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「自分が育てた」なんて思わない。「一緒にサッカーをしていた」だけ。ロアッソ熊本・大木武監督インタビュー(後編)

2022.07.26

特集:ロアッソ・リザレクション――もっと赤くなれ#3

どんなチームを率いても、一目でその人が監督だとわかるような、明確な色を持った指導者にして、関わった人をすぐに魅了してしまうような、飾らない人柄と筋の通った一本気な性格の持ち主。ロアッソ熊本の指揮官を務める大木武を慕う者は、後を絶たない。そんな稀代の“サッカー大好きおじさん”は、どのようなキャリアを歩むことで形成されていったのか。後編では現在指揮を執っているロアッソ熊本についての話を伺っている。就任からここまでの3シーズンでトライしてきたこと、選手の可能性を信じ続ける理由、自身の思い描くサッカーの未来予想図など、思いの丈を語り尽くしてもらおう。

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「まだ見てくれているところがあるんだな」と思ったロアッソからのオファー

――ここからはロアッソ熊本のお話を聞かせてください。まず、2020年に監督としてのオファーが来た時、率直にどう思いましたか?

 「『まだ見てくれているところがあるんだな』と思いました。2019年の途中で岐阜を解任になってしまったのに、『まだオレを必要としてくれるチームがあるんだな。ありがたいな』と」

――即決でしたか?

 「即決です。まだパワーはありました。断る理由は何もなかったです」

――大木さんの就任1年目は、まずカテゴリーがJ3であったということと、序盤戦は結果が出ていた中で、最終的な順位は8位でした。システムも今と違いますが、2020年は今から振り返るとどういうシーズンでしたか?

 「新しく入ってきた選手は大卒が多くて、知らない選手ばかりですから、そういう選手たちがどれくらいやれるのかというのはありました。できるだろうと思っていてもできなかったり、『できないな』と思うことが意外とできたりとか、そういう感じでした。期待外れもあって、期待通りもあって、僕もチャレンジしていた部分はありましたね」

――この1年目で、今までのクラブでの指導と変えたことやトライしたことはありましたか?

 「ないですね。基本的には全部やってきたことをやりました。大きくは変えていないです。今までを全部合わせた感じと言ったらいいのかなあ。まずは一番好きなフォーメーションから入りました。[4-3-3]です」

――ほとんどの試合がこのフォーメーションでしたよね?

 「そうですね。でも、結果は出ませんでした」

J3優勝、J2昇格という確かな果実の収穫

――2021年はJ3で優勝します。若手も台頭してきました。フォーメーションも、あれは[3-3-2-2]という言い方でいいんですか?

 「わからない(笑)。簡単に言えば[3-3-4]かな」

――シーズンの中盤で、これも言い方はわからないですけど(笑)、[3-1-4-2]というような形にして、また最後は[3-3-4]に戻したと思うんですけど、このフォーメーションの変遷とJ3優勝、J2昇格も含めたこの1年はどういうシーズンでしたか?

 「まず、2020年シーズンを振り返って、『これで攻められるのか』『これで守れるのか』を考えましたね。もしかすると、京都の時の話もしましたけど、『2枚のCBでは守れないかな』と思いました。それと、自分が思うようなSBはちょっといないかなと。それなら3バックでいいかなと。2枚で守れないなら、3枚で守る。SBがいないなら、SBではない形でそこを補うと。それは少し京都の1年目で初めにやったところを思い出しながらというか、『温めていた』と言ったらおかしいですけど、そういうところにトライしました」

――J3優勝という成果に関しては、予定通りでしたか?

 「これはもう選手、スタッフの努力のおかげです。結果は予定通りとは言わないですけど、もちろんJ2には上がろうと考えていましたし、優勝も狙いました。でも、『簡単には行かないだろうな』とも感じていました。最後にちょっとつまずきましたけど、引き分ければ昇格の決まった宮崎戦に負けて、もう最後は勝たなきゃしょうがないなと。そこでハッキリするというか、そこは決してネガティブではなくて、『次に勝てばいいんだから』という想いは、最後のところだけですけど(笑)、それは思いました。優勝はちょっと“プレゼント”みたいなところがありましたね。他のチームが負けたり、引き分けたりしてくれましたから。だから、すべてが順調だったとは思わないですけど、結果オーライだったというところですね。J3で優勝もできて、J2に昇格できたことは良かったです」

勝利で昇格&リーグ優勝を決めた2021シーズンのJ3最終節FC岐阜戦のハイライト動画

「人間というのは、自分で変わろうと思わなければ、絶対に変わらない」

――個々の選手の成長、特に大卒の選手たちの成長に関しては、監督就任からの2年間で考えるといかがでしょうか?……

ロアッソ・リザレクション――もっと赤くなれ

Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!