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セリエA「20→18」チーム案は見送り濃厚。グラビーナFIGC会長のカルチョ改革は実現するか?

2024.02.02

CALCIOおもてうら#1

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、イタリアサッカー連盟(FIGC)のガブリエーレ・グラビーナ会長が2月までに政府に提出する事業計画最終案を確定させるというタイムスケジュールを明言し、強い姿勢で臨んでいる「カルチョ革命」の背景と進捗について解説する。

 FIGCのガブリエーレ・グラビーナ会長が、自身の地位を懸けて、セリエA以下プロリーグ全体のシステム見直しを柱とする「カルチョ産業」全体の構造改革を進めようとしている。

 1990年代には「世界で最も美しいリーグ」と呼ばれ、欧州最高峰を誇ったセリエAだが、21世紀に入って以降、プレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、そしてブンデスリーガに次々と追い抜かれて、近年は「5大リーグで4番目」という位置にすっかり居着いてしまった観がある。

カルチョの世界が持つ強い危機感

 その原因は複雑だ。

 00-10年代を通して他国で進んだスタジアムの現代化やコマーシャル分野の拡大がまったく進展せず、TV放映権料に収入を依存する構造が変わらないために、成長性、収益性で大きく遅れを取ったこと。育成やトレーニングセンター整備といった長期的な視点に立った投資を渋り、トップチームの結果だけを追い求めて目先の戦力強化に資金を(しばしば無理して)投下した結果、赤字がかさんで自転車操業に陥るというイタリアならではの経営体質がそこに重なったこと。セリエA、B、Cの各リーグ間はもちろん、セリエAのクラブ間ですら利害が対立して合意が形成できず、こうした状況を改善するために必要な中長期的な視点に立った構造改革のプロジェクトの立ち上げすらままならないこと――。

 結果的にセリエAはもちろん下部リーグまで含めたプロリーグ全体で見ても、人件費と選手獲得費用の減価償却費だけで支出の70%を大きく上回り、営業収支は慢性的な赤字、その一部をプレーヤートレーディングによる移籍収支で穴埋めした経常収支でも赤字が続いている。必然的に負債も増え、21-22シーズン末時点での負債総額は全体で56億ユーロにも到達している。

 ピッチ上でも、セリエAのメガクラブは国際競争力を失ってCLのトップグループから脱落し、有望選手にとってキャリアの「目的地」ではなく「通過点」になってしまった。ナポリやローマといった二番手グループはもちろん、ユベントス、ミラン、インテルですら、活躍した主力選手を引き留めておくのが難しくなってきている。イタリアのプロサッカー全体が「持続可能性」という観点から危機に瀕していると言ってもいいだろう。

総額5500万ユーロ(約86億円)の移籍金で、インテルからマンチェスター・ユナイテッドに加入したアンドレ・オナナ

 FIGCが毎年発行しているイタリアサッカー全体の現状分析レポート『レポート・カルチョ』の最新版でも詳しく分析されているこうした状況に対する危機感を、カルチョの世界全体が共有していないわけではない。問題は、それをもたらした様々な問題を解決するためには、何らかの痛みを伴う改革が必要であり、しかし誰もそれを引き受けようとしないところにこそある。セリエAのチーム数削減や下部リーグの再編といった改革の必要性は、それこそ10年前から言われ続けているのだが、これまで具体化に向けて動いたことはなかった。

「税制優遇」の既得権ははく奪。政界からの厳しい目

 それがここに来てようやく、2018年に就任して2期目の任期を終えようとしているグラビーナ会長(UEFA副会長でもある)が、自らの強いリーダーシップによる改革に本気で乗り出した。……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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