、ラツィオ)という状況だった。
これから開幕する24-25は、これら「成長が止まっていたビッグクラブ」が軒並み監督を入れ替えて新たなスタートラインに立つという、時代の節目になりそうなシーズンだ。何しろ昨季の上位10チーム中、インテルとアタランタを除く8チームが新体制なのだ(ローマはデ・ロッシが続投だが、昨シーズン途中の就任であり本格的なサイクルの立ち上げはここから)。
リーグ全体で見ても、昨シーズン開幕時と同じ監督に率いられているのは、上に挙げた2つの他にはジェノア(ジラルディーノ)と昇格組のパルマ(ペッキア)だけ。レッチェ(ゴッティ)、コモ(セスク・ファブレガス)は続投だが、昨シーズンは途中就任だった。
全20クラブ中、監督が1年以上持っているのがわずか4チームというのは、たまたまサイクルの周期が重なったという側面があるにしても、異例に少ない数字と言っていい。その点から見ても「不確実性の時代」はまだまだ続いているわけだが、今シーズンに関しては、どの新プロジェクトがいち早く軌道に乗るかが、1つの大きな見どころになりそうだ。
すでに強いインテルが経営面でさらに安定
スクデット争いに関しては、戦力レベル、チームとしての完成度、プロジェクトの継続性と、あらゆる面でライバルの一歩先を言っているインテルが、やはり本命ということになるだろう。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。