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バイトリーダーからプレミアリーガーへ。クリス・バシャムの成功ストーリー

2020.03.27

 世界最高峰のプレミアリーグで活躍する選手の中には、エリート街道とはほど遠い道のりを歩んで来た者がいる。若くして挫折し、下部リーグで経験を積んで、ようやく日の目を見る。そんな選手は少なくない。昇格組ながら上位に名を連ねるシェフィールド・ユナイテッドの主軸も、そういった選手の1人だ。

16歳で挫折しマックでバイト

 イングランド北東部出身のクリス・バシャム(31歳)は、地元のニューカッスルの下部組織でキャリアをスタートさせた。しかし、16歳の時にクラブから“残念な通知”を受け取ったという。「電話はなく、手紙だけが届いた」とバシャムはスポーツ情報サイト『The Athletic』に語る。「手紙を開けたのは父だった。父は僕を抱きしめて『今でもお前は私たちの誇りだ』と言ってくれた」

 その晩、父親はバシャムの友人たちを自宅に集めてパーティーを開いた。しかし、バシャムは「その中の何名かは『ようこそ現実世界へ』と僕のことをあざ笑っているように感じた」と明かす。

 16歳で挫折を味わったバシャムは、気を紛らわすために遊ぶのではなく、目の前の現実を受け入れることにした。そして専門学校への進学を決めると、自宅近くのマクドナルドへと向かった。「ボビー・ロブソン監督や英雄アラン・シアラーを間近で見てきた僕にとって、マクドナルドでのバイトは現実を知るきっかけになった。1日9時間のシフトは本当にきつかった」

 バシャムは、マンチェスター・ユナイテッドやニューカッスルで活躍したニッキー・バットがドライブスルーで利用する店舗で必死に働いた。夜中の3時に帰宅し、翌朝8時に起きて学校に通う生活。時給は3.5ポンド(約470円)からスタート。少し手当が出る年末年始も働いた。そのバイトを通じて「規律、時間厳守、組織」などを学び、「間違いなく自分のためになった」と振り返る。

18歳で転機、やがてプレミアへ

 1年3カ月ほど続けて消耗し切ったバシャムに新たな転機が訪れる。バイトを辞め、18歳の時に地元チームでプレーしていると、ボルトンのスカウトの目に留まったのだ。

 バシャムはボルトンでも貴重な経験を積んだという。「ボールを失えば(元スペイン代表の)イバン・カンポに怒鳴られた。若手としてケビン・ノーランのスパイクを磨き、クリスマスにはお小遣いをもらった」と当時を思い出す。しかし、なかなかボルトンで出番を得られなかったバシャムは、2年間の契約が満了する時に放出リストに載ることになった。

 そんな時だった。監督に就任したばかりのギャリー・メグソンが、クラブに掛け合って放出を止めてくれたのである。メグソンは当時をこう振り返る。「バシャムはまだ若かったが、私は彼の姿勢にほれ込んだ。毎朝、私がアシスタントと一緒に練習用具を運んでいると、必ずバシャムが手伝ってくれた。彼は、一足早く練習場に来て手伝ってくれたんだ」

 もしかすると、それはマクドナルドで学んだ“働く姿勢”だったのかもしれない。その後、バシャムはブラックプールを経て2014年にシェフィールドに加入。5部リーグでもプレーした経験を持つ彼は、クリス・ワイルダー監督の「オーバーラッピングCB」の一員として2度の昇格に貢献し、今季、再びプレミアリーグの舞台にたどり着いた。

 ボルトンやブラックプールでもプレミアの舞台を踏んでいるが、31歳にして「ちゃんとプレミアに所属するのは今回が初めて」と考える。涼しい顔で攻撃参加する姿は、サポーターからドイツの“皇帝”になぞられて「バシャムバウアー」と呼ばれている。バイトに励んでいた青年は、今ではプレミアで7位につけるチームの主軸となっている。


Photo: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。