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徳島を上位へ導く増田功作監督、「絵」を実現させる手腕の中身。基準を設定し、緻密に行動し、人を頼る

2025.06.16

2025Jリーグ前半戦のサプライズ監督#1
増田功作監督(徳島ヴォルティス)

2025シーズンのJリーグも折り返し地点を迎えた。前評判通りにはいかない激動のシーズンとなっているが、その立役者とも言える「サプライズ監督=ポジティブな驚きを与えてくれた監督」たちをフォーカス。チーム作りの背景にある哲学やマネージメントについて掘り下げてみたい。

第1回は、『リーグ最少失点10とクリーンシート11』を記録して昇格プレーオフ圏内の5位につける徳島ヴォルティスを率いる増田功作監督。チームを追い続ける柏原記者に躍進の理由をレポートしてもらおう。

 編集部から『2025 Jリーグ前半戦のサプライズ監督』という特集企画のご依頼をいただいた。

徳島ヴォルティス、復活への3つのポイント。ブラジル人トリオ、「ハイ」「ミドル」「ロー」の守備、スタートダッシュ

徳島ヴォルティス序盤戦総括。J2開幕9試合で「得点6・失点4」の意味を考察する

 今年に入って2度掲載された徳島の関連記事をベースにしながら、サプライズという括りで徳島ヴォルティスが候補に挙がった背景を考えてみると大枠としては3つの理由が浮かんだ。

増田監督(Photo: ©T.VORTIS)

「サプライズ」の3つの理由

 1つ目は直近2年が残留争いを強いられる苦しいスタートだったこと。2つ目は昨季途中から指揮を執っている増田功作監督だが開幕前から指揮を執るキャリアとしては初挑戦だったこと。3つ目は現時点で他クラブを圧倒するリーグ最少失点10とクリーンシート11という堅守を携えて上位争いを繰り広げていること。

 特に、3つ目に挙げた『リーグ最少失点10とクリーンシート11』は文字の羅列としてもインパクトが大きい。

 今季の活動がスタートした初日から、増田監督は「失点を0にしたいです」と言及していた。守備の手法については過去の掲載記事と重複するので割愛するが、志としては可能な限り全38試合でクリーンシートを目指していた。とはいえ、守備のこだわりを宣言したとしても『絵に描いた餅』という慣用句が存在するように簡単ではない。しかし、いざ開幕してみると本当に失点しないのだから驚かされてしまう。リーグ最少失点には『運』に救われた場面も関係しているかもしれないが、その『運』すらも確率を高められるように約束事を徹底してトレーニングしてきたのも事実だった。

Photo: ©T.VORTIS

 “なぜ守備を重視しようとしたのか?”

 そもそも論にも興味があった。数多の選択肢がある中で守備に焦点を当てた理由。前半戦総括を取材しやすいタイミングで、増田監督にあえてシンプルな質問を投げかけてみた。

 「何を教訓にしたかというと、人生の失敗です」

 面白い切り口から話が始まった。そして、増田監督はこう続けた。

 「例えば日本の歴史を振り返ってもたくさんの将軍がいたり、たくさんの経営者がいたりしますが、失敗していることは結構似ています。サッカーで言うと、守備はその失敗をいかに減らすかだと思います。自分自身のコーチ経験としてもそうですし、海外の試合を観ていてもそうですし、突き詰めていくと失点するのはだいたいこのパターンやだいたいこの展開というもので似ています。

 守備で失点しない時間が長くなれば勝つ確率は上がると思っています。その理由は、サッカーには流れがあるからです。例えば、どんな戦い方をしていたとしても、90分間通して攻められ続けるということはないです。逆に言えば、どんな攻撃の形を持っていたとしても、攻められない時間がないということは絶対にないです。その発想と昨季失点が多かったことを加味して、まずは失点の確率を減らして勝利の確率を高めるためには守備が必要だと考えたからトライしました」

Photo: ©T.VORTIS

「守備が大事」を浸透させた、指揮官の言葉と行動

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Profile

柏原 敏

徳島県松茂町出身。徳島ヴォルティスの記者。表現関係全般が好きなおじさん。発想のバックグラウンドは映画とお笑い。座右の銘は「正しいことをしたければ偉くなれ」(和久平八郎/踊る大捜査線)。プライベートでは『白飯をタレでよごす会』の会長を務め、タレ的なものを纏った料理を白飯にバウンドさせて完成する美と美味を語り合う有意義な暇を楽しんでいる。

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