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デビュー20周年、600試合目前の鉄人ミルナー。その“退屈”なプロ意識

2022.11.06

 リバプールの元イングランド代表MFジェイムズ・ミルナー(36歳)が、偉大な記録を打ち立てようとしている。

 ミルナーは、11月10日にプレミアリーグデビュー20周年を迎えるのだ。2002年11月10日、まだプロの世界を知らないリーズの新星は、ウェストハムとの試合で84分にジェイソン・ウィルコックスに代わりピッチに立った。16歳と309日。当時、プレミアリーグで2番目に若いデビュー記録だった。

 あれから20年の歳月が経ち、51歳となったウィルコックスはマンチェスター・シティの下部組織でダイレクターを務めている。そしてミルナーはというと、リバプールで今季もプレミアリーグとUEFAチャンピオンズリーグの舞台に立ち続けている。

 その20年の間に、ミルナーはプレミアリーグで599試合も試合に出続け、あと1試合で史上4人目のプレミアリーグ600試合の大台に乗るところまできた。先日のナポリ戦では脳震盪のため交代しており、今週末は試合に出られないが、11月12日のサウサンプトン戦で節目の600試合に到達するかもしれない。

過去の3人とは異なるキャリア

 そんな記念日を前に、ミルナーは英紙『The Guardian』でこれまでのキャリアを振り返った。20年前、デビュー戦でピッチに立とうという時に、ミルナーは当時のチームメイトであるGKナイジェル・マーティンに「キャリアは一瞬なので満喫するように」と言われたそうだ。当時は「何を言っているんだ。俺はまだ16歳だよ?」と思ったそうだが、気づけば20年もの歳月が経っていた。「あっという間に20年さ」とミルナーは振り返る。「彼の言葉は正しかった。何が起こるかは分からないものさ。これだけ多くの監督の下でプレーするなんて思ってもみなかった」

 史上4人目の600試合を目前に控えたミルナーだが、600試合を達成している過去3名とは少し違うキャリアを歩んできた。653試合の最多記録を持つギャレス・バリーはアストンビラで長いことプレーした後、マンチェスターCに移り、その後はエバートンとWBAでプレーした。歴代2位のライアン・ギグスはマンチェスター・ユナイテッド一筋。3位のフランク・ランパードも3つのクラブを経験したが、大半の時間をチェルシーで過ごした。

 だがミルナーは、リーズでキャリアをスタートさせると、ニューカッスル、アストンビラ、マンチェスターCとステップアップを遂げ、今ではリバプールで活躍し続けている。プロデビューを飾って以降、最も長く在籍したのは現在のリバプールで7シーズン目。そうやってクラブを渡り歩き、さらにベテランになってもレベルを落とすことなく第一線で戦い続けているのだ。ということは、これまですべての監督に気に入られてきたように思ってしまうが、そうでもないという。

 ミルナーはこう説明する。「リーズでの2年目は出番を失い、スウィンドンに1カ月ローンに出た。そして戻ってきたら試合に出られるようになった。ニューカッスルでも、すぐに監督が交代し、後任監督はベテランを重視したのでアストンビラにローン移籍した。そうやって様々な障害を乗り越えてきたのさ。別にすべての監督に好かれていたわけではない」

「2つの時代を経験できた」

 彼が20年ものプロキャリアを送れている最大の理由は、彼の真面目すぎるプロ意識にある。ミルナーは、SNSで「退屈なミルナー」というパロディアカウントが作られるほど真面目な選手として知られるが、それは今に始まったことではない。今でこそ若い年代からプロ意識の高い選手は増えたが、20年前は違ったという。「飲もうぜ」とか「最初に酒を飲む時は一緒だぞ」とか、何度も誘いを受けたという。「まだいろいろなことを学ぶ年齢だった。私は『最高の選手になるためにはどうすればいいのか』と考えていたよ」とミルナーは説明する。

 だからお酒を飲まなかった。そして練習の後にビデオゲームで遊ぶのではなく、CKやFKの練習をした。5年ほど前まで、トレーニングの後は毎日のように居残りでシュート練習をしていたそうだが、今の年齢ではオーバーワークになってしまう。だからミルナーは「家に帰ったらヨガをする」と話す。

 20年前のサッカー界では、まだ選手がお酒を飲みに行くのは普通だった。そんな環境でも、ミルナーは大切なことを学んだそうだ。「当時は水曜日と日曜日がオフだったので、選手たちは土曜日の晩に外出していた。水曜日に出歩き、木曜日の練習でゴミ袋を着て汗をかいてアルコールを出そうとしている選手もいた。そういった反面、ドミニック・マッテオ(元スコットランド代表)などは、グレード2のハムストリングの肉離れでもプレーした。今とは時代が違う。でも、悪い部分も良い部分もあったということさ」

 当然、ベテラン選手から怒られることもあったし、彼らの靴磨きもさせられた。そういう環境の中で、自分で自分の居場所を確立させる強さを学んだのだ。「私は2つの時代を経験できて幸運なのさ」とミルナーはキャリアを振り返る。

 古き良き英国フットボールと近代サッカーを経験し、600試合まであと1試合に迫った鉄人は、まだまだその歩みを止めないだろう。


Photo: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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