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「This is football」から「This is エスパルス」へ。熱血漢であり戦術家でもある秋葉忠宏監督が清水に残したもの

2025.12.23

【特集】去り行く監督たちのポリシー#5
秋葉忠宏監督(清水エスパルス)

2025シーズンのJリーグも閉幕し、惜しまれつつチームから去っていく監督たちがいる。長期政権を築き上げた者、サイクルの終わりを迎えた者……賛否両論ある去り行く指揮官たちのポリシーをめぐる功罪を、彼らの挑戦を見守ってきた番記者が振り返る。

第5回は、2023シーズン途中に清水エスパルスの再建を託されると、サポーターと喜怒哀楽を分かち合いながら翌季にJ2優勝を成し遂げ、今季前半戦ではJ1に驚きをもたらした秋葉忠宏監督。「This is football」を代名詞とする熱血漢が、「This is エスパルス」で締めくくったヘッドコーチ時代も含む3年間で残したものとは?

 「思えばこの3年間、喜怒哀楽がジェットコースターのように浮き沈みする激動の3年間を過ごしたと思ってます。もう毎日が楽しかったですし、とんでもなく落ち込むこともありましたし、心躍り、心揺さぶられ、最高にドキドキする3年間を過ごすことができました」

 12月4日のJ1最終節(岡山戦)を終え、シーズン終幕のセレモニーで秋葉忠宏監督はこう清水エスパルスサポーターに語りかけた。

 2023年に水戸ホーリーホックの監督を退任して清水のヘッドコーチに就任し、4月には成績不振で退いたゼ・リカルド監督の後任として監督に昇格。そこから8戦負けなしと一気に立て直し、最終節を迎える時点で勝てばJ1自動昇格という状況に至った。しかし、そこで古巣の水戸に勝ち切ることができず、4位に転落。プレーオフではモンテディオ山形に0-0で引き分けて決勝に臨んだが、東京ヴェルディとの決勝戦では1-0でリードしながら後半アディショナルタイムにPKを与えてしまい、1-1で決着。3位の東京VにJ1昇格を譲るという屈辱的かつ悲劇的な結末を味わった。

 翌2024年には、前年の大きな課題となった「勝負強さ」に秋葉監督は強くこだわり、日常の練習だけでなくピッチ外での振る舞いに関しても細部まで手を抜かないことを選手たちに求め続けた。その成果もあって取りこぼしが減少し、4節以降はトップ3を常に維持して、36節・栃木SC戦に勝利した時点でJ1昇格を確定。次のいわきFC戦にも勝って、ホームでJ2優勝も決めた。

 まさにジェットコースターのようにアップダウンした2年間だった。

知られざる戦術家の一面も…“あえて”継続路線を敷いた理由

 そして3年ぶりにJ1へ戻った今季は「トップ10位以内」を目標に始動。話題になるほどの大型補強はなかったが、レンタルで欠かせない戦力となっていた住吉ジェラニレショーン、蓮川壮大、宇野禅斗らを完全移籍で残せたことは大きく、助っ人勢ではマテウス・ブエノとカピシャーバらが力を発揮した。

 戦術面では、J2で熟成させてきたオーソドックスな戦い方をベースとして継続。J2では個の力で明らかに優位に立っていたため、奇をてらう必要はなく、選手個々の能力を生かす王道的な戦い方が結果にも結びついた。J1では「個の優位」がなくなるため不安はあったが、「今シーズンはまずやってみないことにはわからないと考えていたので、基本的なところは変えずに臨みました」と秋葉監督は振り返る。

 それでも熟成度や連係の面では優位性があり、開幕戦で東京Vとの国立競技場での因縁対決に1-0で勝利したことが大きな自信となり、開幕4戦負けなしと好スタートに成功。それによって「J1でもやれる」という感触を得られたことは大きく、ケガ人が続出して台所事情が苦しくなった中でも乾貴士、吉田豊、高橋祐治、北爪健吾らのベテラン陣がチームを支え、13節終了時点で6勝3分4敗(19得点/13失点)の5位。エース北川航也の活躍もあって、1試合平均得点が1.46と攻撃面でも力を発揮した。19節終了時点では9位と目標の圏内に残り、前半戦のサプライズとなった。

 だが、ふた回り目の対戦になってくると、相手に研究・対策されて徐々に苦しくなってくる。

……

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前島 芳雄

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