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【バルディ分析】受け身になった瞬間、日本の強みは消える――ブラジル戦で問われる「非保持局面の強度」

2026.06.29

北中米W杯日本戦徹底解剖#7

北中米W杯へ向けて進化を続ける森保ジャパン。その戦いを『森保JAPAN戦術レポート』(小社刊)の著者・らいかーると氏と、ボローニャやミラン、イタリア代表などで分析官兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師も務めるレナート・バルディが徹底解剖。配置、狙い、駆け引き――日本代表戦に潜む戦術の深層を、それぞれの視点から読み解く。

第7回は、スウェーデン戦を題材に、日本代表が3試合を通して築き上げた戦術的アイデンティティを検証する。リレーショナルな攻撃、コンパクトなミドルブロック、そして最大の武器である非保持局面の強度。ブラジルという世界最高峰の個を備えた相手に対し、日本はいかにして自分たちの強みを発揮すべきなのか――バルディが分析する。

先制後に変わった日本――「主導権」を手放した30分間

――グループステージの3試合目というのは、順位的な思惑も絡んでくるので、このスウェーデン戦をどう解釈したらいいのか迷うところもありますよね。日本は、先制するまでとそれ以降で明らかに振る舞いが変わりましたし、あまり時間を置かず同点に追いつかれてからは、さらに受動的になった。1-1で試合をクローズしたかったという側面と、心身の疲労によってインテンシティが下がったという側面と、それぞれどのくらいあったのかが気になるところです。

 「試合への入り方自体は良かったと思います。最初の5分はやや恐る恐るというところがあって、スウェーデンの方が強い意志で前に出てきているように見えた。ただそれはおそらく、この試合を落とすわけにはいかないという状況からくる気持ちの高まりのようなものだったと思います。その波が落ち着いた後は日本が試合を掌握し、落ち着いてコントロールしました。ファイナルサードではあまり危険ではありませんでしたが、ミドルサードまでは技術的にも戦術的にも主導権を握っていた。

 それが変わったのは、今話が出た通り先制してからです。そこまでが1つの試合だったとすると、その後は別の試合になったと言うこともできます。攻勢に出たスウェーデンに押される形で、実質5分も経たないうちに同点に追いつかれてしまったことで、ちょっとした焦り、感情の乱れが生じて、振る舞いが受動的かつ消極的になっていった。ハイドレーションブレイクが流れを変える可能性もありましたが、そうはなりませんでした。

 強い言い方をすれば、この試合を落としてグループ3位で終わることへの怖れが生じた、失点して負けるよりは引き分けで満足する方がいいという気持ちが勝った、ということかもしれません。残り15分で中村に替えて長友を投入した時点で、ベンチも含めてそういう意思統一がされたことは明らかでしたが、それ以前からすでに日本の振る舞いは明らかに受動的になっていました。

 これが示しているのは、日本というチームは、攻守両局面で速いリズム、高いインテンシティを保っている時に機能するチームであり、それが欠けると、相手に押されている時間帯に試合をコントロールすることに少し困難を感じるようになる、ということです。オランダ戦では相手にボールを委ねた状況でもかなりうまくやったと思いますが、この試合ではボールだけでなく主導権も譲り渡すことになった。終盤にはCKやクロスから危険なシュートを許すなど失点してもおかしくない場面もありましたが、鈴木の飛び出しとセーブではね返した。最終的には、勝つ可能性よりは負ける可能性の方が高かった試合だったかもしれません。それでも、全体としてはポジティブなパフォーマンスだったと私は評価しています。チームとしてのクオリティの高さをあらためて確認することができた試合でした」

――森保監督はこの試合でも、前のチュニジア戦から冨安、佐野、伊東純也に替えて瀬古、菅原、前田を入れるターンオーバーを行っています。スウェーデンに合わせた戦略的な対応という側面と、今後を見据えた出場時間管理という側面、両方あったと思います。3試合とも先発したのは、鈴木、伊藤洋輝、鎌田、堂安、中村、上田の6人です。

 「右のウイングバックに菅原を入れて、攻守のバランスをやや守備寄りにするという選択肢は、最初の2試合でも途中から用いてきたわけですが、この試合では最初から使っています。先制されてそれを追う展開は避けたい、失点しないことを優先しバランスを保って戦おう、という狙いがあったのかもしれません。

 ただ、この3試合を見て思うのは、選手が入れ替わってもチームとしてのアイデンティティ、基本的な構造は変わらない、その枠の中で選手の個性や組み合わせを変えて細部のバランスを調整することで、相手や状況への戦略的な対応が取られているということです。この状況で監督がどのような手を打つか、ある程度推測できるようになってきた気がします。

 この日本のスタイルをどう定義すればいいかについて、少し考えていました。基本的には[3-2-5]や[4-1-5]といったポジショナルな構造がベースになっており、占有すべきスペースはあらかじめ決まっています。ただ、静的な形でそのポジションを埋めるのではなく、その中で多くのローテーションがあり、ダイナミックな形でスペースの占有が行なわれている」

――配置の構造はかなり明確に保たれているように思います。そこから、ボランチやサイドCBが攻め上がったり、逆サイドのシャドーがボールサイドに流れてオーバーロードしたところから、危険な形を作り出すことが多い。

 「ビルドアップに関しては、定型的な配置が決まっています。相手の第1プレッシャーラインが3枚の場合には、ボランチの一方が最終ラインに落ちて4+1の配置を取り、サイドCBが敵シャドーの背後で受けられる形を作ります。非保持時にもミドルブロックでは[5-2-3]、ローブロックでは[5-4-1]で中央の通路をすべて閉じる。実際、失点の場面はスウェーデンのCBリンデロフに中央での持ち上がりを許した唯一の場面から生まれています」

――あの場面では、少し前のセットプレーからの流れで中村と堂安が入れ替わっていたのが少し不運でした。

 「上田がリンデロフを簡単に中に入らせたところは軽率だったと思います。中盤の配置も崩れており、中央にスペースがあったためにヤシャリへの縦パスも簡単に許してしまった。1試合の中でああいう一瞬の空白は何度か起こりますが、それが致命傷につながることもあるのがサッカーの怖さです。

 それも含めて、得点してからすぐに同点に追いつかれたことが、結果的に試合の流れを左右したと思います。もし1-0のままあと10分、15分続いていれば、スウェーデンは少し勢いを失い、日本が試合のコントロールを取り戻していたでしょう。あの得点がスウェーデンを勇気づけた一方で、日本をやや萎縮させることになった。

 繰り返しますが、それでも私は日本のパフォーマンスはポジティブなものだったと考えています。90分を通してリズムを落とさず、攻守両局面で高いインテンシティを保って戦うポテンシャルを持っていることは証明済みです。この試合では受動的になり過ぎた時に何が起こるかをあらためて経験したわけで、それは次のブラジル戦で生かすことができる。最後までエンジンの回転数を落とさず、攻守両局面で能動的に振る舞うことができれば、ブラジルを脅かすことは十分に可能だと思います」

個ではなく関係性で崩す――揺らがない日本代表の構造

――試合についてもう少し詳しく見ていきましょう。まずボール保持局面から。

 「ビルドアップはすでに見たように、3+2の基本配置からボランチの一方が第1列に下がって4+1にすることで、ギェケレシュに対して2対1を作り、右の瀬古、左の伊藤がイサク、エランガの背後で受ける形を狙いにしていました。ビルドアップは、すぐに縦に入れるよりも、スウェーデンを左右に動かして内側のパスコースを空ける狙いが強く、チュニジア戦と同様、不用意なボールロストを避けるためにリスクの少ないボール循環が基本でした。スウェーデンは最終ラインをそれなりに高く保っていたため、前線で前田と堂安、特に前田が裏のスペースに飛び出す動きを何度か見せていました。そこにボールが送り込まれることはありませんでしたが、敵最終ラインに背後を意識させることはできていた。

 これはオープンプレーでのビルドアップについてで、ゴールキックでは瀬古と板倉がゴールエリアの角に開き、菅原と伊藤が大外で幅を取る[4-2-3-1]の配置から、相手がハイプレスに出て来て前線が同数になった場合はGKからロングボール、そうでなければ数的優位を生かして後方からビルドアップという2本立てでした。鈴木はビルドアップ能力が高い上に強く正確なロングキックを持っているので、常に両方の選択肢をちらつかせながら相手のプレスに対峙することができる。これは大きな武器です。

 後方からのビルドアップに関して、中盤でポゼッションの中心となった鎌田、田中のペアは、連係の取れた動きでいい形を作っていました。一方が下がりもう一方が上がる動きの中で、前線への縦パスのコースをうまく作り出す場面が何度かあったのですが、リスクを嫌ってかそこはあまり活用されませんでした。序盤に一度、田中から上田に縦パスが通り、それを上田がワンタッチで裏に抜け出した菅原に送り込もうとする場面がありました。形としてはチュニジア戦の3点目と同じです。もう少し、こうした縦に攻撃を加速するプレーの頻度を高めてもいいような気がします。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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