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元イングランド代表GKカークランド、鎮痛剤の依存症を告白

2022.07.23

 元リバプールのGKクリス・カークランド(41歳)が、鎮痛剤の依存症に苦しんでいたことを告白した。

 カークランドは若くして将来を嘱望されるGKだった。2001年に600万ポンドでコベントリーからリバプールに移籍し、20歳にして英国史上最高額のGKとなった。2006年8月にはイングランド代表デビューも果たし、その際には彼の父親の“賭け”が話題になった。カークランドの父親は、息子が11歳の時に「30歳までにイングランド代表デビューする」という倍率100倍の賭けをしており、1万ポンド(約150万円)の配当金を得てニュースになったのだ。

 イングランド代表ではその1キャップに留まったカークランドだが、リバプールやウィガン、シェフィールド・ウェンズデーなどプロキャリア通算300試合以上に出場し、2016年に引退した。鬱に悩まされていた苦悩を過去に明かしたこともあるカークランドは今回、英紙『The Guardian』や『BBC』などのインタビューで鎮痛剤の依存症だったことを明かした。

クビ回避のため鎮痛剤を利用し…

 カークランドは現役時代、腰のケガに悩まされていた。そして2008年にリバプールからウィガンへ移籍すると、ケガを抱えながら試合に出場するために鎮痛剤を服用したという。最初は数日分だけ。ウィガン時代の6年間では、そういったことが2、3回だけあった。しかし、2012年の移籍をきっかけに状況が一変する。

 ウィガンで出番を失ったカークランドは、リバプールやウィガンのあるイングランド北西部に居を構えながら、出場機会を求めてイングランド北中部のシェフィールド・ウェンズデーへと移籍した。プレシーズンは「絶好調だった」そうで、開幕スタメンは間違いなかった。しかし、開幕の2日前に腰のケガが再発したという。そのシーズンの開幕週は1週間で3連戦が予定されていたが、カークランドの契約には「腰のケガで3試合欠場したら契約解除」という条項が織り込まれていたため、欠場すれば開幕1週間でクビを言い渡される可能性もあったという。

 「開幕戦に出なければ、周りから『やっぱりね』と叩かれるはずだ。開幕1週間でクビになることが脳裏をよぎった」というカークランドは「トラマドール」という鎮痛剤を入手し、開幕戦に出場した。その頃のカークランドは、イングランド北西部の自宅からシェフィールドまで毎日のように通っており、鎮痛剤はそういった移動の不安をも和らげてくれたという。

 始めは移動の時だけ服用しようと思ったそうだ。しかし、服用し続けると鎮痛剤に対する耐性ができて薬が効きにくくなり、摂取量が増えていった。気づけば目安の10倍の分量を服用していたという。そして薬に依存するようになり、精神面に影響が出始めた。「引きこもり始めた。練習から帰ると門を閉じて社会とのつながりを絶った。自分は完全に変わってしまった」と打ち明ける。

 そんな思いをしていたカークランドは、2016年にベリーに加入し、初めて依存症を相談することになる。家族と離れてプレシーズンのポルトガル合宿に参加していたカークランドは、鬱もあって苦しんでいた。合宿先の一室で自殺まで考えたという。それでも家族の顔を思い出し、奥さんに電話をかけると、泣きながら「僕は鎮痛剤の依存症なんだ。助けてくれ」と告白した。

 結局カークランドは、シーズン開幕を待たずして退団し、スパイクを脱ぐことになった。その後は、選手協会などの力を借りて1年ほどは薬を絶ったそうだが、目標を失って選手生活が恋しくなった彼は、腰の痛みもあったため再び鎮痛剤に手を出したという。無論、そんな生活は長続きしない。2019年に倒れてしまい、ようやく依存症のリハビリを受け始めたという。

「依存症は1人では戦えない」

 だが、それで解決しないのが依存症の怖いところだ。リハビリを終えて普段の生活に戻ると、コロナ禍のロックダウン期間中に再び鎮痛剤に手を出したという。「5カ月ほど前にもネットで薬を買って服用した。そうしたら気持ち悪くなって幻覚まで見た。もう止めようと自分に言い聞かせたよ。でも、翌日には他の薬を飲んでいた。そして2週間後に再び倒れ、1週間ほどベッドで丸まっていた。痛みや吐き気など、離脱症状はとても辛いんだ」

 本当に危ない時期もあったという。「死ぬかと思った。自分が誰なのか分からなかった。自分の家がどこにあるかも分からなかった。カーナビに自宅を設定しているため家に帰れたが、それがなければ帰れなかっただろう」

 今は家族や愛犬の力を借りて人生を取り戻そうとしているカークランド。依存症と戦うためには、自分の抱える問題を打ち明けてサポートを受けることが大切だという。奥さんはカークランドを連れて主治医の元を訪れて鎮痛剤を処方しないように頼み、郵便配達員にもカークランドには手紙や小包を渡さないようにお願いしたという。そして数日に1回、ドラッグテストを受けさせている。

 こうしてメディアを通じて苦悩を打ち明けた彼は「ホッとしている」と語る。「依存症は1人では戦えない。不可能なんだ。勇気を出して助けを求めるんだ。それは早ければ早いほどいい」

 引退後、一時はコーチ業も目指した彼だが、今はメンタルヘルスの慈善団体で働きながら、アンフィールドで試合を見る生活を送っている。今の目標は、チャリティーの一環としてキリマンジャロ山に登ることだという。


Photo: Getty Images

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ウィガンクリス・カークランドリバプール

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。