なぜ藤本憲明は、カテゴリーが下の福山シティFCを選んだのか。36歳からの新章
【特集】 世界は「日常」になった――。変化する日本人選手のキャリアパス#3
2023年のU-17W杯ラウンド16、スペイン戦のスターティングイレブンのうち、4人がすでに海外でプレーしていることをご存知だろうか?佐藤龍之介はFC東京を経てスペイン1部のバレンシアへ、名和田我空はガンバ大阪からベルギー1部のシャルルロワへ。小杉啓太は湘南ベルマーレU-18から直接スウェーデン1部のユールゴーデンに渡り、ドイツ1部のフランクフルトへ飛躍した。吉永夢希も高卒でベルギー1部のゲンクに加入している。もはや珍しいものではなくなりつつある、早期のプロ契約や海外挑戦。日本人選手のキャリアパスが大きく変わり始めている今、これからどのようにその将来を設計していくべきなのか。そして、そこにどう関わるべきか。選手、クラブ、市場、それぞれの視点から、変化の現在地を考えてみたい。
第2&3回は、JFLからJ1に辿り着いた藤本憲明のインタビュー。J1・ヴィッセル神戸からJ3・鹿児島ユナイテッドFC、JFL・いわてグルージャ盛岡へ。そして2026年、藤本憲明が選んだのは地域リーグの福山シティFCだった。
オファーを一度は断った藤本の心を動かしたのは、クラブのビジョンと、代表・岡本佳大の「どうしても来てほしい」という言葉だった。加入後はピッチ内だけでなく、栄養環境の改善や若手への影響など、様々な形でチームに変化をもたらしている。全治約1年の大ケガに見舞われた今も、その視線は自らの復帰だけでなく、クラブの未来へと向けられている。
「無理です、諦めきれません」――福山シティFCが藤本憲明を必要とした理由
JFLの佐川印刷SCでキャリアをスタートし、J3、J2、そしてJ1へとカテゴリーを駆け上った藤本憲明。2022年限りでJ1・ヴィッセル神戸を離れた後は、J3・鹿児島ユナイテッドFC、JFL・いわてグルージャ盛岡と、カテゴリーを落としてプレーした。
「ちょうど神戸の最後のシーズンくらいから、リーグ全体の傾向が、30歳を超えた選手に対して厳しい時代になったなと感じ始めて。周りの選手たちの話を聞いても、やっぱり年齢で弾かれることが多くなった印象でした。その中で鹿児島はまた僕を待っていてくれたし、最初に所属した時の恩返しもしたかった。目標通りチームをJ2に昇格はさせたけど、やっぱりそこでも30歳以上の選手の多くが契約満了になって」
岩手では1年でのJリーグ復帰を果たせなかった後、クラブの経営権譲渡などもあり、大半の選手が放出された。そのタイミングで藤本に猛アタックをかけてきたのが、福山シティFCだった。初めての面談に、クラブの代表で強化部門の責任者も務める岡本佳大氏が自ら岩手まで駆けつけた。

「ノリさん(藤本憲明)が最初に鹿児島でプレーしていた頃、ネットニュースか何かで彼の存在を知ったんです。僕、実はノリさんと同い年なんですよ。こういう選手がいるんだなと思って見ていたら、どんどんステップアップしていく。大分や神戸での活躍とともに、ちょうどその時期は各クラブが自社のメディアでの発信を活性化していて、それでより深く、彼のキャラクターを知るようになりました」
藤本の獲得に乗り出した理由を、岡本氏はこう明かす。
「我々の課題は、両ゴール前の質だと考えていました。リーグ戦ではいいところまで行けるし、JFL昇格を懸けた地域CLでもそこそこのポジションにまでは行ける。けれどあと一歩、何かが足りない。なるべく失点を抑えてチャンスを確実にものにするということを考えた時に、我々はこれまでも可能な限り能力の高いFWを獲ってきたつもりだったんですが、やはりあの地域CLを勝ち抜くためには『そこそこの選手』では難しいんです。多少背伸びをしてでも、同じカテゴリーのチームがどこも手を出さないような領域にチャレンジしなくては、あの壁は突破できない。そういうことを監督と話していたタイミングで、ちょうどグルージャの大量放出のニュースが流れてきた。その中に彼の名前を見つけて、すぐにエージェントに連絡を取りました。カテゴリーは1つ下になりますが、他クラブのどこよりも早く年俸と契約年数を提示するし、実際に会いに行くから交渉のテーブルに乗せてほしい、と」
……
Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg
