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アルビレックス新潟とテン・ハフ時代のアヤックスの「ゴール前の密集攻撃」

2023.06.21

Jリーグと欧州サッカーの戦術的符合#4

世界中のサッカー映像が簡単に見られるようになった現在、欧州サッカーのトレンドは瞬く間に世界中に波及するようになった。もちろん、Jリーグも例外ではない。目の前の試合に勝つために「対策」を繰り返していけば、おのずと行き着く答えは同じ。ポジショナルプレーへの対抗策としてマンツーマンハイプレスを採用するチームが増えれば、それに対するビルドアップの外し方も研究されていくことになる。今特集では「Jリーグと欧州サッカーの戦術的符合」と題して、Jクラブの戦術(の一側面)と合致する欧州クラブを探してみたい。#4は、アルビレックス新潟の「密集攻撃」とテン・ハフ時代のアヤックスの「オーバーロード」の比較から、今求められているゴール前の崩しについて掘り下げてみたい。

 1試合平均パス数ランキングで、まさかの世界2位になったこともあるアルビレックス新潟。パス数に裏付けられたボール保持の安定感は今季も特出しており、その姿勢はJ1でも通用している。偽SBのような可変式は使わずに[4-2-3-1]と[4-3-3]を行ったり来たりする王道スタイルながらも、GKとトップ下で抜群のタイミングでフリーになる伊藤涼太郎を「+1」とする特徴を持つビルドアップの完成度は高い。J1のチームでも、それを止めるのには苦労しているようだ。

ポスト・5レーンアタックの1つが「密集」

 そんな華麗なビルドアップとは裏腹に、新潟はゴール前の崩しで苦戦をしている印象を受ける。

 ゴール前の崩しの特徴は「密集」攻撃だろう。ボール周辺に選手が集まってくるスタイルは、時にはまるで機能しないこともあれば、時には相手も思いつかないような即興性でゴールに迫ることもある。日本代表の試合でもザッケローニ時代に見られたように、中央に選手が集まってきて大渋滞を引き起こしたかと思えば、高速ワンツーやコンビネーションで相手を崩すこともある。そんな「密集」攻撃の代表例として、今の新潟は適切かもしれない。

 欧州に目を移してみると、ボール保持時における[3-2-5]全盛の時代はようやく終わりを告げる雰囲気に満ちあふれている。5レーンに選手を並べる5バックによって、5レーンアタックの優位性は失われつつある。サイドチェンジをしてもボールを受けるウイングのそばに守備者がすでに配置され、ハーフスペースを狙おうとしてもすでにCBが鎮座している。相手が[5-3-2]で守ろうものなら、ハーフスペースをCBに加えて、インサイドハーフを配置して守ることができるのだった。

2014年のブラジルW杯で。長谷部誠(左)とアルベルト・ザッケローニ(右)

 5レーンアタックの優位性が守備戦術によって失われれば、次はボール保持側のターンだ。目の前の試合に勝つための修正として、「オーバーロード」を採用するチームが増えてきている。「オーバーロード」はボール周辺に人数を集めることで優位性の獲得を狙った戦術だ。実際にはペナルティエリアの角エリアを起点とし、インサイドハーフ+ウイングのペアに「+1」から「+2」をすることで優位性を作り出すことを狙いとしている。

「密集」と「オーバーロード」の比較

 賢明なるフットボリスタの読者の皆様ならば、疑問に思うことだろう。新潟が行ってる「密集」と欧州で流行り出している「オーバーロード」には、どのような差があるのだろうか?

 ボール周辺に選手を集めることで優位性を作り出す現象はある意味でまったく同じである。しかし、試合を眺めていると、両者に何か違いが存在しているのだ。新潟の「密集」と欧州で流行している「オーバーロード」の背景を比較していくことで、両者の一致している現象と違いについて考えていく。

 <アヤックスのオーバーロード>
 サッカーの戦術が円環することを考慮すると、オーバーロードの初出を探すことにロマンを感じるところではあるが、今回は5バック対策としてのオーバーロードになるので、近年の具体例を通じて考えていきたい。その具体例とは、テン・ハフ時代のアヤックスである。もっと言えば、21-22シーズンのアヤックスをモデルケースとする。アヤックスのオーバーロードを分解していくと、下記のようになる。……

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。