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30年ぶりリーグ制覇のリバプール、ベストの補強は育成専任コーチ

2020.08.22

 リバプールでは、若手選手たちが自身の成長を語る際に必ず名前を挙げるコーチがいる。先日、新たに5年契約を結び直した19歳のDFネコ・ウィリアムズは、クラブHPのインタビューで様々なクラブ関係者に感謝の意を伝えた。

 同じポジションの先輩であるトレント・アレクサンダー・アーノルドや下部組織の指導者などへの感謝を語ったほか、トップチームのあるコーチの名前を出して「彼がいなければ今の僕はあり得ない」と言い切ったのだ。そのコーチとは、2019年から「エリートデベロプメントコーチ」を務める32歳のポルトガル人、ビトール・マトスである。

若手のためだけのコーチ

 マトスは、ポルトガルの名門ポルトでユース世代のコーチや分析官を任され、2018-19シーズンには同クラブのBチームのアシスタントコーチを務めていた。一時はポルトを離れ、2年ほど中国の山東魯能でユース育成に携わったこともある。

 そんな育成のスペシャリストがリバプールに加入したのは昨年10月のこと。リバプールにはネコ・ウィリアムズの他にもカーティス・ジョーンズや17歳のハービー・エリオットなど有望な若手が何名もいるが、彼らはすぐにトップチームに定着できるわけではない。そのため、クラブはアカデミーやU-23チームで結果を残してトップチームに昇格する若手選手のためだけにコーチを雇っている。それがマトスなのだ。

 ユルゲン・クロップ監督はこう説明する。「プレシーズンでは若手がトップチームと一緒に行動する。だが、シーズンが始まり忙しくなると、主力選手が試合に出続ける。そうなった時でも若手選手には疎外感を覚えて欲しくないんだ」

 そのために若手選手専属の指導者を呼び寄せたのだ。今ではクロップの“右手”を務めるアシスタントコーチのペピン・ラインダースも、2014年に初めてリバプールに来た際には同じ役職を任されていた。だが、同氏が2015年にアシスタントコーチに昇格して以降、その役割を担う者がいなかった。

 「彼は才能があり、頭脳明晰なコーチだ」と、昨年ラインダースはマトスについてクラブHPで語っていた。「彼は担当する8~9名の若手を感化させることができる。そしてアカデミーとU-23チームを、そしてU-23チームとトップチームをつなぎ合わせる“コネクター”となっている。今季のベスト補強は彼だよ!」

「練習よりも大切なことがある」

 マトスはトップチームとアカデミーを行き来する若手選手のために、各カテゴリーのスタッフに明確な情報を与え、一貫性を持った指導が行われるように気を配っている。しかし、彼の仕事はそれだけではない。「練習よりも大切なことがある」とマトスはクラブHPで説明する。

 「ピッチでのパフォーマンスは大切だ。だが時に、成長という意味では必ずしも練習が最重要というわけではない」とマトス。「どこで誰と住んでいるのか。何を食べているのか。どんな私生活を送っているのか。そういったことを把握することで、選手の能力を知り、さらにその選手の気持ちや人生そのものを理解することができるんだ」

 だからマトスは常に若手選手に寄り添い、たびたび彼らの自宅を訪問するという。

 「フットボール面だけでなく、普段の生活の支えになってくれるスタッフがいることは、若手選手にとって心強いはずだ。彼らが『自分もリバプールの選手なんだ。ここは他のクラブとは違うんだ』と思ってくれたらうれしいね」

 “コネクター”として就任1年目から大忙しだったマトス。昨シーズンまではトップチームとアカデミーの練習場が別々だったため、5kmほどの距離を行き来し続けた。だが、新シーズンからは全カテゴリーのチームが同じ練習施設に集結する。彼の仕事も少しは楽になるかもしれない。


Photo: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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