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苦杯を嘗めた最大の原因は、日本の長所を消し去ったイラクの“研究”にあり。アジアカップイラク対日本戦分析

2024.01.22

森保JAPAN戦術レポート――アジアカップ編#2_GS第2節イラク戦

森保一監督が続投しリスタートを切った2023年、欧州遠征での強豪撃破をはじめ結果を残し、着実に歩みを進めてきた日本代表。そんな第2期チーム森保にとって、今回のアジアカップはチーム強化の進捗を測る格好の舞台となる。『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者でありチーム森保の戦いを追い続けているらいかーると氏が、試合ごとに見えた成果と課題を分析する。

勝てばGS突破決定となったイラク代表戦だったが前半に2点を先行されると、追撃及ばず想定外の敗戦。イラクの秀逸なプランニングと確かな実行力、それに対する日本の対応、さらには日本の変化に対してイラクがどう応じてリードを守り切ったのか、攻防の詳細を紐解く。

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 前節で勝利したチーム同士の対決となった第2戦。文字通り勝てばGS突破が決定する試合となった。絶対に負けられないわけではないが、第2戦で勝利すれば3試合目が消化試合になることは大きい。中4日の間隔のある今回のアジアカップにおいて大幅なターンオーバーが必要なのかという疑問も出てくるが、それでも第2期森保ジャパンが歩んできたこれまでの過程を考慮すると、コスタリカ戦のようにターンオーバーをするかと予想された。しかし蓋を開けてみれば、中村敬斗の負傷を受けて久保建英、ベトナム戦であまり良くなかった細谷真大に代えて浅野拓磨と、最小限の入れ替えとなった。

 これまでのターンオーバーの日々はなんだったのだろうか。その日々を完全に否定することはチームとしてしないだろうけれど、そんな日々よりも優先すべきことがベトナム戦を経てあったのかもしれない。ターンオーバーをすべきではない事情があったと考える方が自然だろう。

 あらためてスタメンを眺めると、南野拓実の左サイド起用は第1期森保ジャパンにおいて何度も見られた策だ。最終的に長友佑都がカタールW杯で重用された理由は、大外レーンで活動できるサイドハーフ、SBが長友の他に見当たらなかったからだろう。しかし、今大会にその長友はもういなければ、三笘薫はケガから復活していない。さらに、大外レーンで活躍できるSBはベンチに控えていない。そんな懐かしい不安がメンバーから感じられたこのイラク戦の前半は、多くの人の懸念が的中するような展開となった。

ボールを捨てるイラクのゲームプラン

 日本の長所がショートカウンターとプレッシングだとすれば、その両方を封じることが日本攻略の近道となるだろう。相手にショートカウンターの機会を与えないためには、ボールを奪わせなければいい。相手にプレッシングの機会を与えないためには、ボールを持たなければいい。結論から言えば、イラクはボール保持局面を自ら捨てることで、日本の長所を発揮させないゲームプランを見せた。……

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。