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野球に比べて数は少ない…フットボール界の“不文律”とは?

2020.09.28

 今シーズンも日本のプロ野球界では「不文律」が話題になった。今年8月、6点差の大量リードをするチームが盗塁したことで一部のファンや解説者から「マナー違反だ」と非難を浴びたのだ。いわゆる“暗黙のルール”というやつだ。

事細かな野球界の不文律

 野球界にはルールブックには書かれていないルール、「不文律」というものが数多く存在するそうだ。特にアメリカではこれが重視されており、破ればデッドボールの標的になる。そういった“ベースボール”の文化が中途半端に日本に入ってきたため混乱を招いているようだ。

 冒頭のシーンについても野球関係者の間で意見が割れており、定着していない限りは「不文律」とは呼べないのかもしれない。ただし日本のプロ野球界でも、2008年から盗塁対策をしていない無関心な相手から盗塁した場合は盗塁の記録が付かないことになったという。その無関心というのは「スコア」「イニング」などを考慮して公式記録員が判断するそうで、暗黙のルールを定着させたいのかもしれない。

 メジャーリーグ(MLB)では、今年8月に大量リードしているチームの選手が「3ボール、0ストライク」からホームランを打ち、“不文律違反”として思い切り糾弾された。これを受けてMLBの公式HPの記者が「不文律」に関する記事を掲載したので、興味本位で目を通してみた。

 それによると、驚くべきことに大量リードを“奪われているチーム”も「盗塁」や「ホームランを祝う行為」は避けるべきだという。試合終盤には、大量リードをしているチームも、されているチームも余計なことをすべきではないそうだ。「負けているのに楽しもうとしている」と反感を買うことがあるのだという。

 さらに、選手だけでなく観客にも不文律があるという。「大人の観客は、ファウルボールを拾ったら近くの子供にあげること」とある。自宅で待つ子供に持ち帰るという明確な理由があれば別だというが、それだって周りの観客にうまく説明できなければ大変なことになるそうだ。ちなみに「ホームランボール」に関しては不文律が緩いという。

「リスペクトに欠ける行為」

 では、フットボール界の暗黙のルールはどうだろうか。野球界ほどは多くないように感じる。有名なところでは「古巣との試合ではゴールを決めても喜ばない」というものだ。これだって(2009年の)エマニュエル・アデバイヨルのように喜ばなければ許されるだろう。

 「負傷者のためにボールを外に出したら、相手チームはボールを返す」というマナーもあるが、最近は主審が判断するまでプレーを止めなくていいとルール化されたため、少し機会が減ったように思う。それから「ボックス内外でのファウルの基準の相違」という不文律もあるだろう。これがなければ1試合に10本以上のPKが生まれてしまうので大事なことだ。

 あくまで個人的な見解だが「南米(特にブラジル)出身選手の股を抜くな」というのも不文律に入れたい。股抜きだけでなく、派手な足技で抜き去れば、必ずといっていいほどファウルの報復を受けるだろう。

 それでもフットボール界は不文律が少ないように思う。それは年々、ルールの詳細化が進むからだし、競技規則の“あるルール”を広く適用できるからだ。

 競技規則(JFA発表)には「試合に対してリスペクトに欠ける行為を行う」ことはイエローカードの対象とある。英語の原文を的確に訳すのなら「競技に対して」や「フットボールというスポーツに対して」に表現を変えるべきだ。いずれにせよ「リスペクトを欠けば罰する」とあるのだ。

無視される6秒ルール

 さらに、フットボールの国際化も不文律の定着を阻んだ要因だと思う。フットボールは全世界で楽しまれているため、ある国や地域だけで根付いた文化や常識が通用しないのだ。

 MLBの不文律はアメリカの文化であり、それが定着しているのはアメリカ国内だけで完結するスポーツだからだ。UEFAチャンピオンズリーグやFIFAワールドカップのように、“ベースボール”も国際試合がもっと盛んになれば不文律は消えていくように思う。

 最後に、筆者がどうしても不思議に感じるフットボール界の“不文律”がある。今季も試合を見ながら「1、2、3、4、5、6」と秒数を数えてしまった。これほど“微妙なハンドの判定”や“VAR”は議論されるのに、どうして「6秒ルール」だけは無視されるのか。

 皆さんも忘れているかもしれないが、GKが「ボールを放すまでに、手または腕で6秒を超えてコントロールする」行為は反則で、それは今でも競技規則に明記されている。どうやら、このルールを無視するのがフットボール界の“不文律”のようだ……。


Photo: Getty Images

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エマニュエル・アデバイヨル文化

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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